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第十二章
腕(かいな)の中のリリアーナ 23 リリアーナ姫を誘い出すチャンスかも
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キルスティンは部屋に入ると、ルイス王子の姿が見えないのでほっとした。
良かった、いなくて。いたらまた何だかんだと文句を言われそうだし、リリアーナ姫を抱っこした事が知れでもしたら……
身体をぶるっと震わせる。
「どうでした? サー・カイトを出し抜けそうですか?」
傍に控えていたラトヴィッジ国の侍女、オーガスタが声をかけてきた。彼女も今回のリーフシュタイン国の訪問に当たり、採用された一人である。感じが良くてキルスティンとも気が合うのだ。
「あっ……」
「その顔はうっかり忘れていたって顔ですね」
「そうなの……もういっぱいいっぱいで、とても他のことなんて考えられなかったわ」
「分かります。ゴージャスでしたよねぇ。リリアーナ様は天使のようで、カイト様も精悍な風貌に纏う雰囲気も素敵だし、最初に進み出てきた侍女も美人さんで、皆さん気品もあるから圧倒されちゃいました」
「そうそう。私なんか一般庶民代表のようなもんだから、思いっきり緊張しちゃった。それに分かるわ、カイト様の雰囲気」
「独特ですよね。静けさの中に凛としたものを感じませんでしたか? 見惚れてしまいました」
キルスティンが頷いた後に怪訝な顔をした。
「そうなのよ……彼の雰囲気って独特で……それなのに近付いてきたのが分からなかったの。人の気配に気付かないなんてこれが初めて」
「空手、というものに何か秘密でもあるのでしょうか?」
「分からないわ……もう少し、カイト様を調べてみないと」
「ルイス王子の言う通り色仕掛けで近付いて、ミイラ取りがミイラにならないよう、気をつけてくださいね」
「そんな事しないわ、無理だもの」
「でもキルスティンさん、美しいですよ?」
「まあ、半分エルフの血が入っているから……でも、無理。人には得手不得手があるの」
「それなら取り敢えずは、リリアーナ様の警護に隙がないか探ることにいたしましょうか」
「ええ……気が乗らないけど、それが私達の仕事ですものね」
キルスティンは努力した。彼女の使える魔法を駆使してカイトやリリアーナの動向や周辺を探る。
その結果分かったことは、彼が起きていると城の中の様子が掴めなくなるが、昼に仮眠を取っている時間だけはクリアーに内部の様子が伺えるということだ。
魔法事態は彼が起きている時でも使うことはできるが勘が良く、気取られそうなので近くでは使わないほうがいいかもしれない。
カイトとリリアーナはほぼ一緒に行動をしていて、昼間にカイトが仮眠を取る数時間だけ二人は離れる。この時が狙い目だが、その時間はリリアーナも昼寝をし、部屋から出ずに警備も二重三重の強化体制になるので、とても手が出せない。
二重三重でも、全員眠らせてしまおうかという話しがでたが、さすがにそれだけの魔力を使うとカイトが場所を特定して、飛んでくるかもしれないという事でやめになった。
一週間が過ぎ、ルイス王子は段々と苛立ってきた。
望んでもいない観光案内に連れ回されたり、なんちゃら記念式典のテープカットをやらされたり、そしてちょっと楽しみだった孤児院への慰問だけはカットされた……
体よくリーフシュタインの王族の、公務の肩代わりをやらされているだけのような気がする。
何と言っても腹立たしいのは、訪れてからリリアーナ姫にまだ会えていないという事だ。そう、一目も見ていない……
昨日アレクセイに『会わせてくれないなら巫女として連れていく』と契約書の件を匂わせたら『それなら自分が直々に神殿まで連れていく』と返された。
まずい……衰退したとはいえ、我が国で神殿はまだ一目置かれている。直接連れて行かれたら本当に巫女にされてしまい、永遠に手が届かなくなってしまうだろう。
昔から勘が鋭くて頭の良いアレクセイの事だ。もうとっくに神殿の件が口実であると気付いているだろう。俺をすぐに追い出さないのは、ラトヴィッジとリーフシュタインが同盟を結んでいるので無体ができないのと、神殿の話しがどこまで本当かきっと見極め中だからだ。
神殿はリリアーナ姫をまだ巫女にとまでは考えていないが、興味は持っている。幼くなってしまったことを、何か特別な力を持っていると捉えているからだ。
ルイスはその神殿の話を偶然聞いて、彼らが動く前にリーフシュタインに潜り込むため、利用させてもらったのだ。
しかしキルスティンの魔導師としての力も未だ上手く発揮できず、このままだと会えもしないで帰国する羽目に陥るかもしれない。
もしくは、奥の手を使うかだが……使うにしても、まだ条件が揃っていない。
取り敢えずは会えるきっかけを作ることにしよう。
そういえば、まだカイトの空手を見ていなかったな……これはリリアーナ姫を誘い出すチャンスかも……。
食事の席でアレクセイに話を持ちかけたら、二つ返事でOkが出た。
良かった、いなくて。いたらまた何だかんだと文句を言われそうだし、リリアーナ姫を抱っこした事が知れでもしたら……
身体をぶるっと震わせる。
「どうでした? サー・カイトを出し抜けそうですか?」
傍に控えていたラトヴィッジ国の侍女、オーガスタが声をかけてきた。彼女も今回のリーフシュタイン国の訪問に当たり、採用された一人である。感じが良くてキルスティンとも気が合うのだ。
「あっ……」
「その顔はうっかり忘れていたって顔ですね」
「そうなの……もういっぱいいっぱいで、とても他のことなんて考えられなかったわ」
「分かります。ゴージャスでしたよねぇ。リリアーナ様は天使のようで、カイト様も精悍な風貌に纏う雰囲気も素敵だし、最初に進み出てきた侍女も美人さんで、皆さん気品もあるから圧倒されちゃいました」
「そうそう。私なんか一般庶民代表のようなもんだから、思いっきり緊張しちゃった。それに分かるわ、カイト様の雰囲気」
「独特ですよね。静けさの中に凛としたものを感じませんでしたか? 見惚れてしまいました」
キルスティンが頷いた後に怪訝な顔をした。
「そうなのよ……彼の雰囲気って独特で……それなのに近付いてきたのが分からなかったの。人の気配に気付かないなんてこれが初めて」
「空手、というものに何か秘密でもあるのでしょうか?」
「分からないわ……もう少し、カイト様を調べてみないと」
「ルイス王子の言う通り色仕掛けで近付いて、ミイラ取りがミイラにならないよう、気をつけてくださいね」
「そんな事しないわ、無理だもの」
「でもキルスティンさん、美しいですよ?」
「まあ、半分エルフの血が入っているから……でも、無理。人には得手不得手があるの」
「それなら取り敢えずは、リリアーナ様の警護に隙がないか探ることにいたしましょうか」
「ええ……気が乗らないけど、それが私達の仕事ですものね」
キルスティンは努力した。彼女の使える魔法を駆使してカイトやリリアーナの動向や周辺を探る。
その結果分かったことは、彼が起きていると城の中の様子が掴めなくなるが、昼に仮眠を取っている時間だけはクリアーに内部の様子が伺えるということだ。
魔法事態は彼が起きている時でも使うことはできるが勘が良く、気取られそうなので近くでは使わないほうがいいかもしれない。
カイトとリリアーナはほぼ一緒に行動をしていて、昼間にカイトが仮眠を取る数時間だけ二人は離れる。この時が狙い目だが、その時間はリリアーナも昼寝をし、部屋から出ずに警備も二重三重の強化体制になるので、とても手が出せない。
二重三重でも、全員眠らせてしまおうかという話しがでたが、さすがにそれだけの魔力を使うとカイトが場所を特定して、飛んでくるかもしれないという事でやめになった。
一週間が過ぎ、ルイス王子は段々と苛立ってきた。
望んでもいない観光案内に連れ回されたり、なんちゃら記念式典のテープカットをやらされたり、そしてちょっと楽しみだった孤児院への慰問だけはカットされた……
体よくリーフシュタインの王族の、公務の肩代わりをやらされているだけのような気がする。
何と言っても腹立たしいのは、訪れてからリリアーナ姫にまだ会えていないという事だ。そう、一目も見ていない……
昨日アレクセイに『会わせてくれないなら巫女として連れていく』と契約書の件を匂わせたら『それなら自分が直々に神殿まで連れていく』と返された。
まずい……衰退したとはいえ、我が国で神殿はまだ一目置かれている。直接連れて行かれたら本当に巫女にされてしまい、永遠に手が届かなくなってしまうだろう。
昔から勘が鋭くて頭の良いアレクセイの事だ。もうとっくに神殿の件が口実であると気付いているだろう。俺をすぐに追い出さないのは、ラトヴィッジとリーフシュタインが同盟を結んでいるので無体ができないのと、神殿の話しがどこまで本当かきっと見極め中だからだ。
神殿はリリアーナ姫をまだ巫女にとまでは考えていないが、興味は持っている。幼くなってしまったことを、何か特別な力を持っていると捉えているからだ。
ルイスはその神殿の話を偶然聞いて、彼らが動く前にリーフシュタインに潜り込むため、利用させてもらったのだ。
しかしキルスティンの魔導師としての力も未だ上手く発揮できず、このままだと会えもしないで帰国する羽目に陥るかもしれない。
もしくは、奥の手を使うかだが……使うにしても、まだ条件が揃っていない。
取り敢えずは会えるきっかけを作ることにしよう。
そういえば、まだカイトの空手を見ていなかったな……これはリリアーナ姫を誘い出すチャンスかも……。
食事の席でアレクセイに話を持ちかけたら、二つ返事でOkが出た。
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