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21「フリューゲン公爵姉弟」
しおりを挟む「悪かったな。今までF級だのと馬鹿にしちまってよ。他の奴らも今の戦いを見て、お前のこと見直したと思うぜ」
決着後しばらくしてから、デイヂは僕に頭を下げて、今までの非礼を詫びた。詫びたと言っても心からではなく、「あごめん」的な軽いノリでの謝罪だ。反省なんかしてないだろうなどうせ。
「ええ、まあ。今後僕のこと二度と“F級”って呼ばないって誓ってもらえるなら、許しますけど」
「ああ、誓おう。あんな戦いを見れば誰も今のラフィがF級の最弱傭兵なんざ思わなくなるだろうさ。
それにしてもお前本当に変わったな。いつからそんな強かな奴になったんだ?」
とは言っても形式だけでも謝れる分、デイヂはまだまともな方だ。本当にダメなのはあれだけ口汚く罵り人を蔑みまくっておいて、しかも正当な決闘に負けまでしたのに、未だに謝罪の一言もこぼさない小物野郎《ゴッチ》のような奴であって……。
「おいゴッチ、お前も謝っとけよ。協会の中じゃあサーキスの次にお前がラフィへの当たりが酷かっただろ。これ以上こいつの怒りを買うような真似はもう止めとけ――」
「う、うるせえ!俺は……認めねえからな!?つい最近まで底辺を這いずっていたはずの奴が……ふざけんな!!」
手当をしてもらいある程度動けるようになるなり、ゴッチはそんな癇癪を起した。周りは僕ではなくゴッチを惨めな見せ物として見るようになってる。
「あんたも今後また僕のことF級とか呼ぶようなら、今日みたいにぼっこぼこにしてやるからな。じゃあ、明日には同じⅮ級になると思うから、今後ともよろしくな、ゴッチ」
「ぐ、ぐ、ぐぐ………、~~~~~っ」
格下だと思っていた奴にボコられ、タメ口を利かれた挙句呼び捨てにまでされて……くくっ。ゴッチの奴、顔真っ赤!www
と言う感じで、明日の昇級試験までの良い肩慣らしになったかな、少しは。次はフリューゲン公爵の二女さんが相手。あの女にもいちいち嫌味を向けられ、心無い罵倒もかけられてきた。
ゴッチ同様、力ならどっちが上なのか徹底的に分からせてやるつもりだ…!
翌日。昨夜は都会街の安宿で過ごし、食事はそこそこ軽く済ませて朝早くから協会を訪れた。館内にはキャロルさん含む職員さんが掃除や業務の準備などをしている。他にも僕のような朝が早いもしくは任務から朝帰りしてきた傭兵もちらほらいる。
「何だあ?F級のラフィもこんな朝早くから出勤かあ?今日は街中の雑用を全部こなすとか?」
朝帰りの先輩や同期の傭兵から嫌味を含んだ絡みを受ける。いつもならそれを見た他の傭兵たちもニヤニヤ眺めていたのだが、今日はその数は半分にも満たず、ほとんどが「やべ」と言いたげなマズそうな反応をしていた。彼らは昨日のゴッチとの決闘を見ていたんだろうな。
「今日はⅮ級になる為の昇級試験を受ける日なんで。だから、僕を“F級”なんて呼んでられるのも、今のうちだ」
「マジで!?お前Ⅾ級になるつもりなん!?いやいや、無理っしょ!下級魔物も倒せなかったお前が、Ⅾ級になんて………」
昨日の決闘やそれより前のことも知らない傭兵たちは僕の言うことを真に受けなかった。まあいいけど。僕が何か行動起こす前に事情を知る傭兵たちが割って入り、彼らと話しはじめたので事無きこに終わった。
それからロビーでしばらく一人待ちぼうけて過ごし、約束の時間の10分前になったところで、今日の試験担当であるフリューゲン・アンジェリーナが入館してきた。
「あら、もう来てたのね。随分やる気に満ちてるようだけど」
僕を見るなり嫌味で見下した感じで挨拶を述べて来た彼女の隣には、見知らぬ子どもがいた。
「姉上、ここが国中の傭兵が集う傭兵協会なんですね」
アンジェリーナと似た金髪の少年が冷めた目で館内を見回していた。
「ふん。僕が通っている王国騎士団の兵舎と比べて、地味な内観だし、何だかカビっぽいところですね。姉上もよくこんなむさ苦しいだけの館に通っていられますね」
少年の言いぐさに周りの傭兵が血走った眼でそちらを見るが、隣にいるアンジェリーナに睨み返されすぐに引き下がってしまう。
「今からでも姉上も僕と同じように、騎士団の見習いから始められてはどうですか?姉上ならきっとすぐにでも三等…いや二等騎士にもなれますよ!」
「まあ嬉しいこと言ってくれるのね。だけどねミュカス、前にも言ったと思うけど私は掟などの縛りが多い騎士団とはうまが合いそうにないの。その点、傭兵は自由の幅が広いうえに顔も利くので、傭兵業がしっくりくるのよ」
そりゃ利くでしょうねあんたの顔は。何せ公爵家の二女なのだから。まてよ、てことは彼女と一緒に来たこの少年も…?」
「アンジェリーナと一緒にきやがったあのガキ、フリューゲン公爵家の三男、ミュカスじゃねーのか…!?」
「確か今は王国騎士の見習いだとか。でも噂じゃあ、見習い騎士の中だとあいつがダントツで優秀らしいぜ」
「俺とのガキとあまり変わらない年みてぇなのに、既にアクティブスキルを二つ使いこなしてるそうじゃねーか。騎士団ではじゃあ神童って持ち上げられてるんだと」
傭兵たちが口々にミュカスというアンジェリーナの弟にして公爵家三男のお坊ちゃまの噂を囁く。彼らの話を聞いたミュカスは図も鼻も高くさせて、「そうだ、僕はお前らと違って優秀で凄いんだ!」と言わんばかりのどや顔をしてみせた。
「それで、姉上が担当する今日の昇級試験とやらを受けるって言う、かわいそーな傭兵というのは、ここにもう来ているのですか?」
「ええ。もうとっくに来ているわ。私がちょうど今声をかけた、あの男よ」
そう言ってアンジェリーナに指を差される。ミュカスは驚いた目で僕を見たかと思うと、甲高い笑い声を上げた。
「あははははははっ!?これが姉上が今日担当する奴なんですか?どんな奴かと思って来て見れば、想像を下回るほどの小物じゃないですか!」
同じように指を差してケラケラ笑うミュカスにアンジェリーナは「大きな声で笑い過ぎよはしたない」と窘めるだけで、僕への非礼については何も言わない。
「おいお前、名前は?」
「………ラフィ。今日でⅮ級に昇級する傭兵だ」
「ははっ、家名が無いということはお前平民なのか!見た感じ姉上とそう変わらない年のようだけど、随分な格差がうかがえるな!
僕と同じ天賦の才と伸びしろがあり公爵という上流国民の姉上に対し、お前はどこぞの田舎出身の平民で実力も大したことなさそうな底辺の雑魚!そんな二人が戦ったところで、結果なんてもう分かりきってるだろうに!
あーあ、せっかく訓練がお休みだったから、姉上の試験担当をしてるところを見に来てやったのに、これだとすぐ終わっちゃいそうだ」
出会い頭によくもまあ人をここまで見下して罵倒出来るものだ。さすがはアスタール王国の上級国民、人を見下す点においてはこいつらには逆立ちしても勝てそうにない。
こんな子どもにまで平民はゴミだよっていう歪んだ教育が行き届いているとはね。親や環境が悪いんだろうけど、やっぱり僕としては、発言者であるこのクソガキに腹を立たずにはいられないなあ!
「………って、な、何だよそのギラついた目は……」
おっと、思わず睨んでいたようだ。まあいいや、もっと睨みつけてやろう。
「て、底辺の平民のくせに僕を睨みつけてくるなぁ!」
ミュカスは僕の眼光にビビり、両肩をプルプルさせる。そしてアンジェリーナの後ろに隠れるのだった。王国騎士見習いだか神童だか知らないが、所詮はガキってところだな。
「姉上~~。あいつ、僕を猟奇的な目で睨んできてます平民の分際でえ」
「ミュカス…!大丈夫よ、私がついてるから安心なさい。
ラフィと言ったかしら?私の弟を怖がらるとはいい度胸してるわね…!」
アンジェリーナが鬼の形相で僕を睨みつけてきた。喧嘩を売ったのはお前の弟《クソガキ》だってのに。
「気が変わったわ。フリューゲン公爵の名にかけて、あなたは私が徹底的に懲らしめてあげる。覚悟することね…!」
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