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第二部
プロローグ
しおりを挟む王国騎士団一等騎士ミラ・リリベルに殺された後、海に落ちて砂浜まで流されたラフィがパッシブスキル「不死者《イモータル》」によって生きながらえ、アクティブスキルで復活した――――同時刻。
夕焼け広がる空―――
「―――あはっ♪」
岩礁だらけの砂浜でラフィが意識を覚醒させてからの一部始終を見届けていた人物が、一人いた。
その人物は瞳をキラキラさせ、心底楽しそうな笑みをこぼしながら、ラフィを遠くから観察していた。
「見ぃ~~~ちゃった見いちゃった!すぅ~~っごいの見いちゃったー!
え~~~何あれ、ウソでしょ?完全に死んだと思ってたのに、生きてるー!しかも傷も全部治って元通りになってない?どうしてどうして!?」
銃撃で割れた頭部、切り裂かれた首、滅茶苦茶に壊れた四肢と胴体など激しく損壊した箇所を全てあっという間に治して復活したラフィを、ロイゼ・マージュは驚愕と興味が混ざった声を上げた。
彼女はアスタール王国傭兵協会に所属する少女傭兵。十歳そこらの可愛らしい少女の見た目だが、軍隊と同等かそれ以上の戦闘力を有している。王国に5人しかいないとされる最強位S級傭兵の一人である。
*ラフィの復活を目撃した、数分前。
「ありゃ~~乗り遅れちゃった。せっかくお話してみたかったのになあ、ラフィくん。あれじゃあもう死んだよね」
マージュは王国騎士団の足跡や口頭による情報を頼りに、自力でラフィの行方…王国東部北端にある港町シュループまで来た。
ところがようやく目的地にたどり着いたマージュが目にしたのは、一等騎士ミラ・リリベルに殺される標的《ラフィ》の姿だった。
致命傷をいくつも負わされ崖から転落、さらには波にのまれて海に沈んでいく彼を見て、マージュはがっかりそうに頬を膨らせる。
「あれは一等騎士のミラ・リリベルだっけ?あの子に敵う傭兵なんて私か他のS級くらいしかいないでしょうねー。
あーあ、騎士団に先越されちゃった。騎士団《あいつら》よりも先にラフィくんを始末しろーって、会長さんから依頼されてたのに」
王国騎士団と違い傭兵協会はラフィの身柄は生死問わず、抹殺の許可を出している。協会の会長《トップ》から彼の抹殺を依頼された次第、こうして彼の行方を辿ってここまで来たマージュだったが、その結果が以上の通り。
「あーあ、随分なやられようね。そこまでされなくちゃいけないくらい、きみは極悪人非道な人間だったの?」
波に飲まれ海に沈んで消えたラフィが落ちた岩礁をしばらく眺めた後、マージュは彼を討伐(殺害)した騎士《リリベル》の方に目をやる。
すると彼女と目が合い、両者はそのまま見つめ合った。
「……………(にこっ)」
「………………」
愛嬌ある笑顔のマージュに対し、リリベルは無言のままラフィを斬った剣を鞘に納め、彼の頭蓋を割った拳銃も懐にしまい、崖から去っていった。
「噂には聞いてたけど、ほんと人形みたいに無表情な子ねー。ていうかラフィくんの死体確認しに行かないんだ?まさか私にあの子の死体確認をさせるつもりぃ?だとしたら生意気ねー」
マージュの推測は半分当たりで、リリベルがラフィが落ちたところへ降りなかったのは、今回の任務の司令官からそういう指示を受けていなかったから。彼からはラフィの捕縛もしくは討伐のみ命じられており、死体の捜索までは命じられていない。
その仕事は港町や別場所で待機させている部隊に任せておけばいい、そう判断したリリベルは最寄りの騎士たちの待機場所へ向かって行った。
「どうしよっかなー。あの子の取りこぼしを漁る真似をするのは凄く癪だけど、ラフィくんの亡骸の一つでも拾ってくのもアリかもねー。協会の面子なんてどうでもいいけど、会長さんに恩を売っておいて損は無いわけだし、うーん………。
決めた、ラフィくんの死体探しに行こーっと」
ちんたら探していては騎士団がラフィを討伐したことを王宮に報告することになる。そうなっては完全に騎士団に全て手柄を取られることになる。
そうなる前に一刻も早くラフィの亡骸(できれば確固たる証拠となる頭部が良い)を見つけ出さなければならない。
そういうわけでふよふよと空中を移動しながら早急な死体の発見に取りかかることわずか数分。リリベルがいた崖からかなり離れたところにある砂浜でラフィの死体が打ち上がっているのを発見したマージュだった。
「う、わあ……酷い損傷……いえ損壊っぷりね。あれじゃあもう誰か分からないレベルね。可哀そうに。
でも安心して!このマージュちゃんがきみの亡骸を協会に持って行ってあげる。このまま腐らせて終わるなんて無駄で可哀そうでことは、私がさせないから―――――え?」
全身を激しく損壊した状態の痛ましいラフィの姿を見て憐れむマージュだったが、死体だったはずの彼の意識が覚醒したのを目撃して、大いに驚いた。
(――うそ!?あれだけやられてもまだ生きてるんだ!?)
咄嗟にさらに上空へ飛び、どんな感知系のスキルにも引っかからない範囲まで離れたところから、マージュはラフィの観察を再開した。
そして砂浜から数百メートル離れた上空から、マージュはラフィの化け物じみた再生現象の一部始終を目撃したのだった―――
*
「――致死レベルの傷を負っても死なないうえにその傷もすぐに治すなんて……なにそのデタラメなスキル?体質?規格外にも程があるじゃない!あれで元Ⅾ級?協会さーん、完全にあの子の能力測れてないわよー?
ということはあの体質とスキルを手にしたのは最近ってことかしら……。
ていうか私、どうして………」
全身元通りとなり傷が全快したラフィが砂浜周辺、海、空も見回して気配を探っているのを、マージュは彼に気付かれないところからずっと観察を続けている。
(どうして私、あの子に見つからないよう隠れているの?あの子とお話してみたいなーって思ってここまで来たのに、どうして隠れちゃってるんだろう)
自分はどうしてラフィが覚醒した瞬間、彼に気付かれないよう距離をとったのか。
思い返すとそれは直感的な行動だった。本能がそうしろと言われるがままにそうしたような。
この感覚には憶えがある……。自分がA⁺級の傭兵だった頃、S級昇格をかけた任務の際、一人で特級の魔獣を相手にした時だ。
あの頃の自分の戦力は、今と比べて全然だった。故にあの時戦った魔獣に対し同格以上の強者と戦うような緊張感をおぼえ、集中力と戦いにおける全ての感覚を研ぎ澄ますようにしていた。
――あの頃体感した同じ感覚が、覚醒したラフィを見た瞬間全身に再び駆け巡ってきたのだ。
(紛れもなく、これはあの頃と同じ感覚だわ。それってつまり、私はあの子のことそれ程までに“脅威”と捉えているってこと?それ程の脅威度が、あの子にはあるってこと?)
実際ラフィからは先日の任務で討伐してきた魔獣とは比較にならない程の存在感が感じられる。今の彼ならば自分と同じく複数の魔獣を同時に相手にしてみせることが出来るだろう。
そう思わせるだけの強者としての存在感が、今のラフィから感じられる。
(どうしよっかなー。正直、今のあの子とまともに戦ったら無事で済むかどうか微妙なところな気がするのよねー。いえ、確実に無事じゃ済まなそう。
気軽にお話した後はサクッと済ませちゃうつもりで来たのだけど、考えを改めた方が良さそうね)
長年強者として君臨し続けてきた自身の勘が告げている……今のラフィを舐めてかからない方が良い、と。
(今は凄く気が立ってるみたいだから、お話するのもダメそうね。接触はナシ。このまま去りましょーっと。
あとは、ラフィくんのことを協会に…会長さんに報告するかどうかだけど………)
致命傷をいくつも負い殺されても死なないラフィの体の頑丈さ、あるいは殺されても死なない体質。さらにS級である自分ですら脅威に思わせる程よりいっそう強さを増したこと。
ラフィと戦ったミラ・リリベルですら見落とした重要で貴重な情報。
現時点で自分しか知り得ないこれらを協会に報告し、王宮にも公にするべきか……。
マージュが下した判断は―――
「全部黙っておこーっと!その方が面白いことになりそうだし♪」
この目で見たラフィに関する事は全て秘匿する、だった。
「会長さんには恩義があるけれど、このことを話したらあの人絶対躍起になってラフィくんの抹殺に踏み込むでしょうし。それって何だかつまらなそうなのよねー。
それよりも、あの子がこの先どう動いてくのかを知る方が、楽しみだわ!これからますます面白くなってきそうじゃない……ふふっ」
自分の勘がこう告げている……あの少年を生かしておけば今後もっと面白いものが見られるだろう、いずれ自分にとって有益な何かが訪れるかもしれない、と。
「今はちょっかい出さないであげる。だから、せいぜいこの国から脱出してみせなさいな。
そしてまたアスタールに戻ってくることがあったら、その時は今度こそお話しましょーね、ラフィくん♪」
砂浜から港町へ向かっていくラフィに上空から楽しげに見守り続けたのち一方的に別れを告げると、マージュは傭兵協会の本部である中央支部にいる会長に依頼の失敗を報告すべく移動を始めた。
報告の内容は、ラフィが騎士団に討伐された。それだけである。
*****
(キャラクター紹介)
ロイゼ・マージュ
女 年齢不詳 ピンク色の長髪(左右が白と黒のリボン) 身長139㎝
アクティブスキル:魔術(風、???)、瞑想、空中移動など
パッシブスキル:迷彩(景色と同化することで自身の姿を隠し気配も遮断する。*相手の視界に入っていない時のみ発動)など
*アスタール王国に5人しかいない最強位S級の傭兵。子供っぽくて茶目っ気がある言動とは裏腹に聡明で計算高く、勘も鋭い。大気を操って自身を空中に浮かび上がらせ、そのまま飛行することも可能。
元はとある国の上位貴族の令嬢だったのだが、とある理由で実家と絶縁し、アスタール王国に移住。ずば抜けた戦闘の才能を活かして傭兵の道に。傭兵業で稼いだ金で土地と豪邸を買い、そこで使用人たちと暮らしている。
可愛いものが好きで、戦闘時でも可愛いドレスなどを身に着けている。
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