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しおりを挟む『──ッ』
バチッ!と視界がブレて我に返ると、目の前に俺の手を握り心配そうに覗き込む保険医がいた。
今のは何だ? 夢か?
けれど身体を這う手の感触は纏わりついたまま消えない。混乱する俺の頬を『河上、頬が赤いぞ』と言って保険医に撫でられた瞬間、怖くなって逃げ出した。
そして事件が起きた。
男子生徒への強制性行罪で保険医が捕まったのだ。嘆く女子を男達が笑って冷やかす中、俺は笑えなかった。
その後も不思議な体験は続き、検証の結果、握手による予知能力と推測。
性癖ダダ漏れの未来像が視えた。内容は様々で、動物、二次元キャラ、性関連とは全く無縁のものもあったけど、性癖を拗らせた奴に限って何故か相手は俺だった。
『太もも貸して欲しい。もちろん生だぞ』
『先生とお医者さんごっこしようなぁ?』
『靴下履くとこ動画撮らせてくれ』
このレベルならまだマシだ。
面識のない上級生から暴行されたり、完全に目がイっちゃってるヤバい奴に鎖で繋がれ飼育小屋で飼われたり、優しそうな男に限ってヤる内容がエグいったらない。笑顔の裏に隠された性癖が怖すぎる。
特殊性癖が悪いとは思わない。人それぞれだし。
親戚に、長年切った自分の爪をビンに保存して眺めるのが好きな人いるし、自撮りのエロ動画で興奮するナルシストな友人もいる。
モラルを守って、あくまで個人で楽しむ性癖はいいと思う。いくら拗らせようと他害にならなければ。
この能力について誰にも相談できずにいたら、あんた最近変よどうしたの?と姉に心配されてカミングアウトした結果、心強い理解者になってくれた。
『覗いてみて!』
『……ぅお……』
凄かった。メルヘン・ザ・ワールド全開な姉の理想の相手は、お伽の国の王子を引っ張り出すしかないと判明。
姉に彼氏が出来る度に、弟紹介という名目で行われる面接調査。
『誠実で素敵な人だったでしょ?』
『優しけど、赤ちゃんプレイご所望みたい』
『むーりーっ!!』
この人とならきっと大丈夫!という男に限ってドン引き性癖保持者で驚く。姉の男運の無さにも。たぶん面食いだからだ。大事なのは見た目より性癖(なかみ)だろ?
姉の彼氏が、その歪んだ性癖を墓場まで持っていく覚悟なら将来的にも上手くいくかもしれないけど。
命を脅かす事件に巻き込まれでもしたら大変だ。なんとか良い人みつけて欲しいけど、ハイスペックイケメン王子探しなんて現世でハードル高過ぎなんだよなぁ……。
夜にふと、無性に怖くなる。
この先いつまで視えるのか。知らなければ上手くいくはずの人間関係とか。もし自分に好きな人ができたらどうしたらいい?
握手を通じて勝手に性癖VISIONを覗く罪悪感はある。自分が同じ事されたら嫌だ。けど、いざという時は活用しようと決めた。姉も自分も、ヤバい男に捕まる未来は望んでない。
───そして、春が訪れた。
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