駄目な奴でもなんとか生きていこうと思います

アオ

文字の大きさ
94 / 102
ヘーゲルツ王立学園

武道会9

しおりを挟む
男は足をガクガクと震えさせながらもなかなかシオを離さない。もう強行突破してしまおうか。
動こうとしたとき、突然外に大量の気配が現れたのを察知する。
何事だ…?
多数の規則正しい足音が近づいてくる。

「騎士だ…」
「やっときやがって…」

軽く転がしただけの賊が起き上がる。
騎士が来たのか…ならもう大丈夫だ、と思った。しかし状況に違和感しか感じれない。
何故こいつらは逃げない?慌てない?「やっときやがって」とは?
嫌な予感に背に冷や汗が伝う。

「ザックズ!こちらへ」

まだ呆然としているザックズをこちらに呼び寄せた。だけどその時にはもう遅かった。

「ガッ…!」

起き上がってきた賊がザックズ君の体制を崩しにかかる。
すでに満身創痍の彼は必死に抵抗するが、床におさえつけられた。
僕の行動が遅かったせいだ。まぎれもないその事実が僕の頭を渦巻く。

ついに部屋に足音が到着した。
そこにいたのは、白い制服を着た騎士だった。白鷺騎士団は王族の警護が主な任務で貴族出身が多い花形だ。

……これは、最悪の状況だ。
回復が早くなぜか連携だけはうまい賊に、十中八九敵である鍛えられた騎士、そして多勢に無勢、圧倒的不利。

何も言わぬ騎士たちの中央から太った貴族らしき男が威張り出て来て部屋の惨状を見渡す。
すぐに僕が目に入ったようでにやりと僕を見つめた。

「お前が、あのアサギリかぁ…。おい、あいつもだ、やれ」

側の騎士に命ずると僕を抑えつける。
抵抗しようにも二人が捕らえられている今下手には動けず膝をつかされる。

「国と王に忠誠を誓った騎士が、恥ずかしくないのですか⁉こんなことをして。」

せめてと騎士たちに揺さぶりをかけるが戦闘態勢に入ったまま彼らは動かない。
そしてその肥えた男は僕を押さえつけると何かを発見したようで目を見開いた。

「おい、その子供…。やっぱり生きてたじゃないか!おい、あいつだぞ!」
「さすがにございます。」

シオを見て言った。そして側の騎士が無表情のままほめたたえる。
まさか…!シオの様子を見て確信する。シオを洗脳魔法で苦しめていたのはこいつだ。
なんでこんな時に…!
側で抱きしめて、目の前の奴を殴り倒せないことに悔しさが募る。

「おい、お前来い。」
「やめろ、やめろ!シオを返せこの野郎!」

小太りの貴族の指示に従ってシオを捉えた男はシオを引き渡そうとする。
必死に止めるも無情にもシオは男の手に渡る。

「あ…っう……ぁ…」

どうにもできない状況にたたされ呼吸がしづらくなり、声が漏れ出てしまう。
苦しい、心臓の音が大きい。
男は僕を見て優越感に満たされた顔で僕を見ていった。

「言うことは聞いておいた方が身のためだぞ?今お前がこちらに来て言うとおりに動き、質問にも正直に答えると誓うならば、この二人は解放してやる。」

解放する?そんな美味い話があるはずない。
今二人を解放したら情報はすぐに洩れ、間違いなくすぐに第二王子派が攻め込んでくるだろうに。
そもそもなんで僕が狙われたんだ。第二王子殿下の弱みでも知ってると思ったのか?

「何が…目的ですか。」
「まだ話されてないのか?チッおい、何をしていたんだ。」
「聞く間もなく逃げられたもんで、すみません。」
「お前は報酬なしだな。「んな⁉」ったく…貴様は、アレフガート・ノルク・ヴァラムフィールドの番だろう。通称『ヴァラムフィールド公爵家の秘珠』、確かに神秘的でどこか艶めかしい見目なことだ。」
「なっそんなはず…、竜人は番を見つけたら離さないのでは…!」

ザックズの言葉に無意識に頭を伏せてしまう。
確かに、竜人は番を離さない。だけど僕と彼の場合そうはならなかった。
そうさせたのは僕だ、そして離されてしまうぐらい僕に魅力がなかったのだ。

「ぎゃははははは‼此奴に振られたんだよぉ!黒曜騎士団長であり、しかも竜人が、情けないだろう⁉」

男は狂ったように笑い続ける。

彼が情けないだと?ふざけるな、彼は、誰よりも強くて暖かくて美しい。
怒りとともにそう言わせる原因をつくった自分がどうしようもなく憎くなる。

「だがなぁ、俺の怒りはあいつが振られただけじゃあ、収まらなくてなぁ…。」

僕の身体を舐めるように見回したかと思うと再びぞっとするような笑いを頬に浮かべた。
まさか、アレフガートさんに危害を加えようとしている、のか?

「彼に何をする気だ!」

僕が焦っているのをおもしろがるように顔を近づけ僕の顎を贅肉がのった手でつかみにやりと笑い言った。

「直に分かるさ…ヒヒヒッおい、連れてけ」

男の笑い声を聞きながら抵抗する術も奪われ、騎士からの顎打ちで意識を失った。



――

黒曜騎士副団長レナードside


最悪だ。
頭を抱えながらも学園に選りすぐりの騎士を送り、今後動かすことになるだろう騎士や情報を整理する。

シヅル君が攫われたなんて、彼に何かあったらこの国は終わりといっても過言ではない。
我が主である第二王子殿下が王になれない可能性があがり、なれたとしても政治面で多大な苦労を強いられる。それどころか、最悪の場合アレフガートがサヴァリッシュ王国を滅ぼしてしまうだろう。


私と同じ獣人でも竜人の執着心は凄まじい。
竜人の血を歴代で最も強く濃く受け継いだというアレフガートは、尋常じゃない精神の持ち主だ。

竜人は狂おしい程に番を愛し、番のためならなんだってする。
逆に番以外には容赦など存在しない。
番の髪の毛一本一本から爪先まで、むしろ骨の髄まで、心の奥底まで、自分の庇護・支配下に置き、自分の色に染めかえて大事に大事に深くに囲う。

幸いシヅル君はとてもいい子だ。
しかしシヅル君の何者かによって植え付けられた自分に卑屈な心はアレフガートの愛を怖いと思うどころか、自分には不相応だと思っているようにみえた。
それを嘆き悲しみながらもシヅルが成人するまでは、求愛に応じるまではとアレフガートは欲を抑え込んできたのに、アレフガートの番からの愛を欲する歪んだ心はさらに歪んでゆく。

このことを考えるときばかりは、シヅル君が何も考えずに与えられた幸運を手にし喜ぶ単純な人間だったらいいのにと思ってしまう。

大丈夫だ、彼が生きていさえすれば彼がいるこの国を滅ぼす真似なんてしないはず…。

だが、彼が死んでしまった場合は?彼の心が誰かほかの者に奪われてしまったら?

今はまだシヅル君が誰も好きになっていなくて、アレフガートがシヅル君の心に大きな爪痕を残すことができていると自覚しているから、アレフガートは側から離れることを許しているだけの状態だ。

今となっては頼れる男であるし、友人になってしまったからそんなことは言わないが、昔、側におくのは危険なのでは、と思いそれとなく殿下に進言してみたことがあった。
すると殿下ははっきりとおっしゃった。

「レナード、大きな力はどの時代にも必要だ。それがなくては秩序というものが軸から崩壊するだろう。」

確かにそうだ、殿下は聡い。そして殿下は竜人の恐ろしさを扱うことができる唯一の人間だ。
しかしやはり人間だからこの独特の歪みには気づけないのだろう。
ならば私がアレフガートの暴走をどうにか止めなければならない。

そう改めて決心し、書類と剣を持ち執務室を出ると、暗い夜の窓の前に立つ暗闇よりも黒い男がレナードの喉ぼとけ寸前に剣先を突き付けた。
前にもみたような光景に、夜で暑くもないのにレナードの首筋に汗がつたった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった

angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。 『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。 生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。 「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め 現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。 完結しました。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...