10 / 31
ちぐさとかずま<1>
しおりを挟む
海辺の小高い丘にある小さなお社、大津波で一度打ち棄てられたものを先代の宮司が再興させたもので海の神さまとして村人の信仰を集めていた。
当代の宮司は若い頃から利発で村でも人気者だった。
そして彼の元へゆきという娘が嫁いできた、村人の親類でお社の祭りを見にきていたのを彼が見初めたのだった。
ゆきは明るく快活な性格で村人にも受け入れられていった。
やがて彼らに子供が出来た、一人目は女の子、そして二人目は男の子だった。
二人目の男の子かずまが物心つく頃、ゆきは病いに倒れ、宮司はあらゆる手を尽くしたがその甲斐なくゆきは亡くなってしまった。
残された二人の子供たちはお社に奉仕している巫女たちの手で育てられた…
まだ小さかった巫女見習いのちぐさは特に姉弟と仲良く、いつも三人で一緒にいることが多かった。
ちぐさは孤児ということで宮司からは娘同然に育てられていた。
やがて成長し、姉のひとみが大学へ進み家を離れると弟のかずまはちぐさとさらに親密になっていった。
だが、かずまはちぐさが妖狐であることに気付いていた、そして母ゆきの死にあやかしが関わっているのではないかという疑念を持ち、ちぐさへの愛情との板挟みになっていたのだ。
そして高校を卒業したかずまは神職の修行のため家を離れるときが来た。
「かずまさん、帰ってくるのを楽しみにしています」
「ちぐさ…」
「うちのこと忘れんでくださいね」
そしてかずまは神職の修行を始めたが、いつしかあやかしに対する憎しみに囚われ拝み屋の一団に加わり、いつしか実家のお社から足が遠のき音信不通となってしまっていた。
あやかしやそれに類するものたちが引き起こす霊障を抑えるのが彼ら拝み屋の仕事だった。
かずまはその出自ゆえか拝み屋としての能力は高く、全国を渡り歩くようになっていた。
だが時々姉ひとみの家に立ち寄ることがあった。
ひとみと甥のたけると過ごす時だけが彼にとって唯一の安息と言えた…
そこまで言っておじいちゃんはため息をついた。
「ゆきが死んだのはあやかしとは無関係だ、それをかずまは聞き入れようとしない」
「だけどそれじゃちぐささんがかわいそうじゃない…」
「なんとか説き伏せる方法を探さねばならないのだよ」
考え込んでいるとちぐささんがかずま叔父さんの手を引いてやってきた。
「たけふみさん、かずまさんが戻ってきました」
「かずま…」
「父さん…」
おじいちゃんとかずま叔父さんは黙ったまま向かい合って座っていた…
当代の宮司は若い頃から利発で村でも人気者だった。
そして彼の元へゆきという娘が嫁いできた、村人の親類でお社の祭りを見にきていたのを彼が見初めたのだった。
ゆきは明るく快活な性格で村人にも受け入れられていった。
やがて彼らに子供が出来た、一人目は女の子、そして二人目は男の子だった。
二人目の男の子かずまが物心つく頃、ゆきは病いに倒れ、宮司はあらゆる手を尽くしたがその甲斐なくゆきは亡くなってしまった。
残された二人の子供たちはお社に奉仕している巫女たちの手で育てられた…
まだ小さかった巫女見習いのちぐさは特に姉弟と仲良く、いつも三人で一緒にいることが多かった。
ちぐさは孤児ということで宮司からは娘同然に育てられていた。
やがて成長し、姉のひとみが大学へ進み家を離れると弟のかずまはちぐさとさらに親密になっていった。
だが、かずまはちぐさが妖狐であることに気付いていた、そして母ゆきの死にあやかしが関わっているのではないかという疑念を持ち、ちぐさへの愛情との板挟みになっていたのだ。
そして高校を卒業したかずまは神職の修行のため家を離れるときが来た。
「かずまさん、帰ってくるのを楽しみにしています」
「ちぐさ…」
「うちのこと忘れんでくださいね」
そしてかずまは神職の修行を始めたが、いつしかあやかしに対する憎しみに囚われ拝み屋の一団に加わり、いつしか実家のお社から足が遠のき音信不通となってしまっていた。
あやかしやそれに類するものたちが引き起こす霊障を抑えるのが彼ら拝み屋の仕事だった。
かずまはその出自ゆえか拝み屋としての能力は高く、全国を渡り歩くようになっていた。
だが時々姉ひとみの家に立ち寄ることがあった。
ひとみと甥のたけると過ごす時だけが彼にとって唯一の安息と言えた…
そこまで言っておじいちゃんはため息をついた。
「ゆきが死んだのはあやかしとは無関係だ、それをかずまは聞き入れようとしない」
「だけどそれじゃちぐささんがかわいそうじゃない…」
「なんとか説き伏せる方法を探さねばならないのだよ」
考え込んでいるとちぐささんがかずま叔父さんの手を引いてやってきた。
「たけふみさん、かずまさんが戻ってきました」
「かずま…」
「父さん…」
おじいちゃんとかずま叔父さんは黙ったまま向かい合って座っていた…
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
