整形しなきゃよかった

mugi

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1話

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歌舞伎町のネオンは、夏希にとってまだ“現実じゃない”光に見えた。

広島を出て二週間。

整形した顔にも、夜の世界にも、まだ慣れきれていない。

けれど、鏡の奥にいる「昔の自分」に戻りたくなくて、ここに立っている。

今日も、初回の客が次々と案内されていく。

夏希――源氏名 愛叶(あいと) は、ホストとしての明るい笑顔を貼りつけながら、内心はぽっかり空いたままだった。

「愛叶ー、次初回つくよ」

「了解です」

内勤さんに呼ばれ、席へ向かったその瞬間心臓が、音を忘れた。

座っていたのは、
「二度と会わないと思った」中学の頃の同級生、松岡春奈。

けれど春奈は、泣き腫らした目で俯いていて、こちらを見てもいない。

横には、春奈の友達百合が腕を組んでいた。

百合はお店によく来てくれる、愛叶の後輩の聖夜くん指名の女の子だ。

「こいつさ、彼氏に浮気されちゃってさ~。元気つけてよ、愛叶くん」

夏希は息を飲み込み、愛叶として笑みを浮かべた。

「任せてよ。俺、泣いとる子ほっとけんけぇ」

春奈が顔を上げる。
その瞳に映ったのは、ただのホストの“愛叶”。
かつて同じ教室にいた地味な夏希だとは1ミリも思っていない。

――ああ、忘れとる。
そりゃそうか。

胸の奥で、じんわり痛みが広がる。

春奈は広島のことも、
クラスのすみっこにいた夏希のことも、
名前すら、思い出せない。

なのに夏希は、
整形して、顔を変えて、
東京に出てきてもなお、

ずっと、春奈を忘れられないまま。

「……愛叶くん、でいいんよね?」

春奈が弱々しく笑う。

夏希は、プロの笑顔でうなずいた。

「うん。春奈ちゃんの笑顔、取り戻させてよ」

言いながら、喉の奥がきゅっと締まった。

客としての距離。
初めて出会ったみたいな距離。
名前も知らん他人みたいな距離。

こんな形で再会するなんて――
神様の冗談は、いつも残酷だ。
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