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歌舞伎町のネオンは、夏希にとってまだ“現実じゃない”光に見えた。
広島を出て二週間。
整形した顔にも、夜の世界にも、まだ慣れきれていない。
けれど、鏡の奥にいる「昔の自分」に戻りたくなくて、ここに立っている。
今日も、初回の客が次々と案内されていく。
夏希――源氏名 愛叶(あいと) は、ホストとしての明るい笑顔を貼りつけながら、内心はぽっかり空いたままだった。
「愛叶ー、次初回つくよ」
「了解です」
内勤さんに呼ばれ、席へ向かったその瞬間心臓が、音を忘れた。
座っていたのは、
「二度と会わないと思った」中学の頃の同級生、松岡春奈。
けれど春奈は、泣き腫らした目で俯いていて、こちらを見てもいない。
横には、春奈の友達百合が腕を組んでいた。
百合はお店によく来てくれる、愛叶の後輩の聖夜くん指名の女の子だ。
「こいつさ、彼氏に浮気されちゃってさ~。元気つけてよ、愛叶くん」
夏希は息を飲み込み、愛叶として笑みを浮かべた。
「任せてよ。俺、泣いとる子ほっとけんけぇ」
春奈が顔を上げる。
その瞳に映ったのは、ただのホストの“愛叶”。
かつて同じ教室にいた地味な夏希だとは1ミリも思っていない。
――ああ、忘れとる。
そりゃそうか。
胸の奥で、じんわり痛みが広がる。
春奈は広島のことも、
クラスのすみっこにいた夏希のことも、
名前すら、思い出せない。
なのに夏希は、
整形して、顔を変えて、
東京に出てきてもなお、
ずっと、春奈を忘れられないまま。
「……愛叶くん、でいいんよね?」
春奈が弱々しく笑う。
夏希は、プロの笑顔でうなずいた。
「うん。春奈ちゃんの笑顔、取り戻させてよ」
言いながら、喉の奥がきゅっと締まった。
客としての距離。
初めて出会ったみたいな距離。
名前も知らん他人みたいな距離。
こんな形で再会するなんて――
神様の冗談は、いつも残酷だ。
広島を出て二週間。
整形した顔にも、夜の世界にも、まだ慣れきれていない。
けれど、鏡の奥にいる「昔の自分」に戻りたくなくて、ここに立っている。
今日も、初回の客が次々と案内されていく。
夏希――源氏名 愛叶(あいと) は、ホストとしての明るい笑顔を貼りつけながら、内心はぽっかり空いたままだった。
「愛叶ー、次初回つくよ」
「了解です」
内勤さんに呼ばれ、席へ向かったその瞬間心臓が、音を忘れた。
座っていたのは、
「二度と会わないと思った」中学の頃の同級生、松岡春奈。
けれど春奈は、泣き腫らした目で俯いていて、こちらを見てもいない。
横には、春奈の友達百合が腕を組んでいた。
百合はお店によく来てくれる、愛叶の後輩の聖夜くん指名の女の子だ。
「こいつさ、彼氏に浮気されちゃってさ~。元気つけてよ、愛叶くん」
夏希は息を飲み込み、愛叶として笑みを浮かべた。
「任せてよ。俺、泣いとる子ほっとけんけぇ」
春奈が顔を上げる。
その瞳に映ったのは、ただのホストの“愛叶”。
かつて同じ教室にいた地味な夏希だとは1ミリも思っていない。
――ああ、忘れとる。
そりゃそうか。
胸の奥で、じんわり痛みが広がる。
春奈は広島のことも、
クラスのすみっこにいた夏希のことも、
名前すら、思い出せない。
なのに夏希は、
整形して、顔を変えて、
東京に出てきてもなお、
ずっと、春奈を忘れられないまま。
「……愛叶くん、でいいんよね?」
春奈が弱々しく笑う。
夏希は、プロの笑顔でうなずいた。
「うん。春奈ちゃんの笑顔、取り戻させてよ」
言いながら、喉の奥がきゅっと締まった。
客としての距離。
初めて出会ったみたいな距離。
名前も知らん他人みたいな距離。
こんな形で再会するなんて――
神様の冗談は、いつも残酷だ。
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