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2話
しおりを挟む「春奈ちゃん、飲める?」
愛叶はメニューを開きながら、声を柔らかく落とした。
けれど内心は、手元が震えそうでたまらなかった。
春奈は、泣きはらした赤い目を伏せて、小さくうなずく。
「…うん。今日は、なんでもいい……」
その声。
昔、廊下で友達と笑っていたときの声と同じなのに、今は、他の男を愛して、他の男に裏切られた後の声。
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
「任せて。春奈ちゃんが少しでも楽になるようにするけぇ」
愛叶の顔で優しく微笑みながら、
夏希の心はぐちゃぐちゃになっていく。
百合が口を開いた。
「春奈さ、健人っていうクソ男に浮気されてさ。もう泣くことしかできないんよ。ね? 大学もサボってさ…」
「百合っ、いいって……」
春奈が百合の袖を引っ張る。
その仕草すら、懐かしい。
そして思う。
俺は、あの頃の春奈を、一度も笑わせられんかったのに。
愛叶は胸の奥が軋む音が聞こえる気さえした。
「辛かったね」
その一言を発するまでに、
喉の奥で何度も息が詰まった。
春奈は小さく震えながら言った。
「…好きって言われて、信じてたのに…あっけなかった…笑えるくらい」
その涙を見た瞬間。
夏希の心臓が、落ちるように痛んだ。
「春奈ちゃん、俺がおるから。
今日だけでも、全部俺に預けて」
優しいセリフを吐けば吐くほど、
本当の気持ちは、どんどん喉の奥に飲み込まれていく。
春奈は、かすかに微笑んだ。
その笑顔を見た瞬間、
胸が裂けそうになった。
こんな顔初めて見た。
もう二度と、夏希の名前で呼ばれることはないかもしれん。
春奈は知らない。
昔同じ教室にいた“あの地味ないじめられっ子夏希が、今、自分の目の前で笑っていることを。
忘れている。
完全に、忘れている。
それが、一番辛くて、ほっとした。
愛叶はグラスを置きながら、
静かに息を吐いた。
胸の苦しさは、酒よりずっと強く回る。
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