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~第一章~
11話
しおりを挟む【ラスウィータ視点】
最近は慣れてきた執務を今日は午前中にしなければならなかった物が早めに終わり昼食まで時間が余ってしまったので、レーラに会いに行き、お母様の体調がよろしければ二人で会いに行こうと決め今は廊下を歩いていたのだが。
タヌカにお母様に会えるかどうか確かめるのを忘れていたため、喉も乾いているしついでだと思い、目的のタヌカを探しながら厨房の方に向かって行く
普通貴族の子息ならば自分で飲み物を取りに行くなんて事はほとんどする事が無いだろうし、そういう事は僕が何処かに歩いて向かっているならすれ違う侍女や執事が声をかけて来て、自分達がお飲物を取りに行くのでお部屋で待っていて下さいと言われそうなものだけど、
僕の家、つまりこの公爵家の当主であるお母様が、ある程度なんでも自分で出来るようになりなさいと言う教育方針だったのも相まって、僕に話しかけはするが自分でするからと言えばひいてくれるようにはなっている。
けれど今日はなんだかすれ違う使用人の数が少ないな......
まぁいつもなら執務室にこもってる時間帯なんだし、昼食前なのだからみな忙しくしているのだろうとあまり気にしていなかったのだが厨房に行くには一度ホールの近くを通らなければならないのだけどなんだかそちらの方が騒がしい。
すこし早足でそちらに向かって行く....何故なら嫌な予感がするからだ。
この予感が当たらなければいいと願いながらどんどんと目的地にむかって歩を進める。
そして、やはり嫌な予感が的中したと思うと同時にあの時の感覚が僕の体を侵食していく。
父のネルノイが一人の侍女に何かを大声でわめき散らしている。
その姿を見た瞬間に体中の血液がふつふつと沸騰しているような感覚になり、心の奥深くで眠っていたはずの憎悪が顔を出し僕の感情を飲み込んで行ってしまっているように父をとらえる視界がアイツの周り以外を黒く染め余計にはっきりと見えてしまう。
お母様はあれだけ苦しんでいるのに、この父のネルノイは身綺麗にし何を思って帰ってきたのかは分からないが商人の女にうつつをぬかし倒れた自分の妻を放置したあげく知った事かと罵ったのだ。
もう我慢の限界を超えていた僕が拳を握りしめ今にも殴りかかりそうになっていると
いつも支えてくれ全てをかけ僕に尽くしてくれるもっとも信頼出来る家令のタヌカの声が耳元で聞こえる。
小声だがしっかりと僕に言い聞かせるように
『ラスウィータ様、今は落ち着いて下さいませ。
あなた様の気持ちはよく分かっております..
ですが今はその気持ちを抑え、旦那様と話をして下さいませ。わたくしめが今あなた様にどれだけ酷な事を言っているのか十分承知しておりますが、叱責なら後でいくらでも受けます。なので今は......今だけはこの公爵家の次期御当主として旦那様とお話して下さいませ....
今この公爵家を守っているのはあなた様でございます。どうかそのご判断間違わぬようお願いいたします。』
そう言って深く頭をさげ僕の後ろに下がり、つき従うように僕が動くのを待っている
あんなにも憎しみで満たされていたのにタヌカの声ですべて落ち着いて今は冷静になってきた、
さすがタヌカだと、そしてこの家令が公爵家に仕えてくれていて本当に良かったと感謝する.......
そして意を決し父のネルノイの方へ近づいていく。
今の僕はただの息子ではない。このひと月で覚え体に叩き込んだ次期当主としての顔を張り付ける。
だんだん近づくにつれ父と侍女の会話がはっきりと聞こえてくる、と言うより父に何かを言われているのはルーシーがだった!
「侍女風情がこの公爵家の俺に向かって何を言っている!!!」
「何処にいかれるのですか?と伺っているのでございます。」
「何処へだと!?何故使用人のお前にこの俺がそんな事を答えなければならないんだ!!!!
この家は俺の家だ!!何処へ行こうがお前に関係ないだろ!!!!!」
「いえ、そう言う事を伺った訳ではございません。
ご当主の奥様に会いに行かれるのかと思い行く道が違ったので何処へ行かれるのですかと聞いたのでございます。」
「何故この俺があの女に会いに行かねばならぬのだ!!!!自分の部屋に戻るだけだ!!それも用があるのはお前のような下賤な使用人ごときではない!!!
タヌカを出せ!!!」
「そうでございましたか、申し訳ございません。すぐに家令を呼んでまいります」
無表情のまま激高し声を荒げる父に対し淡々と受け答えをするルーシーを見た僕は肝が冷えた。
ルーシーはお母様に小さい時から仕えてきた侍女で一番お母様を好いていると言っても過言ではない
その大好きな主人をあまつさえ放置し他の女にうつつをぬかし、あの女呼ばわりしたのだ...
もともとお母様に対する態度がきつく、僕たちに興味さえ持たぬ父にルーシーは怒っていた。
それが今爆発しているのであろう.....あんな冷たい目をするルーシーを見たのは初めてだ。
そんな事を思い足を止めていた僕の後ろから名前を呼ばれたタヌカが動いた
なのでその前を歩くよう僕も気を引き締め冷静になり動き出す。
「父様、お帰りなさいませ... タヌカに何か御用ですか?」
「お前か、用があるのはタヌカだ!」
そしてラスウィータの後ろで礼をとりお辞儀をしながらタヌカが話はじめる.....
「お帰りなさいませ旦那様、このわたくしめにどのような御用でございますでしょうか?」
「そこに居ったのか。そうだ!今月の分の金を取に来た!!!早く用意しろ!!!」
金だと....? 自分の妻が倒れても帰ってこなかった奴が金を取りに来ただと??
その金の件は執務を引き継いでる最中に聞かされたが父はその金を取りに帰ったと言うことか!?
馬鹿だ.......こいつは自分が何故毎月金を受け取っていたか忘れているらしい.....
そして父の言葉にタヌカが少し驚いた表情をしたがすぐにいつもの顔に戻り父に答える。
「旦那様、申し訳ありませんがあなた様に今月渡せるお金がありません。」
そう言ったタヌカにまた父が激高し始める
「なんだと!?金が渡せぬというのか!!!!お前が決める事ではないわ!!!
俺が出せと言えば黙って出せばいいのだ!!!あの金は毎月俺に渡されるものだ!!!!さっさとだせ!!」
やはり僕の予想は当たってたようで本当に忘れているらしい。
本当にこの父は今までこの家で何をしていたのだろうか、飽きれて言葉もでない...
「旦那様、お金を出さないと言った訳ではございません。ありませんと言ったのでございます...
正確に言うと、奥様と旦那様での契約で公爵家の仕事をするかわりに毎月その報酬としてご当主のタヴィア様よりわたくしめがお預かりしてた分のお金をあなた様に渡してしただけにすぎません。
そしてこのひと月、あなた様はご不在でしたので全て代理で執事長のマルゴがやっておりました
ですのでご当主様から預かっているお金もありませんのでと無いと申し上げたのです。」
この契約の事をすっかり忘れているのであろう父にタヌカが説明すると、思い出したのか何も言う事が出来なくなったネルノイがすこし汗をかきタヌカを睨みつけている
そして何を思ったのか父はとんでもない事を言い出した
「ならば適当に用意しろ!!金を用意しろと言っているのだ!!この公爵家ならばすぐに用意できるだろう!!さっさと黙って出せばいいのだ!!!
俺はすぐにここをまた出るので早く用意しろ!!!!」
あまりにも意味不明な命令に周りに居た使用人達もそれを言われたタヌカも驚いてしまっている。
それはそうだろう、この公爵家のお金と言うのは領民の血税でありお母様の政策のおかげで稼いでいるもので、たしかに公爵家のお金ではあるが勝手に持ち出していいものではないのだ....
すこし間をおいてタヌカが話はじめた,
「すいません、それはわたくしめが出来るものではございません。ですので、現在ご当主様が床にふせっておりますので代わりにこの家を預かっていらっしゃる次期御当主のラスウィータ様にご相談くださいますようお願いいたします」
そこで僕の名前が出てくるとは思っていなかった父がこちらを見下すようにそしてなぜこいつにと言う顔でこちらに話しかけてくる
「ではお前が用意しろ!すぐにだ! 俺は忙しいのだ、お前に構っている暇はない!!」
本当にこの目の前にいるのは僕の父なのだろうか、こんな馬鹿をなぜあの優秀なお母様の婿に選んだのだろうか....
それにこの公爵家の大変な時期に外の女の所に居た奴のどこが忙しいのかは不明だが、ここからが僕の次期当主として家を守る者としての役目なのだと気持ちを切り替える。
「すいません父様、それは出来かねます。この家のお金はみなお母様の......
御当主であるタヴィアお母様の物でごさいます。
いくらお母様の代わりを僕がしているとは言え、勝手に僕が持ち出す事はできかねます。
ですので必要なのでしたらお母様の体調のいい時に僕が訪ねておきますので書類を用意します。
なので少しお待ちください、お母様の承認が取れ次第父様にお渡しします。」
要するにお前に渡すお金はない、欲しければお母様に交渉しろと遠回しに伝えたのだがその答えに満足できなかったのだろう。それにどちらにしても今のお母様に僕がそんな事を聞く訳がない。
まぁそれは分かっていたことだが本当に渡すお金も勝手に使っていいお金もないのだからここで僕が引くわけにはいかない。
「なんだと!?俺はすぐにと言ったんだ!!!!お前の都合など知った事ではない!!
なぜ公爵家の俺がこの家の金を使うのに書類などかかねばならんのだ!!!
用意しろと言えば黙って用意すればいいんだ!!!それになんだ!!!さっきからお前の態度わ!!
父であるこの俺にそんな口をきいていいと思っているのか!!!!」
顔を真っ赤にして声を荒げ激高し僕に近づいてくる父がこの後なにをするのかすぐに分かった、それでも引くつもりはないと言う意思を強く持ち足を踏ん張り歯を食いしばる。
そしてやはり予想は当たったようで拳を握り高く振り上げ思い切り僕の頬をうった。
さすがに子供の僕では踏ん張りが効かず後ろに飛ぶ、その時に何か白いものが飛ぶのを見たがそんな場合ではない。頬を殴られたはずなのに脳がゆれたのか視界がぶれる。
すごい痛みが僕に襲うが、今はこんな痛みに負けているわけではない!
僕を殴り、息を切らした父に立ち上がり今まで向けたことの無い強い視線を向けながら言う
「どれだけ.....殴られようが.....今公爵家を預かっているのは僕です....
ですので、必要ならばそれなりの手順を......守って頂く他ございません
今からでも.....お母様に伺ってきましょうか?」
そう言うと、何やら文句を言いながらもういいと叫び出て行った。
姿が見えなくなる最後の最後まで視線をそらさなかった....
そして扉の閉じる音が聞こえると同時に足の力が抜け座り込んでしまう。
倒れて頭を打たないように背中を支えてくれるタヌカが良く頑張ってくださいました、とても立派でしたと言われその顔をみると目に涙を浮かべている.....
ルーシーが駆け寄ってきて僕の手を握り泣きながら他の侍女に氷を持ってきてお医者様を呼ぶように指示を出している。初めてこんなルーシーが泣いているのを見た気がするな、心配をかけてすまんと言おうとするがだんだん視界がぼやけ意識が遠くなってくる。
そしてはっきりとしない頭で思い出す.....あーぁ、今日は昼食までレーラとお母様と過ごすはずだったのになぁと...
そして僕は気を失った。
次に目を覚ました時には心配そうな顔をして大きな目にいっぱいの涙を溜めた可愛い妹の顔だった。
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