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第六話:筆記試験の落とし穴
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第六話:筆記試験の落とし穴
「何だこの試験のサンプル問題……あー、ひっかけとかも多いなぁ」
冷静な判断力とか読解能力とかいう以前に、問題文の言い回しそのものが人を苛立たせる。
これはあれだ、前世で受けた運転免許の学科試験問題集を思い出させる。
あの意地の悪い、それでいて妙に実用的なひっかけ問題のオンパレードだ。
『適切干渉緩和距離は詠唱者の体の中心と中心を結んで五メートルである』
「これは……×だ。ええっと、術行使の杖と杖の距離が問題で、魔力の練りこみの阻害を考えて……そうだ、思い出した! 杖と杖の距離で三メートル以上で、なおかつ身体の接触は特殊な場合を除いて魔力行使者……予備詠唱動作中同士の魔力循環に悪影響が考えられるから気をつけるように、みたいなこと言ってたな」
運転免許の試験と同じで、実用的なことと、巧妙な記述トリックとが混ざっている。
「安全確認は義務である。しっかりと車両をみなければならない」を「安全確認は目視確認のみでよい」などと言い換えて、曖昧な言葉で惑わしてくるあの手口に酷似している。
『夜は、視界が悪く魔法の正確性が落ちるので市街地で魔法を使ってはいけない』
「これも×だ。夜は……じゃなくて基本的に市街地であれこれしてたら怒られるだろう。昼夜関係なく、無許可の魔法使用は『魔法使用禁止区域違反』で罰金ものだ」
大体こんな調子である。正直な所、問題を読んでいるだけでイライラしてくる。
市街地で魔法の使用が出来るのは現場近くに騎士団員が居て許可された場合のみだが、近頃これも怪しい。
前世の話だと、猟銃発砲でもめたときと同じで、飛び道具としての魔法は便利だが、二次被害が出た場合の責任の所在の問題が出てくるので、たとえ許可されたとしても実行性に関してはなかなか難しいのが現状らしい。
「火球が民家の屋根に当たって焦げ付いた場合、責任は誰が取るのか」
「詠唱中の魔力流出で通行人が気分を悪くした場合の慰謝料は?」など、現実的なトラブル事例が山積しているのだろう。
まあ、そんなことを考えても今は仕方がない。
溜息を吐きつつも、次の問題に目を通す。
『詠唱が長ければ長いほど、魔法の威力は確実に増大する』
「これは×だな……。予備詠唱を丁寧にすると詠唱は長くなるし、循環する魔力も早く多くなるけどそれが総てじゃないから。ここで『確実』ときたか……。逆に確実じゃないから引っ掛けだって教えてくれてるようなもんだ。ご親切にどうも、ってな」
威力の増大は、そういう魔力の練りこみのほかに正確性も要求されるから詠唱の長さイコールじゃない。
不必要な詠唱は術者の集中力をそぎかねないので、正確かつ的確かつ適切にを意識するように教官に言われたな。
「無駄な動作は魔力の無駄遣いだっ!!」
「長い詠唱は疲労の元! 手早く、確実に、無駄なくしろっ!!」と、厳しく指導してくる教官が脳裏に浮かぶ。
ああ、鬼のような表情で怒鳴るのは勘弁してくださいよ、教官。
こんな風に余計なことばかり考えてしまうのは、問題のひねくれた言い回しのせいだ。
間違いない。
『魔法発動中は、魔力の制御に集中するため、周囲の音には意識を向けない方が良い』
「えっと……詠唱中じゃなくて、発動制御の段階になると……むしろ余計に周りの状況を見ないといけないんじゃ……。詠唱は、出来れば集中する環境にして、でないと失敗する確率が跳ね上がるからってのがあるけど……。たぶん×だな。これ、きっと『周囲への注意を怠ってはいけない』というひっかけなんだろうな。詠唱に夢中になって、背後から魔物が忍び寄っても気づかなかった、なんて事故が実際にあったんだろう」
問題文の引っかけを意識しながら考える。
これは正直言って、「この問題を作成した奴は、きっと性格が悪い」と、前世の自分と同じような感想になる。
何というか、問題者の悪意に対して恨み節を吐き出しながら問題と向き合うのは、結構しんどい。
単純な復習ではなくて、理解を求めているから何だろうが……正直趣旨から外れていかに引っ掛けるかを楽しんでいるような言い回しなのだ。
『遠距離の目標に対して魔法を使う際は、なるべく視認できる場所から行わなければならない』
「これは……○かな? 初心者の場合だと視認は基本だけど、時と場合によるからこれは悩ましいな。絶対視認してからって書くと色々問題が出るからなぁ……。えっとちょっと教科書みてみるか……」
そう思って、サンプル問題を解く手を止めて配布の教科書を見る。
「えっと……」
教科書にはこういうことが記述してあった。
『初心者のうちは、目標を確実に視認できる場所から行うのが、魔法の命中精度を高め、不測の事態を避けるための基本となります。ですが、必ずしも視認できないから魔法を使えないということではありません。特定の魔法では、音や気配、あるいは魔力の残滓などを頼りに、視界に入らない目標に対しても魔法を行使することが可能です。ただし、これは熟練した魔法使いの技術であり、初心者が安易に模倣することは推奨されません。無闇に実行し、あらぬ場所に魔法を放ってしまった場合の責任は、すべて術者に帰属します』
初心者講習にこういうのを入れてるとお調子者が、だって教科書に見なくても行使できるって書いてあったとなるから記述しないと思っていたけど、しっかり書いてあるんだな。きっと、免許取り立ての若者が、無駄に格好つけて「ノールック魔法」を試みて、とんでもない失敗をやらかした事例が、過去にあったに違いない。
命中精度とかガン無視で、背後の気配に『そこっ!』とかいいよなぁ……とか思っちゃう年頃(なお前世の年齢は無視するものとする)だからな。しっかりと魔法免許取れたら、練習してみよう。
そんな人から見たらくだらないと捨てられそうなことを考えながら勉強を続けるのであった。
頭の中では、すでに免許取得後の華麗な「ノールック魔法」が炸裂する、妄想のヒーロー像が描かれていた。
たとえ教官から馬鹿なことを考えてと言われようが実現させようと、私は心に誓うのだった。
「何だこの試験のサンプル問題……あー、ひっかけとかも多いなぁ」
冷静な判断力とか読解能力とかいう以前に、問題文の言い回しそのものが人を苛立たせる。
これはあれだ、前世で受けた運転免許の学科試験問題集を思い出させる。
あの意地の悪い、それでいて妙に実用的なひっかけ問題のオンパレードだ。
『適切干渉緩和距離は詠唱者の体の中心と中心を結んで五メートルである』
「これは……×だ。ええっと、術行使の杖と杖の距離が問題で、魔力の練りこみの阻害を考えて……そうだ、思い出した! 杖と杖の距離で三メートル以上で、なおかつ身体の接触は特殊な場合を除いて魔力行使者……予備詠唱動作中同士の魔力循環に悪影響が考えられるから気をつけるように、みたいなこと言ってたな」
運転免許の試験と同じで、実用的なことと、巧妙な記述トリックとが混ざっている。
「安全確認は義務である。しっかりと車両をみなければならない」を「安全確認は目視確認のみでよい」などと言い換えて、曖昧な言葉で惑わしてくるあの手口に酷似している。
『夜は、視界が悪く魔法の正確性が落ちるので市街地で魔法を使ってはいけない』
「これも×だ。夜は……じゃなくて基本的に市街地であれこれしてたら怒られるだろう。昼夜関係なく、無許可の魔法使用は『魔法使用禁止区域違反』で罰金ものだ」
大体こんな調子である。正直な所、問題を読んでいるだけでイライラしてくる。
市街地で魔法の使用が出来るのは現場近くに騎士団員が居て許可された場合のみだが、近頃これも怪しい。
前世の話だと、猟銃発砲でもめたときと同じで、飛び道具としての魔法は便利だが、二次被害が出た場合の責任の所在の問題が出てくるので、たとえ許可されたとしても実行性に関してはなかなか難しいのが現状らしい。
「火球が民家の屋根に当たって焦げ付いた場合、責任は誰が取るのか」
「詠唱中の魔力流出で通行人が気分を悪くした場合の慰謝料は?」など、現実的なトラブル事例が山積しているのだろう。
まあ、そんなことを考えても今は仕方がない。
溜息を吐きつつも、次の問題に目を通す。
『詠唱が長ければ長いほど、魔法の威力は確実に増大する』
「これは×だな……。予備詠唱を丁寧にすると詠唱は長くなるし、循環する魔力も早く多くなるけどそれが総てじゃないから。ここで『確実』ときたか……。逆に確実じゃないから引っ掛けだって教えてくれてるようなもんだ。ご親切にどうも、ってな」
威力の増大は、そういう魔力の練りこみのほかに正確性も要求されるから詠唱の長さイコールじゃない。
不必要な詠唱は術者の集中力をそぎかねないので、正確かつ的確かつ適切にを意識するように教官に言われたな。
「無駄な動作は魔力の無駄遣いだっ!!」
「長い詠唱は疲労の元! 手早く、確実に、無駄なくしろっ!!」と、厳しく指導してくる教官が脳裏に浮かぶ。
ああ、鬼のような表情で怒鳴るのは勘弁してくださいよ、教官。
こんな風に余計なことばかり考えてしまうのは、問題のひねくれた言い回しのせいだ。
間違いない。
『魔法発動中は、魔力の制御に集中するため、周囲の音には意識を向けない方が良い』
「えっと……詠唱中じゃなくて、発動制御の段階になると……むしろ余計に周りの状況を見ないといけないんじゃ……。詠唱は、出来れば集中する環境にして、でないと失敗する確率が跳ね上がるからってのがあるけど……。たぶん×だな。これ、きっと『周囲への注意を怠ってはいけない』というひっかけなんだろうな。詠唱に夢中になって、背後から魔物が忍び寄っても気づかなかった、なんて事故が実際にあったんだろう」
問題文の引っかけを意識しながら考える。
これは正直言って、「この問題を作成した奴は、きっと性格が悪い」と、前世の自分と同じような感想になる。
何というか、問題者の悪意に対して恨み節を吐き出しながら問題と向き合うのは、結構しんどい。
単純な復習ではなくて、理解を求めているから何だろうが……正直趣旨から外れていかに引っ掛けるかを楽しんでいるような言い回しなのだ。
『遠距離の目標に対して魔法を使う際は、なるべく視認できる場所から行わなければならない』
「これは……○かな? 初心者の場合だと視認は基本だけど、時と場合によるからこれは悩ましいな。絶対視認してからって書くと色々問題が出るからなぁ……。えっとちょっと教科書みてみるか……」
そう思って、サンプル問題を解く手を止めて配布の教科書を見る。
「えっと……」
教科書にはこういうことが記述してあった。
『初心者のうちは、目標を確実に視認できる場所から行うのが、魔法の命中精度を高め、不測の事態を避けるための基本となります。ですが、必ずしも視認できないから魔法を使えないということではありません。特定の魔法では、音や気配、あるいは魔力の残滓などを頼りに、視界に入らない目標に対しても魔法を行使することが可能です。ただし、これは熟練した魔法使いの技術であり、初心者が安易に模倣することは推奨されません。無闇に実行し、あらぬ場所に魔法を放ってしまった場合の責任は、すべて術者に帰属します』
初心者講習にこういうのを入れてるとお調子者が、だって教科書に見なくても行使できるって書いてあったとなるから記述しないと思っていたけど、しっかり書いてあるんだな。きっと、免許取り立ての若者が、無駄に格好つけて「ノールック魔法」を試みて、とんでもない失敗をやらかした事例が、過去にあったに違いない。
命中精度とかガン無視で、背後の気配に『そこっ!』とかいいよなぁ……とか思っちゃう年頃(なお前世の年齢は無視するものとする)だからな。しっかりと魔法免許取れたら、練習してみよう。
そんな人から見たらくだらないと捨てられそうなことを考えながら勉強を続けるのであった。
頭の中では、すでに免許取得後の華麗な「ノールック魔法」が炸裂する、妄想のヒーロー像が描かれていた。
たとえ教官から馬鹿なことを考えてと言われようが実現させようと、私は心に誓うのだった。
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