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第八話:フィールド教習の洗礼
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第八話:フィールド教習の洗礼
実技と座学の日々を聖王国騎士団直属魔法使い免許センターで繰り返していた。
ここ最近は魔力の練りこみとそれに応じた杖内部の魔力循環速度向上に関する予備詠唱を行い、それから本詠唱を行う流れを何度も練習し魔法を撃つのに慣れてきたところだ。
教官もこの辺りは褒めてくれている。
残念ながらまだぎこちなさが残るが、第一予備詠唱から第二予備詠唱への繋ぎも大分慣れてきた。
そんな鍛錬の日々を越えて、いよいよ、フィールド教習となった。
まるで、狭い教習所のコースから、いよいよ一般道に出るような緊張感だ。
しかも、こちらは魔物が潜む可能性がある、はるかに危険な「道」だが。
「それでは早速行くとするか」
「よろしくお願いいたします」
女性教官と二人で森を歩く。彼女の鎧は、陽光を受けてキラリと光っていた。
まずは王都近くの森での平原で魔法を使う訓練である。
教習所内部もかなり広く土地が確保されているが、それ以上に広がる平原。
ここも安全が確保できれば耕作地として活用できそうなものだが、今のところは見通しの良いただの平原である。
ちらほらと冒険者らしき影も遠くに見える。
どうやら、ここが教習で使われているというのは周知のようである。
危ないと解っているためか、近寄るような動きはない。
「そう畏まらずとも良い。私が同行するのはあくまでも補助者としてだ。お前が自分の力で戦えるようになってもらう為に指導しているのだから」
教官が微笑んでそう言う。
その笑顔は、教習所の中では見せない、どこか保護者を思わせるような優しい表情だった。
「そ、そうですね」
確かにそうだなと思いながらも緊張する。
「まあ初めての実戦形式だから緊張はしているかもしれんが安心しろ。ちゃんと指導はしてやる」
そう言ってくれる教官。
その表情はとても柔らかく魅力的で思わず見惚れてしまいそうになるくらいだ。
慌てて顔を逸らして心を落ち着かせる。
フィールドに出るということで普段とは違う表情、場所に、惹かれそうになる。
とはいえ、ほんわかした雰囲気はここまでだった。
フィールド実戦は、怪我の可能性もあるし、場合によっては命に関わることもあるのでかなり厳しい。
何より聖王国騎士団直属の教習所である。実戦を経てきた猛者が教官なことも珍しくない。
「注意散漫だぞ!ここが戦場ならお前は何度死んでいるか解らん!」
さっきまでの優しい笑顔はどこへやら……。
教官の声は一瞬にして厳しさを増し、表情はいつもの鬼教官の厳しく引き締まったものに戻っていた。
血が滾るのか、やたらテンションを上げる女性教官。
背後から、闘気を思わせるようなプレッシャーが伝わってきてちょっと怖い。
「右見て左見て、ちゃんと周囲を確認して前へ進め! 足元もおろそかにするな!」
厳しい声が飛んでくる。
教習所のようにしっかり管理されている訳じゃないから当然ではあるのだが、あまりにものんびりとした光景に油断していたことも確かだった。
平原ではあるが、足元の草はスネークなどの魔物が隠れている可能性がある。
索敵というか注意を怠ってはいけない。
それでいうと空を飛ぶ魔物も居るし、なかなか何処を警戒すればいいか悩ましいし緊張するし難しい。
まるで、「路上教習中に、信号無視の車や飛び出しの子供、さらには空から落下してくる隕石にまで気を配れ」と言われているようなものだ。
あまりの無茶振りに、私には何から手を付けていいのか分からず、ただ呆然とするしかなかった。
「よし、カズ。ここでファイヤーボールを撃ってみろ。予備詠唱は第一詠唱で構わない。目標はあの岩だ」
そんな呆然としていた私に、急に命令が下る。
教官が指差したターゲットは、遠くの大きな岩だ。
「え? え?」
あわてて杖に魔力を込めようとするが、循環開始まもなく霧散してしまう。
詠唱段階を上げるどころか、スタートで魔力ストップしてしまうとは……。
「……駄目だな。まあいい、今日は初日だ。周囲の警戒は私が請け負う。一度大きく深呼吸して落ち着くんだ」
言われるままに大きく息を吸いこんでしっかりと吐く。
そうしていると少し気持ちが落ち着いてくる。
その分周りの機微を感じられるようになったのか、頬を撫でる風にくすぐったさを覚える。
何となくだが視界が広がったような気がしてくる。
草と土のいかにもな香りが鼻腔をくすぐってきた。
「うむ、落ち着いたようだな。カズ、あらためて予備詠唱を始めろ。ただし、杖にばかり気を取られるな、焦るな。集中は魔法使いに必須だが、周りを見失うほど集中すると敵からの攻撃を避けられない。複数のことを同時にこなすのは辛いだろうが、慣れるしかない。ただ、今だとどうしても駄目ならオートマ杖とかもあるから魔法使いを諦めることはないからな」
女性教官はそう言ってくれた。
オートマ杖を推奨しないと言っている教官も多いが、この教官は選択肢を広げてくれるタイプのようだ。
確かに慣れは必要かもしれないが、魔法は使いたい。だから頑張ろうと思う。
抜けるような碧い空の下、いかにも田舎というか、前世で言うところの北海道のような広がった平原の中で小鳥の囀りや穏やかな風を感じながら杖を握り締める。
周りの風景は良く見えている。
「初動の鼓動……緩やかに魔力は沸き起こり力の流転を始めたり……」
視界が広がり高揚感が身体を包む。
第一段階の予備詠唱をして……また魔力を霧散させた。
「うむ、今度は杖への集中が足りなかったようだな。やり直し!」
まさか、もう一度失敗するとは。いけると思ったのに、現実は甘くない。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
気を引き締めて顔を上げる。
その視線の先で、教官はただ静かに、そして優しく私を見守ってくれていた。
実技と座学の日々を聖王国騎士団直属魔法使い免許センターで繰り返していた。
ここ最近は魔力の練りこみとそれに応じた杖内部の魔力循環速度向上に関する予備詠唱を行い、それから本詠唱を行う流れを何度も練習し魔法を撃つのに慣れてきたところだ。
教官もこの辺りは褒めてくれている。
残念ながらまだぎこちなさが残るが、第一予備詠唱から第二予備詠唱への繋ぎも大分慣れてきた。
そんな鍛錬の日々を越えて、いよいよ、フィールド教習となった。
まるで、狭い教習所のコースから、いよいよ一般道に出るような緊張感だ。
しかも、こちらは魔物が潜む可能性がある、はるかに危険な「道」だが。
「それでは早速行くとするか」
「よろしくお願いいたします」
女性教官と二人で森を歩く。彼女の鎧は、陽光を受けてキラリと光っていた。
まずは王都近くの森での平原で魔法を使う訓練である。
教習所内部もかなり広く土地が確保されているが、それ以上に広がる平原。
ここも安全が確保できれば耕作地として活用できそうなものだが、今のところは見通しの良いただの平原である。
ちらほらと冒険者らしき影も遠くに見える。
どうやら、ここが教習で使われているというのは周知のようである。
危ないと解っているためか、近寄るような動きはない。
「そう畏まらずとも良い。私が同行するのはあくまでも補助者としてだ。お前が自分の力で戦えるようになってもらう為に指導しているのだから」
教官が微笑んでそう言う。
その笑顔は、教習所の中では見せない、どこか保護者を思わせるような優しい表情だった。
「そ、そうですね」
確かにそうだなと思いながらも緊張する。
「まあ初めての実戦形式だから緊張はしているかもしれんが安心しろ。ちゃんと指導はしてやる」
そう言ってくれる教官。
その表情はとても柔らかく魅力的で思わず見惚れてしまいそうになるくらいだ。
慌てて顔を逸らして心を落ち着かせる。
フィールドに出るということで普段とは違う表情、場所に、惹かれそうになる。
とはいえ、ほんわかした雰囲気はここまでだった。
フィールド実戦は、怪我の可能性もあるし、場合によっては命に関わることもあるのでかなり厳しい。
何より聖王国騎士団直属の教習所である。実戦を経てきた猛者が教官なことも珍しくない。
「注意散漫だぞ!ここが戦場ならお前は何度死んでいるか解らん!」
さっきまでの優しい笑顔はどこへやら……。
教官の声は一瞬にして厳しさを増し、表情はいつもの鬼教官の厳しく引き締まったものに戻っていた。
血が滾るのか、やたらテンションを上げる女性教官。
背後から、闘気を思わせるようなプレッシャーが伝わってきてちょっと怖い。
「右見て左見て、ちゃんと周囲を確認して前へ進め! 足元もおろそかにするな!」
厳しい声が飛んでくる。
教習所のようにしっかり管理されている訳じゃないから当然ではあるのだが、あまりにものんびりとした光景に油断していたことも確かだった。
平原ではあるが、足元の草はスネークなどの魔物が隠れている可能性がある。
索敵というか注意を怠ってはいけない。
それでいうと空を飛ぶ魔物も居るし、なかなか何処を警戒すればいいか悩ましいし緊張するし難しい。
まるで、「路上教習中に、信号無視の車や飛び出しの子供、さらには空から落下してくる隕石にまで気を配れ」と言われているようなものだ。
あまりの無茶振りに、私には何から手を付けていいのか分からず、ただ呆然とするしかなかった。
「よし、カズ。ここでファイヤーボールを撃ってみろ。予備詠唱は第一詠唱で構わない。目標はあの岩だ」
そんな呆然としていた私に、急に命令が下る。
教官が指差したターゲットは、遠くの大きな岩だ。
「え? え?」
あわてて杖に魔力を込めようとするが、循環開始まもなく霧散してしまう。
詠唱段階を上げるどころか、スタートで魔力ストップしてしまうとは……。
「……駄目だな。まあいい、今日は初日だ。周囲の警戒は私が請け負う。一度大きく深呼吸して落ち着くんだ」
言われるままに大きく息を吸いこんでしっかりと吐く。
そうしていると少し気持ちが落ち着いてくる。
その分周りの機微を感じられるようになったのか、頬を撫でる風にくすぐったさを覚える。
何となくだが視界が広がったような気がしてくる。
草と土のいかにもな香りが鼻腔をくすぐってきた。
「うむ、落ち着いたようだな。カズ、あらためて予備詠唱を始めろ。ただし、杖にばかり気を取られるな、焦るな。集中は魔法使いに必須だが、周りを見失うほど集中すると敵からの攻撃を避けられない。複数のことを同時にこなすのは辛いだろうが、慣れるしかない。ただ、今だとどうしても駄目ならオートマ杖とかもあるから魔法使いを諦めることはないからな」
女性教官はそう言ってくれた。
オートマ杖を推奨しないと言っている教官も多いが、この教官は選択肢を広げてくれるタイプのようだ。
確かに慣れは必要かもしれないが、魔法は使いたい。だから頑張ろうと思う。
抜けるような碧い空の下、いかにも田舎というか、前世で言うところの北海道のような広がった平原の中で小鳥の囀りや穏やかな風を感じながら杖を握り締める。
周りの風景は良く見えている。
「初動の鼓動……緩やかに魔力は沸き起こり力の流転を始めたり……」
視界が広がり高揚感が身体を包む。
第一段階の予備詠唱をして……また魔力を霧散させた。
「うむ、今度は杖への集中が足りなかったようだな。やり直し!」
まさか、もう一度失敗するとは。いけると思ったのに、現実は甘くない。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
気を引き締めて顔を上げる。
その視線の先で、教官はただ静かに、そして優しく私を見守ってくれていた。
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