53 / 67
52.どうして?(2)
しおりを挟む
「どうして母さまは母さまやめたの?」
お部屋の空気が凍り付きました。さすがのノーランですら固まっています。
「違うわ、コニー。お母様がやめたのは、お父様の妻でいることよ」
「つま?」
「えっとね、奥様……お嫁さんよ。伯爵夫人でもいいけど」
「めがみじゃないの?」
「それもあったわね」
子供達の場違いに和やかな会話だけが続いています。
「んとね。じゃあ、もういっかいね?
母さま。どうして父さまのおよめさん、やめちゃったの?」
部屋の中に沈黙が流れ、呼吸音すら響きそうなほどです。
私はちゃんと伝えるつもりはありましたよ?
でも、彼等の瞳はダイアナ様をロックオン。彼女の言葉を求めています。
母親としての説明を望んでいるのです。
「……お母様ね、病気になってしまったの」
「たいへん!せんせーよばなきゃ!」
「待ってコニー。……それはもう治ったの?」
「ええ…、一年近くかかったけど、何とか」
「そのご病気は、この家では治せなかったの?」
「……」
「どっちですか?」
「……たぶん、大きな病院じゃないと無理だったから……王都には行ったかも」
「なおってよかったね!」
「……ありがとう」
少しホッとしていますが、彼等は今、小悪魔な狩人です。どこまでも狙ってきますよ。
「ん?びょうきと~、父さまのおよめさん。どうして?べつっこよ?ちがうおはなしだよ?」
「そうね。王都に行くのに、家出する必要はないわよね。どう繋がるの?」
ほら。彼等が納得するまで質問は続きますよ。
「……お母様ね。死ぬかもしれなかったの。もし、お母様が死んじゃったら、お父様も死んで追いかけてくるかと思って……そしたら、貴方達が二人だけ残されちゃうでしょう?そうなったら困ると思って、病気は内緒で出ていったの」
「……父さま、死なないよ?」
「お父様はお母様が大好きだから、いないと悲し過ぎるから死んじゃうと思ったの?」
「……そうよ」
「父さま、死なないよ!だって、ぼくがいるもん!姉さまもいるもん!おいてかないの!おいてったのは母さまでしょ!?うそつきっ!!」
コニー様が大きな声でダイアナ様を責めました。
「父さま、またおとまりしていいっていった!父さま、やくそくしたよね?うそじゃないよね?
……ぼくのこと、おいてかないよね?」
大きな瞳からポロポロと涙がこぼれてしまいました。本当はずっと置いて行かれた寂しさを抱えていたのでしょう。
私も置いて行かれた悲しみを知っています。あの悲しさを、こんなにも小さな子が味わい、苦しんでいたのです。
ダイアナ様の目に、コニー様の涙はどう映っているのでしょうか。
「ああ、約束したな。嘘はつかない。お前達を置いていくはずないだろう?」
旦那様が優しく抱きしめ、背中をポンポンと撫でています。子供達とのスキンシップがずいぶんと上達しました。
「……どうしてお母様を責めるの?」
「嘘つきだからよ」
「なっ!?嘘なんか吐いていないわっ!」
「じゃあ、どうしてブレイズを連れて行ったの?」
「!?」
ダイアナ様は、子供達が気付かないと思っていたのでしょうか。屋敷から同じ日にいなくなれば、一緒に出て行ったと分かるに決まっていますのに。
お二人を子供だからと侮っていたのでしょうか。
「ブレイズだった理由は何?彼よりポーラの方がずっと役に立ったと思うけど。
だいたい私達の為?だったら、私達をお祖父様のお家に連れて行けばよかったでしょう?
そしたら、私達は二人だけにはならなかったわ」
フェミィ様は本当に賢くて……可哀想です。ダイアナ様の卑小さが分かってしまっているのでしょう。
「……母さま。父さまね、ちゃんとお願いきいてくれるよ?ごはんおしえてってかいたら、ちゃんと毎日おしえてくれるの。サンドイッチばかりはだめだよっいったら、ちゃとほかのもの食べるよ。ごっこ遊びもね、こんどお客さんになってくれるって。
ねえ、どうして?どうして母さま、父さまにお願いしなかったの?」
ダイアナ様は答えられないようです。きっと頭の中では言い訳を探そうとフル回転なさっていふのでしょう。
彼等が聞きたいのは言い訳ではなく真実ですのに。
「コンラッド、すまない」
「……どして父さまがあやまるの?」
「私が臆病だったからだ。もっと早くにダイアナと話し合うべきだったのに、嫌われるのが怖くて逃げていた」
「……わかんない」
「父様と母様は仲良くなれなかったんだ」
「どうして?」
「どうしてだろう……。そうだな、こないだコンラッドが教えてくれただろう?大人だって間違える、完璧じゃないって」
「うん」
「父様は、母様が正しいと思っていた。駄目なのは父様だけで、母様が間違うはずがないと……。
でも、本当は母様も間違っていた。そのことを父様はずっとずっと言わなかった。母様は間違ったまま、今まで来てしまったんだ」
「母さま、まちがったの?」
「うん。だから間違ってコンラッド達を置いていったんだ」
「……母さま、おバカさんね」
「そうだな。こんな父様と母様でごめんな」
そう謝罪した旦那様をコニー様はじっと見つめています。そして、
「ごめんなさいっていえて、父様はえらいね。よくできました!」
少し背伸びして、しゃがんでいる旦那様の頭をクシャクシャとかき混ぜました。
お部屋の空気が凍り付きました。さすがのノーランですら固まっています。
「違うわ、コニー。お母様がやめたのは、お父様の妻でいることよ」
「つま?」
「えっとね、奥様……お嫁さんよ。伯爵夫人でもいいけど」
「めがみじゃないの?」
「それもあったわね」
子供達の場違いに和やかな会話だけが続いています。
「んとね。じゃあ、もういっかいね?
母さま。どうして父さまのおよめさん、やめちゃったの?」
部屋の中に沈黙が流れ、呼吸音すら響きそうなほどです。
私はちゃんと伝えるつもりはありましたよ?
でも、彼等の瞳はダイアナ様をロックオン。彼女の言葉を求めています。
母親としての説明を望んでいるのです。
「……お母様ね、病気になってしまったの」
「たいへん!せんせーよばなきゃ!」
「待ってコニー。……それはもう治ったの?」
「ええ…、一年近くかかったけど、何とか」
「そのご病気は、この家では治せなかったの?」
「……」
「どっちですか?」
「……たぶん、大きな病院じゃないと無理だったから……王都には行ったかも」
「なおってよかったね!」
「……ありがとう」
少しホッとしていますが、彼等は今、小悪魔な狩人です。どこまでも狙ってきますよ。
「ん?びょうきと~、父さまのおよめさん。どうして?べつっこよ?ちがうおはなしだよ?」
「そうね。王都に行くのに、家出する必要はないわよね。どう繋がるの?」
ほら。彼等が納得するまで質問は続きますよ。
「……お母様ね。死ぬかもしれなかったの。もし、お母様が死んじゃったら、お父様も死んで追いかけてくるかと思って……そしたら、貴方達が二人だけ残されちゃうでしょう?そうなったら困ると思って、病気は内緒で出ていったの」
「……父さま、死なないよ?」
「お父様はお母様が大好きだから、いないと悲し過ぎるから死んじゃうと思ったの?」
「……そうよ」
「父さま、死なないよ!だって、ぼくがいるもん!姉さまもいるもん!おいてかないの!おいてったのは母さまでしょ!?うそつきっ!!」
コニー様が大きな声でダイアナ様を責めました。
「父さま、またおとまりしていいっていった!父さま、やくそくしたよね?うそじゃないよね?
……ぼくのこと、おいてかないよね?」
大きな瞳からポロポロと涙がこぼれてしまいました。本当はずっと置いて行かれた寂しさを抱えていたのでしょう。
私も置いて行かれた悲しみを知っています。あの悲しさを、こんなにも小さな子が味わい、苦しんでいたのです。
ダイアナ様の目に、コニー様の涙はどう映っているのでしょうか。
「ああ、約束したな。嘘はつかない。お前達を置いていくはずないだろう?」
旦那様が優しく抱きしめ、背中をポンポンと撫でています。子供達とのスキンシップがずいぶんと上達しました。
「……どうしてお母様を責めるの?」
「嘘つきだからよ」
「なっ!?嘘なんか吐いていないわっ!」
「じゃあ、どうしてブレイズを連れて行ったの?」
「!?」
ダイアナ様は、子供達が気付かないと思っていたのでしょうか。屋敷から同じ日にいなくなれば、一緒に出て行ったと分かるに決まっていますのに。
お二人を子供だからと侮っていたのでしょうか。
「ブレイズだった理由は何?彼よりポーラの方がずっと役に立ったと思うけど。
だいたい私達の為?だったら、私達をお祖父様のお家に連れて行けばよかったでしょう?
そしたら、私達は二人だけにはならなかったわ」
フェミィ様は本当に賢くて……可哀想です。ダイアナ様の卑小さが分かってしまっているのでしょう。
「……母さま。父さまね、ちゃんとお願いきいてくれるよ?ごはんおしえてってかいたら、ちゃんと毎日おしえてくれるの。サンドイッチばかりはだめだよっいったら、ちゃとほかのもの食べるよ。ごっこ遊びもね、こんどお客さんになってくれるって。
ねえ、どうして?どうして母さま、父さまにお願いしなかったの?」
ダイアナ様は答えられないようです。きっと頭の中では言い訳を探そうとフル回転なさっていふのでしょう。
彼等が聞きたいのは言い訳ではなく真実ですのに。
「コンラッド、すまない」
「……どして父さまがあやまるの?」
「私が臆病だったからだ。もっと早くにダイアナと話し合うべきだったのに、嫌われるのが怖くて逃げていた」
「……わかんない」
「父様と母様は仲良くなれなかったんだ」
「どうして?」
「どうしてだろう……。そうだな、こないだコンラッドが教えてくれただろう?大人だって間違える、完璧じゃないって」
「うん」
「父様は、母様が正しいと思っていた。駄目なのは父様だけで、母様が間違うはずがないと……。
でも、本当は母様も間違っていた。そのことを父様はずっとずっと言わなかった。母様は間違ったまま、今まで来てしまったんだ」
「母さま、まちがったの?」
「うん。だから間違ってコンラッド達を置いていったんだ」
「……母さま、おバカさんね」
「そうだな。こんな父様と母様でごめんな」
そう謝罪した旦那様をコニー様はじっと見つめています。そして、
「ごめんなさいっていえて、父様はえらいね。よくできました!」
少し背伸びして、しゃがんでいる旦那様の頭をクシャクシャとかき混ぜました。
3,655
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる