3 / 88
3.
しおりを挟む
1ヶ月なんてあっという間ね。
通常業務の合間に引き継ぎ資料の作成、担当が変わる挨拶回りをし、出国手続きにも時間がかかるためこちらも大急ぎで進め、家に帰れば荷造りとエルディア医療の勉強もする。もう全っっっ然時間が足りない!
デートだなんて浮かれていたのは最初だけだった。まあ、久しぶりに二人でのんびりできて楽しかったけど。それに。
そっとピアスに触れる。シルバーとサファイアが綺麗。まるで彼みたい。
「防御の魔法が込めてあるんだ。俺だと思って毎日付けていて。本当は指輪にしたいけど、仕事の邪魔になるだろ?」
あれからスッと胸の支えが取れた気分。私も単純だわ。
嬉しくて、つい歌いながら魔法陣を編んでいく。体力回復。精神疲労軽減。乗り物酔い軽減。長い道程だからと馬車に回復魔法を掛けていく。もちろん事前に了承は得ている。防御魔法を邪魔しないのならとお許しをいただけた。そんな無能なことはしませんよっと!
よし、完成。
「ありがとうございます。これだけの台数に掛けるのは大変でしょう」
「いえ、物に掛けるのは人体に掛けるよりよっぽど楽なのでへっちゃらですよ」
「なるほど。さすがですね」
「ありがとうございます。これで全部終わりましたので鑑定お願いできますか?」
「はい。ああ、いいですね。キレイに掛かってますし、もともとの防御魔法にも問題無いですね」
「普段は回復魔法はかけないのですか?」
「そうですね、いままでは防御面ばかり気にしていました」
「まあ、回復魔法はお薦めですよ。今回の旅でお気に召したらまたご依頼下さい」
ついつい営業をかけてしまった。でも本当に便利なのよ。体力の無い女性には特におすすめなのよね。
私は侍女の方達と同じ馬車に乗せてもらう。せっかくだから体調のチェックもさせてもらおう。
知らない方ばかりだもの。少しでも仲良くなれるといいけど。
結果、回復魔法は大変喜ばれた。やはり長時間の馬車移動は苦痛だったらしい。セシリオは護衛として王女殿下の側にいるため、会える時間が少ない。話せる人が増えて本当に良かったわ。お陰様で楽しい旅になった。
でも、楽しかったのはここまでだった。
「私だけ移動とはどういうことですか?」
「あなたはクラウディア様の嫁入りとは無関係。クルス卿の同伴を断られたと聞いていますが?」
「……はい」
「医療魔法士としての研修ならば、ここに置いておくわけには参りません。寮に案内します。彼に付いて行ってください」
「あの、クルス卿に」
「彼は護衛騎士ですよね。あなたはその仕事を邪魔されるのですか?」
「……いえ、申し訳ありません」
なぜこんなに敵意を持たれているの?
エルディアの王宮に着くなり追い出されるなんて思わなかったわ。あの陰険侍従め。毛根死滅の魔法を掛けてやりたい!
心の中で罵倒しながら表面上は大人しく従う。ここで喧嘩してもどうしようもない。だが、案内された場所を見て驚いた。
「……あの、本当にここですか?」
「何か問題が?」
「先程の説明ではこちらは男性寮なんですよね?本当に問題が無いと思われますか?」
「仕方がないでしょう。我が国の医療魔法士に女性などいません。それを分かっていて来たのではないのですか?」
院長大変です!女性が少ないのではなく、まさかのゼロですって!
「連絡に行き違いがあったようですね。しかし、男性寮での寝泊まりはいたしかねます。もしここで何か問題が起これば、こちらを勧めたあなたにも責任がかかると思いますよ?それでもいいとおっしゃるなら、どうぞ置いて行ってください」
さあどうする?じっと睨み合う。
チッ、と舌打ちが聞こえた。
「なら帰ればいいだろう。腰掛け女に教えることなんかないんだよ!」
毛根死滅とあとは何を掛けよう。不能かな。
もうやっていいかな。いいよね?
「なんだよ、そのブサイクな顔は。女の癖に本当に生意気だな。ああ、だから嫁の貰い手がなくてここで働こうとしているのか?」
ニヤニヤした顔が本当に腹立たしい。なぜ初対面の人間にここまで言われないといけないの。
「……男のくせにギャーギャーうるさい」
「は?!」
「ピヨピヨ囀ってあなたこそ女なの?格好悪いわね」
ごめんね、私は短気なの。目の前の男を睨みつけながら自分の体に魔法を掛ける。筋力アップの重ねがけ。
思った通り殴りかかって来た。そんな大振り当たってあげない。でも、少しだけかすらせる。じゃないと正当防衛にならないもの。当たった肩がビリビリする。本気でやったな!
そのまま思い切り男の腹を殴る。う~~、手が痛い!でも、それで終わらず急所を蹴り上げた。まあ不能にはならないでしょ。
私だって治癒院で酔っぱらいや荒くれ共を相手にすることもある。お上品なだけではやっていけないのだ。
「お前達は何をやっている!!」
騒ぎを聞きつけて人が集まってきた。
「彼が殴りかかって来たので対処しました」
私の肩にはアザができているだろう。ちゃんと証拠有りだ。
彼に貰ったピアスの魔法が発動しなくて本当によかった。
でも、やり過ぎたかな。さっきの筋力アップの重ねがけのせいで節々が痛い。絶対に明日は筋肉痛だわ。
通常業務の合間に引き継ぎ資料の作成、担当が変わる挨拶回りをし、出国手続きにも時間がかかるためこちらも大急ぎで進め、家に帰れば荷造りとエルディア医療の勉強もする。もう全っっっ然時間が足りない!
デートだなんて浮かれていたのは最初だけだった。まあ、久しぶりに二人でのんびりできて楽しかったけど。それに。
そっとピアスに触れる。シルバーとサファイアが綺麗。まるで彼みたい。
「防御の魔法が込めてあるんだ。俺だと思って毎日付けていて。本当は指輪にしたいけど、仕事の邪魔になるだろ?」
あれからスッと胸の支えが取れた気分。私も単純だわ。
嬉しくて、つい歌いながら魔法陣を編んでいく。体力回復。精神疲労軽減。乗り物酔い軽減。長い道程だからと馬車に回復魔法を掛けていく。もちろん事前に了承は得ている。防御魔法を邪魔しないのならとお許しをいただけた。そんな無能なことはしませんよっと!
よし、完成。
「ありがとうございます。これだけの台数に掛けるのは大変でしょう」
「いえ、物に掛けるのは人体に掛けるよりよっぽど楽なのでへっちゃらですよ」
「なるほど。さすがですね」
「ありがとうございます。これで全部終わりましたので鑑定お願いできますか?」
「はい。ああ、いいですね。キレイに掛かってますし、もともとの防御魔法にも問題無いですね」
「普段は回復魔法はかけないのですか?」
「そうですね、いままでは防御面ばかり気にしていました」
「まあ、回復魔法はお薦めですよ。今回の旅でお気に召したらまたご依頼下さい」
ついつい営業をかけてしまった。でも本当に便利なのよ。体力の無い女性には特におすすめなのよね。
私は侍女の方達と同じ馬車に乗せてもらう。せっかくだから体調のチェックもさせてもらおう。
知らない方ばかりだもの。少しでも仲良くなれるといいけど。
結果、回復魔法は大変喜ばれた。やはり長時間の馬車移動は苦痛だったらしい。セシリオは護衛として王女殿下の側にいるため、会える時間が少ない。話せる人が増えて本当に良かったわ。お陰様で楽しい旅になった。
でも、楽しかったのはここまでだった。
「私だけ移動とはどういうことですか?」
「あなたはクラウディア様の嫁入りとは無関係。クルス卿の同伴を断られたと聞いていますが?」
「……はい」
「医療魔法士としての研修ならば、ここに置いておくわけには参りません。寮に案内します。彼に付いて行ってください」
「あの、クルス卿に」
「彼は護衛騎士ですよね。あなたはその仕事を邪魔されるのですか?」
「……いえ、申し訳ありません」
なぜこんなに敵意を持たれているの?
エルディアの王宮に着くなり追い出されるなんて思わなかったわ。あの陰険侍従め。毛根死滅の魔法を掛けてやりたい!
心の中で罵倒しながら表面上は大人しく従う。ここで喧嘩してもどうしようもない。だが、案内された場所を見て驚いた。
「……あの、本当にここですか?」
「何か問題が?」
「先程の説明ではこちらは男性寮なんですよね?本当に問題が無いと思われますか?」
「仕方がないでしょう。我が国の医療魔法士に女性などいません。それを分かっていて来たのではないのですか?」
院長大変です!女性が少ないのではなく、まさかのゼロですって!
「連絡に行き違いがあったようですね。しかし、男性寮での寝泊まりはいたしかねます。もしここで何か問題が起これば、こちらを勧めたあなたにも責任がかかると思いますよ?それでもいいとおっしゃるなら、どうぞ置いて行ってください」
さあどうする?じっと睨み合う。
チッ、と舌打ちが聞こえた。
「なら帰ればいいだろう。腰掛け女に教えることなんかないんだよ!」
毛根死滅とあとは何を掛けよう。不能かな。
もうやっていいかな。いいよね?
「なんだよ、そのブサイクな顔は。女の癖に本当に生意気だな。ああ、だから嫁の貰い手がなくてここで働こうとしているのか?」
ニヤニヤした顔が本当に腹立たしい。なぜ初対面の人間にここまで言われないといけないの。
「……男のくせにギャーギャーうるさい」
「は?!」
「ピヨピヨ囀ってあなたこそ女なの?格好悪いわね」
ごめんね、私は短気なの。目の前の男を睨みつけながら自分の体に魔法を掛ける。筋力アップの重ねがけ。
思った通り殴りかかって来た。そんな大振り当たってあげない。でも、少しだけかすらせる。じゃないと正当防衛にならないもの。当たった肩がビリビリする。本気でやったな!
そのまま思い切り男の腹を殴る。う~~、手が痛い!でも、それで終わらず急所を蹴り上げた。まあ不能にはならないでしょ。
私だって治癒院で酔っぱらいや荒くれ共を相手にすることもある。お上品なだけではやっていけないのだ。
「お前達は何をやっている!!」
騒ぎを聞きつけて人が集まってきた。
「彼が殴りかかって来たので対処しました」
私の肩にはアザができているだろう。ちゃんと証拠有りだ。
彼に貰ったピアスの魔法が発動しなくて本当によかった。
でも、やり過ぎたかな。さっきの筋力アップの重ねがけのせいで節々が痛い。絶対に明日は筋肉痛だわ。
506
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
彼女の離縁とその波紋
豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。
※子どもに関するセンシティブな内容があります。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる