私はあなたの何番目ですか?

ましろ

文字の大きさ
28 / 88

28.

しおりを挟む
バレリアノ警備隊から不審者の報告が入ったのは、伝染病が確認されてから5日後のことだった。
不審者は2名。王太子殿下に目通りしたいと言う者、もう一人は医療魔法士ルシアに会いに来たと言う者。
この緊迫した時期に現れた者達への警戒態勢は許してほしい。 
そして、すぐに事件が起こった。二人の不審者が出会った途端……一人の髪の毛がごっそりと抜け落ちたのだ。突然の出来事に新たな病かと騒ぎになり、慌てて駆けつけた医局の者は現場を見てすぐに理解した。
ああ、兄妹だ──と。


「お兄様?!」

「ルシア!この大馬鹿者が!」


兄様がなんでここに?


「痛い痛い、痛いです!」


げんこつで頭をグリグリされる。禿げちゃう!


「お前のお転婆ぶりも落ち着いたかと思えば!ちょっと行ってくるといってエルディアに行くし!かと思えば結婚が無くなりました、このまま永住しようかな?なんてふざけた手紙を送って来るし!どういうことだ!」

「そんな言い方してないわ!私はお父様にちゃんと許可を貰ってここに来てるわよ!というかなんでセシリオまでここにいて……禿げちゃってるの?」


ヤバイわ。つるっつるになってる。


「ああ、なんで眉毛しか抜かなかったんだ?お前がそうやって甘やかすからソイツが馬鹿をやるんだろう」

「セシリオが馬鹿なのは私のせいではありません。彼が勝手にやったことです。乳母ではないので、つきっきりでお世話なんてしないわ。
……でもこれ大丈夫?まさか毛根死滅?」

「ほ、本当に?!二度と生えないのか?!」

「セシリオ、お前は自分が1番大切な様だな。妹を傷付けておいて、謝罪の前に髪の毛の心配か?」

「あ、義兄上、申し訳ありません!」

「義兄などと呼ぶな!」


すごく怒っているのはセシリオのせいか。
振られた私ですらそこまでしなかったのに、なぜ兄様がそこまでやっちゃうのよ。


「あの、お話し中失礼致します。ルシア嬢のお兄様ですか?初めまして。私はバレリアノ辺境伯リカルドと申します。ルシア嬢は一年の契約でこちらの医局に勤務していただいてるのですよ。任命書も発行された正式なものです。
ここでは何ですから、よろしければ我が家へお越しください。落ち着いて話をされた方が良いでしょう」


よかった、リカルド様が来てくれた!このままではセシリオが殺されそうです!


「これは大変失礼致しました。私はウルタード国、医療魔法士のミゲル・オルティスと申します。愚妹がお世話になりありがとうございます」


すごいわ、別人みたい。怒りはおさまったのかしら。お兄様は普段は優しいんだけど、怒るとすっごく怖いのよね。私より容赦がないもの。


「ところで。その汚物の処理は私に任せて頂いてもよろしいでしょうか。これ以上世の女性に迷惑をかけないように、去勢してから捨ててきますよ」

「ひぃっ!」


まだ怒ってる、困ったわね。私が庇うと余計に怒りそうだし。でもさすがにやり過ぎだわ。


「いや、ミゲル殿。ああ、名前で呼ばせてもらってもいいだろうか?
そちらのクルス卿は殿下を訪ねてきたそうだ。確認しないといけないことが多いので、処置は後にして頂けると助かります」

「ああ、では拘束しよう。うん、体内に毒物反応は無し。四肢感覚遮断。
質問には正しく答えろ。俺は嘘を見破るのが得意だ。知っているな?」

「真実のみを話すと誓います!」

「お前のようなクズの誓いなど信じるに値しない。聞かれたこと以外喋るな。
では閣下。質問をどうぞ」

「……ご協力感謝する。ではアルバ、結界を」

「かしこまりました」

なぜ兄が仕切っているのだろう。リカルド様こんな兄ですみません!
でも、セシリオは凄い運の持ち主ね。よくピンポイントで兄様と同じ日に到着したわ。おかげでスパイかどうかのチェックも早いでしょう。
兄様はある意味嘘発見器だ。体温、心音、血流、眼球運動、微かな体の動き、あらゆる事から嘘を見極める。
すでにビビってるから嘘なんて付かないと思うけど。
でも会わなければハゲにはされなかった……いえ、あの様子だといつかはやったわね。
しばらくすると結界が解除された。


「ありがとうございました。それでは行きましょう。ルシアも一緒に来るといい。あ、彼は他の馬車に乗ってもらうから。それとも、別の場所に変えるか?」


チラリとセシリオを見ながら聞かれる。
いやいや、セシリオとラファなら私はラファを取りますよ!


「お気遣いありがとうございます。ですが、久しぶりにラファに会えるチャンスは逃しませんよ。ぜひお邪魔させてください」

「よかった、ラファが喜ぶ。リコもね」

「失礼ですが、ラファとは?」

「ああ、甥っ子です。今4歳で、ルシアにとても懐いているんですよ」

「なるほど。本当に良くしてもらってるみたいですね。感謝します。
ルシア、元気そうで安心した。
皆心配しているぞ。親不孝者め」

「……うん、心配かけてごめんね?」


手紙だけでは心配になるのは当たり前だわ。
親不孝でごめんなさい。

「でも、セシリオのことはもういいよ。彼も権力に逆らえなかったんだし。あれ、生えてくるんでしょ?」

「騎士が権力に負けてどうする。主が愚かなままなのを放っておくのか?一言くらい諫めたのか?」

「……いえ、出来ないとはいいました」

「お前は自分を1番に守ったのだな。残念だよ。ずっとルシアを裏切らずにいてくれたのに。身の危険を感じた時、お前は何よりも自分を選んだんだ。主より、恋人より、自分の立場を。まあ、そんな人間なんて沢山いるさ、その程度のものだ。
その髪はすぐに生えてくる。眉もどうせ期限付きだろ?よかったな。生え揃えば何もかも忘れてやり直せる。
その後は自由に生きるがいい。俺達は二度と関わらない」

「兄様!もういいってば」

「……家族皆お前の結婚式を楽しみにしてたんだ。3年も待たされてやっとだと思っていたのに」

「ごめんね、でも大丈夫よ!これでもモテるんだから。こないだラファにもプロポーズされたわ!」

「……4歳だろ。14年も待つのか」

「……残念だよね」

「あの、本当に申し訳「俺に話し掛けるな」すみません!」


セシリオが弱くなってる。あれからだいぶ苦労したみたいね。兄様の怒りはいつ収まるかな。


しおりを挟む
感想 206

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

彼女の離縁とその波紋

豆狸
恋愛
夫にとって魅力的なのは、今も昔も恋人のあの女性なのでしょう。こうして私が悩んでいる間もふたりは楽しく笑い合っているのかと思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような気持ちになりました。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

処理中です...