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バレリアノ警備隊から不審者の報告が入ったのは、伝染病が確認されてから5日後のことだった。
不審者は2名。王太子殿下に目通りしたいと言う者、もう一人は医療魔法士ルシアに会いに来たと言う者。
この緊迫した時期に現れた者達への警戒態勢は許してほしい。
そして、すぐに事件が起こった。二人の不審者が出会った途端……一人の髪の毛がごっそりと抜け落ちたのだ。突然の出来事に新たな病かと騒ぎになり、慌てて駆けつけた医局の者は現場を見てすぐに理解した。
ああ、兄妹だ──と。
「お兄様?!」
「ルシア!この大馬鹿者が!」
兄様がなんでここに?
「痛い痛い、痛いです!」
げんこつで頭をグリグリされる。禿げちゃう!
「お前のお転婆ぶりも落ち着いたかと思えば!ちょっと行ってくるといってエルディアに行くし!かと思えば結婚が無くなりました、このまま永住しようかな?なんてふざけた手紙を送って来るし!どういうことだ!」
「そんな言い方してないわ!私はお父様にちゃんと許可を貰ってここに来てるわよ!というかなんでセシリオまでここにいて……禿げちゃってるの?」
ヤバイわ。つるっつるになってる。
「ああ、なんで眉毛しか抜かなかったんだ?お前がそうやって甘やかすからソイツが馬鹿をやるんだろう」
「セシリオが馬鹿なのは私のせいではありません。彼が勝手にやったことです。乳母ではないので、つきっきりでお世話なんてしないわ。
……でもこれ大丈夫?まさか毛根死滅?」
「ほ、本当に?!二度と生えないのか?!」
「セシリオ、お前は自分が1番大切な様だな。妹を傷付けておいて、謝罪の前に髪の毛の心配か?」
「あ、義兄上、申し訳ありません!」
「義兄などと呼ぶな!」
すごく怒っているのはセシリオのせいか。
振られた私ですらそこまでしなかったのに、なぜ兄様がそこまでやっちゃうのよ。
「あの、お話し中失礼致します。ルシア嬢のお兄様ですか?初めまして。私はバレリアノ辺境伯リカルドと申します。ルシア嬢は一年の契約でこちらの医局に勤務していただいてるのですよ。任命書も発行された正式なものです。
ここでは何ですから、よろしければ我が家へお越しください。落ち着いて話をされた方が良いでしょう」
よかった、リカルド様が来てくれた!このままではセシリオが殺されそうです!
「これは大変失礼致しました。私はウルタード国、医療魔法士のミゲル・オルティスと申します。愚妹がお世話になりありがとうございます」
すごいわ、別人みたい。怒りはおさまったのかしら。お兄様は普段は優しいんだけど、怒るとすっごく怖いのよね。私より容赦がないもの。
「ところで。その汚物の処理は私に任せて頂いてもよろしいでしょうか。これ以上世の女性に迷惑をかけないように、去勢してから捨ててきますよ」
「ひぃっ!」
まだ怒ってる、困ったわね。私が庇うと余計に怒りそうだし。でもさすがにやり過ぎだわ。
「いや、ミゲル殿。ああ、名前で呼ばせてもらってもいいだろうか?
そちらのクルス卿は殿下を訪ねてきたそうだ。確認しないといけないことが多いので、処置は後にして頂けると助かります」
「ああ、では拘束しよう。うん、体内に毒物反応は無し。四肢感覚遮断。
質問には正しく答えろ。俺は嘘を見破るのが得意だ。知っているな?」
「真実のみを話すと誓います!」
「お前のようなクズの誓いなど信じるに値しない。聞かれたこと以外喋るな。
では閣下。質問をどうぞ」
「……ご協力感謝する。ではアルバ、結界を」
「かしこまりました」
なぜ兄が仕切っているのだろう。リカルド様こんな兄ですみません!
でも、セシリオは凄い運の持ち主ね。よくピンポイントで兄様と同じ日に到着したわ。おかげでスパイかどうかのチェックも早いでしょう。
兄様はある意味嘘発見器だ。体温、心音、血流、眼球運動、微かな体の動き、あらゆる事から嘘を見極める。
すでにビビってるから嘘なんて付かないと思うけど。
でも会わなければハゲにはされなかった……いえ、あの様子だといつかはやったわね。
しばらくすると結界が解除された。
「ありがとうございました。それでは行きましょう。ルシアも一緒に来るといい。あ、彼は他の馬車に乗ってもらうから。それとも、別の場所に変えるか?」
チラリとセシリオを見ながら聞かれる。
いやいや、セシリオとラファなら私はラファを取りますよ!
「お気遣いありがとうございます。ですが、久しぶりにラファに会えるチャンスは逃しませんよ。ぜひお邪魔させてください」
「よかった、ラファが喜ぶ。リコもね」
「失礼ですが、ラファとは?」
「ああ、甥っ子です。今4歳で、ルシアにとても懐いているんですよ」
「なるほど。本当に良くしてもらってるみたいですね。感謝します。
ルシア、元気そうで安心した。
皆心配しているぞ。親不孝者め」
「……うん、心配かけてごめんね?」
手紙だけでは心配になるのは当たり前だわ。
親不孝でごめんなさい。
「でも、セシリオのことはもういいよ。彼も権力に逆らえなかったんだし。あれ、生えてくるんでしょ?」
「騎士が権力に負けてどうする。主が愚かなままなのを放っておくのか?一言くらい諫めたのか?」
「……いえ、出来ないとはいいました」
「お前は自分を1番に守ったのだな。残念だよ。ずっとルシアを裏切らずにいてくれたのに。身の危険を感じた時、お前は何よりも自分を選んだんだ。主より、恋人より、自分の立場を。まあ、そんな人間なんて沢山いるさ、その程度のものだ。
その髪はすぐに生えてくる。眉もどうせ期限付きだろ?よかったな。生え揃えば何もかも忘れてやり直せる。
その後は自由に生きるがいい。俺達は二度と関わらない」
「兄様!もういいってば」
「……家族皆お前の結婚式を楽しみにしてたんだ。3年も待たされてやっとだと思っていたのに」
「ごめんね、でも大丈夫よ!これでもモテるんだから。こないだラファにもプロポーズされたわ!」
「……4歳だろ。14年も待つのか」
「……残念だよね」
「あの、本当に申し訳「俺に話し掛けるな」すみません!」
セシリオが弱くなってる。あれからだいぶ苦労したみたいね。兄様の怒りはいつ収まるかな。
不審者は2名。王太子殿下に目通りしたいと言う者、もう一人は医療魔法士ルシアに会いに来たと言う者。
この緊迫した時期に現れた者達への警戒態勢は許してほしい。
そして、すぐに事件が起こった。二人の不審者が出会った途端……一人の髪の毛がごっそりと抜け落ちたのだ。突然の出来事に新たな病かと騒ぎになり、慌てて駆けつけた医局の者は現場を見てすぐに理解した。
ああ、兄妹だ──と。
「お兄様?!」
「ルシア!この大馬鹿者が!」
兄様がなんでここに?
「痛い痛い、痛いです!」
げんこつで頭をグリグリされる。禿げちゃう!
「お前のお転婆ぶりも落ち着いたかと思えば!ちょっと行ってくるといってエルディアに行くし!かと思えば結婚が無くなりました、このまま永住しようかな?なんてふざけた手紙を送って来るし!どういうことだ!」
「そんな言い方してないわ!私はお父様にちゃんと許可を貰ってここに来てるわよ!というかなんでセシリオまでここにいて……禿げちゃってるの?」
ヤバイわ。つるっつるになってる。
「ああ、なんで眉毛しか抜かなかったんだ?お前がそうやって甘やかすからソイツが馬鹿をやるんだろう」
「セシリオが馬鹿なのは私のせいではありません。彼が勝手にやったことです。乳母ではないので、つきっきりでお世話なんてしないわ。
……でもこれ大丈夫?まさか毛根死滅?」
「ほ、本当に?!二度と生えないのか?!」
「セシリオ、お前は自分が1番大切な様だな。妹を傷付けておいて、謝罪の前に髪の毛の心配か?」
「あ、義兄上、申し訳ありません!」
「義兄などと呼ぶな!」
すごく怒っているのはセシリオのせいか。
振られた私ですらそこまでしなかったのに、なぜ兄様がそこまでやっちゃうのよ。
「あの、お話し中失礼致します。ルシア嬢のお兄様ですか?初めまして。私はバレリアノ辺境伯リカルドと申します。ルシア嬢は一年の契約でこちらの医局に勤務していただいてるのですよ。任命書も発行された正式なものです。
ここでは何ですから、よろしければ我が家へお越しください。落ち着いて話をされた方が良いでしょう」
よかった、リカルド様が来てくれた!このままではセシリオが殺されそうです!
「これは大変失礼致しました。私はウルタード国、医療魔法士のミゲル・オルティスと申します。愚妹がお世話になりありがとうございます」
すごいわ、別人みたい。怒りはおさまったのかしら。お兄様は普段は優しいんだけど、怒るとすっごく怖いのよね。私より容赦がないもの。
「ところで。その汚物の処理は私に任せて頂いてもよろしいでしょうか。これ以上世の女性に迷惑をかけないように、去勢してから捨ててきますよ」
「ひぃっ!」
まだ怒ってる、困ったわね。私が庇うと余計に怒りそうだし。でもさすがにやり過ぎだわ。
「いや、ミゲル殿。ああ、名前で呼ばせてもらってもいいだろうか?
そちらのクルス卿は殿下を訪ねてきたそうだ。確認しないといけないことが多いので、処置は後にして頂けると助かります」
「ああ、では拘束しよう。うん、体内に毒物反応は無し。四肢感覚遮断。
質問には正しく答えろ。俺は嘘を見破るのが得意だ。知っているな?」
「真実のみを話すと誓います!」
「お前のようなクズの誓いなど信じるに値しない。聞かれたこと以外喋るな。
では閣下。質問をどうぞ」
「……ご協力感謝する。ではアルバ、結界を」
「かしこまりました」
なぜ兄が仕切っているのだろう。リカルド様こんな兄ですみません!
でも、セシリオは凄い運の持ち主ね。よくピンポイントで兄様と同じ日に到着したわ。おかげでスパイかどうかのチェックも早いでしょう。
兄様はある意味嘘発見器だ。体温、心音、血流、眼球運動、微かな体の動き、あらゆる事から嘘を見極める。
すでにビビってるから嘘なんて付かないと思うけど。
でも会わなければハゲにはされなかった……いえ、あの様子だといつかはやったわね。
しばらくすると結界が解除された。
「ありがとうございました。それでは行きましょう。ルシアも一緒に来るといい。あ、彼は他の馬車に乗ってもらうから。それとも、別の場所に変えるか?」
チラリとセシリオを見ながら聞かれる。
いやいや、セシリオとラファなら私はラファを取りますよ!
「お気遣いありがとうございます。ですが、久しぶりにラファに会えるチャンスは逃しませんよ。ぜひお邪魔させてください」
「よかった、ラファが喜ぶ。リコもね」
「失礼ですが、ラファとは?」
「ああ、甥っ子です。今4歳で、ルシアにとても懐いているんですよ」
「なるほど。本当に良くしてもらってるみたいですね。感謝します。
ルシア、元気そうで安心した。
皆心配しているぞ。親不孝者め」
「……うん、心配かけてごめんね?」
手紙だけでは心配になるのは当たり前だわ。
親不孝でごめんなさい。
「でも、セシリオのことはもういいよ。彼も権力に逆らえなかったんだし。あれ、生えてくるんでしょ?」
「騎士が権力に負けてどうする。主が愚かなままなのを放っておくのか?一言くらい諫めたのか?」
「……いえ、出来ないとはいいました」
「お前は自分を1番に守ったのだな。残念だよ。ずっとルシアを裏切らずにいてくれたのに。身の危険を感じた時、お前は何よりも自分を選んだんだ。主より、恋人より、自分の立場を。まあ、そんな人間なんて沢山いるさ、その程度のものだ。
その髪はすぐに生えてくる。眉もどうせ期限付きだろ?よかったな。生え揃えば何もかも忘れてやり直せる。
その後は自由に生きるがいい。俺達は二度と関わらない」
「兄様!もういいってば」
「……家族皆お前の結婚式を楽しみにしてたんだ。3年も待たされてやっとだと思っていたのに」
「ごめんね、でも大丈夫よ!これでもモテるんだから。こないだラファにもプロポーズされたわ!」
「……4歳だろ。14年も待つのか」
「……残念だよね」
「あの、本当に申し訳「俺に話し掛けるな」すみません!」
セシリオが弱くなってる。あれからだいぶ苦労したみたいね。兄様の怒りはいつ収まるかな。
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