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番外編
ラファエル3度目の恋 【中編】
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あの頃と変わらない荒れた指先。
貴族令嬢でありながら、美しい顔に反して、彼女の手はいつも痛々しく荒れていた。
それでも毅然とした態度で、誰に馬鹿にされようともしっかりと前を向き颯爽と歩く姿に感銘を覚えたものだ。
「あの頃の僕は、まだ破れた恋が忘れられなくて、……まだ、忘れたくなくて。君にそれ以上興味を持たないように目を逸らした。
でも、やっぱり駄目だね。やっと恋を終わらせて、この国に帰った途端に君を見つけてしまうんだもの」
今度は絶対に逃げないって決めていたんだ。
「そんな5年も前のことを言われましても。それに私は二度も結婚しています。
……私はもう純潔ではありません。貴方に相応しい相手では無いのです」
「僕の恋した相手は叔父の妻だったよ。10歳年上で、それでも本気で好きだった。純潔ではなくなっても子を身篭っても、僕には一等素敵な女性で、手に入れることが許されるなら本気で手をのばしただろう。
君が僕のことが生理的に無理だとか、そういう理由なら諦めるよ。でも、今言ったことだけが断る理由なら僕は絶対に諦めないから」
「ですが!」
「君は不貞を働いた訳じゃない。ただ、妻としての役目を立派に果たしただけだ。それの何が悪い?」
「……子が、出来ませんでした」
「だってたった一年くらいだろ?それにどちらが原因かも分からない。それに。僕はね、君と仲良くなりたいのであって子が目的ではないよ。それを考えるのはもっと後の事だ。神様からの授かりものを前倒しで考えるなんておかしいだろう?」
そこまで伝えると、レイナは忌々しげにそっぽを向いた。
「……先輩に口で勝てる気がしないです」
「やった。じゃあ、僕のことはラファと呼んで。よろしくね、レイナ」
「私って気取って話していたくせに」
「レイナには正直な姿を見せたいんだ。まずは踊ろうよ!」
「えっ?!」
レイナの手を引いて踊り始める。
あれ、ウルタードのダンスって少し違ったっけ?
「ちょっと、無理矢理引っ張って来てステップ間違えないでください!」
「思い出すからちょっと待って!」
もうダンスはめちゃくちゃ。でもなんだかすっごく楽しい。
「ん、思い出してきた!」
「もう、遅いですよっ」
レイナも笑っている。
「ダンスは失敗だけど笑顔が見れてよかった」
「笑顔じゃないわ、失笑ですよ」
「嘘だ、すっごく素敵な笑顔だった!」
「……もう、知らないっ」
「拗ねてても可愛いね」
そっか。3度目の恋は初めて年下の女の子だ。
今度こそ守れる?今度こそ側にいられるかな。
「何を考えているのですか?」
「ん?ん~、もう一曲踊りたいなって」
「駄目ですよ、婚約者でもないのに」
「恋人でしょう?」
「えっ?!」
「結婚を前提のお付き合いは恋人だよ?」
レイナの顔が真っ赤だ。こんなに純真で二度も結婚?可愛いしかない。
「もうステップは思い出したから大丈夫だよ。
レイナ、僕と踊っていただけますか?」
ほら、そんな潤んだ瞳で僕を見るくせに。
お願いだから、手をのばして?
「……はい」
今度は落ち着いて。でも、心臓はさっきよりもドキドキしている。
「手を取ってくれてありがとう」
「……はい」
あ、この香り。さっきははしゃぎ過ぎて気付かなかった。仄かに感じる優しい香り。
「変わらないね、いまでもハーブを育ててる?」
「先輩も本当に変わらないです。何故まだ覚えているのですか」
「それは……気になる女の子だったから?」
香水の匂いをプンプンさせてる女の子はちょっと苦手。そんな中、レイナが纏う香りはとても好ましかった。
「……タラシだわ」
「そ?タラされてくれる?」
それなら凄く嬉しいのだけど。
こうして夜会は幸せなまま終わった。
──だけど。
「さて。レイナを今から攫ってもいいかな」
「はいっ?」
「よかった、了承してくれて。行こうか」
「えっ?!違います、驚いただけです!」
「だって、このまま家に帰ったら叱られるよ?どうせ嘘を吐いてこの夜会に参加したんでしょう?」
下手したら、僕が申し込む前に勝手に別の男との婚約を結ばれてしまうかもしれない。
「僕はね、本当に困った時は遠慮せずに周りに助けを求めるよ。今、君を家族から守るには僕の力だけでは足りない。だから、アルに助けを求めようと思って」
「アルって……」
「オルティス男爵だよ。行こう」
戸惑うレイナを半ば無理矢理馬車に乗せる。
彼女が乗ってきた馬車には言付けを。
「強引でごめんね」
「……悪いと思っているのですか?」
「急過ぎる自覚はあるよ。でも、後悔はしたくない」
「じゃあ…、謝らないで下さい」
「うん」
本当は少し緊張していたみたいだ。
拒絶されたらどうしようって。
だって、僕が好きになる人はいつも違う相手を選ぶから。
お願い、僕を望んで。
貴族令嬢でありながら、美しい顔に反して、彼女の手はいつも痛々しく荒れていた。
それでも毅然とした態度で、誰に馬鹿にされようともしっかりと前を向き颯爽と歩く姿に感銘を覚えたものだ。
「あの頃の僕は、まだ破れた恋が忘れられなくて、……まだ、忘れたくなくて。君にそれ以上興味を持たないように目を逸らした。
でも、やっぱり駄目だね。やっと恋を終わらせて、この国に帰った途端に君を見つけてしまうんだもの」
今度は絶対に逃げないって決めていたんだ。
「そんな5年も前のことを言われましても。それに私は二度も結婚しています。
……私はもう純潔ではありません。貴方に相応しい相手では無いのです」
「僕の恋した相手は叔父の妻だったよ。10歳年上で、それでも本気で好きだった。純潔ではなくなっても子を身篭っても、僕には一等素敵な女性で、手に入れることが許されるなら本気で手をのばしただろう。
君が僕のことが生理的に無理だとか、そういう理由なら諦めるよ。でも、今言ったことだけが断る理由なら僕は絶対に諦めないから」
「ですが!」
「君は不貞を働いた訳じゃない。ただ、妻としての役目を立派に果たしただけだ。それの何が悪い?」
「……子が、出来ませんでした」
「だってたった一年くらいだろ?それにどちらが原因かも分からない。それに。僕はね、君と仲良くなりたいのであって子が目的ではないよ。それを考えるのはもっと後の事だ。神様からの授かりものを前倒しで考えるなんておかしいだろう?」
そこまで伝えると、レイナは忌々しげにそっぽを向いた。
「……先輩に口で勝てる気がしないです」
「やった。じゃあ、僕のことはラファと呼んで。よろしくね、レイナ」
「私って気取って話していたくせに」
「レイナには正直な姿を見せたいんだ。まずは踊ろうよ!」
「えっ?!」
レイナの手を引いて踊り始める。
あれ、ウルタードのダンスって少し違ったっけ?
「ちょっと、無理矢理引っ張って来てステップ間違えないでください!」
「思い出すからちょっと待って!」
もうダンスはめちゃくちゃ。でもなんだかすっごく楽しい。
「ん、思い出してきた!」
「もう、遅いですよっ」
レイナも笑っている。
「ダンスは失敗だけど笑顔が見れてよかった」
「笑顔じゃないわ、失笑ですよ」
「嘘だ、すっごく素敵な笑顔だった!」
「……もう、知らないっ」
「拗ねてても可愛いね」
そっか。3度目の恋は初めて年下の女の子だ。
今度こそ守れる?今度こそ側にいられるかな。
「何を考えているのですか?」
「ん?ん~、もう一曲踊りたいなって」
「駄目ですよ、婚約者でもないのに」
「恋人でしょう?」
「えっ?!」
「結婚を前提のお付き合いは恋人だよ?」
レイナの顔が真っ赤だ。こんなに純真で二度も結婚?可愛いしかない。
「もうステップは思い出したから大丈夫だよ。
レイナ、僕と踊っていただけますか?」
ほら、そんな潤んだ瞳で僕を見るくせに。
お願いだから、手をのばして?
「……はい」
今度は落ち着いて。でも、心臓はさっきよりもドキドキしている。
「手を取ってくれてありがとう」
「……はい」
あ、この香り。さっきははしゃぎ過ぎて気付かなかった。仄かに感じる優しい香り。
「変わらないね、いまでもハーブを育ててる?」
「先輩も本当に変わらないです。何故まだ覚えているのですか」
「それは……気になる女の子だったから?」
香水の匂いをプンプンさせてる女の子はちょっと苦手。そんな中、レイナが纏う香りはとても好ましかった。
「……タラシだわ」
「そ?タラされてくれる?」
それなら凄く嬉しいのだけど。
こうして夜会は幸せなまま終わった。
──だけど。
「さて。レイナを今から攫ってもいいかな」
「はいっ?」
「よかった、了承してくれて。行こうか」
「えっ?!違います、驚いただけです!」
「だって、このまま家に帰ったら叱られるよ?どうせ嘘を吐いてこの夜会に参加したんでしょう?」
下手したら、僕が申し込む前に勝手に別の男との婚約を結ばれてしまうかもしれない。
「僕はね、本当に困った時は遠慮せずに周りに助けを求めるよ。今、君を家族から守るには僕の力だけでは足りない。だから、アルに助けを求めようと思って」
「アルって……」
「オルティス男爵だよ。行こう」
戸惑うレイナを半ば無理矢理馬車に乗せる。
彼女が乗ってきた馬車には言付けを。
「強引でごめんね」
「……悪いと思っているのですか?」
「急過ぎる自覚はあるよ。でも、後悔はしたくない」
「じゃあ…、謝らないで下さい」
「うん」
本当は少し緊張していたみたいだ。
拒絶されたらどうしようって。
だって、僕が好きになる人はいつも違う相手を選ぶから。
お願い、僕を望んで。
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