婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ

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22.手の届かない人

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シェリー、待って。遠くに行かないで。

クタクタに疲れて眠りに落ちる時、いつも願ってしまう子供の様な祈り。

これでも毎日必死に頑張っている。
初めて騎士団に行った日、いきなり怒鳴り付けられた。

「ここは人を守りたいという気持ちのある奴だけが来る場所だ!お前みたいに公衆の面前でレディーを傷付けるような阿呆はさっさと帰れっ!!」

出会い頭に怒鳴られるなど初めてのことだった。それでも、ここで逃げてはいけないと、何度も何度も頭を下げた。『傷付けた彼女を今度こそ守りたい、傷付けるのではなく、誰かを守る人間になりたい!』そう叫びながら。
その気持ちを絶対に忘れるなと、ようやく入隊を認められた。
とはいっても、学園に通いながらの見習いだ。剣など持たせてもらえるはずも無く、早朝からの走り込みに雑用を済ませたら学園へ。着いた頃には手足がプルプルしていて、自分のやらかした事と合わせて馬鹿にされる。
それでも逆に相手をする気力も無く、寝てしまわない様に必死に授業を聞く。
休み時間は試験に向けての勉強時間として使い、授業が終わればまた体力作りに雑用の繰り返し。なれない仕事に手は荒れて痛いし、それ以上に全身筋肉痛でご飯を食べるのも辛い。でも、食べないと訓練についていけないしと、無理矢理口に詰め込んだ。マナー?知るか!

気が付けばいつの間にか16歳になっていたようだ。班長から王宮でのパーティーに出席するならちゃんと届け出を出せと言われて、ようやく気が付いた。読めずに溜めてあった手紙の中に、誕生日の祝いの言葉と、招待状が来ているから一度帰って来るようにという実家からの手紙が来ていた。

王宮でのパーティー……もしかしたら、シェリーに会える?
そんな希望が頭を擡げる。あれからまだ4ヶ月しか経っていないだなんて。
彼女は今何をしているのだろう。どこで……まさかもう新しい婚約者がいたりとか?

考え出すと止まらなくなる。誰かがシェリーに触れたかと思うと叫びたくなる。どうして俺は彼女のことになると、こうも我慢が出来なくなるんだ。
会いたい気持ちと、まだ会っては駄目なのでは、という不安が鬩ぎ合う。

それでも、帰らないわけにはいかないからと自分に言い訳をしながら帰宅の準備をした。

家に帰ると、父上とシンディーに絶対に問題は起こさないと何度も約束をさせられ、若干うんざりしながらも王宮に向かった。



自分の方が先に来たようだ。まだシェリーの姿は見えない。父上達は挨拶に向かってしまったので、隅の方で大人しくシェリーが来るのを待っていた。

入り口の方が騒がしくなる。

──シェリーだ。

まだあれから4ヶ月。なのに、知らない女性のように見えるのは何故?

同伴しているのは家族じゃない。彼はカルヴァンの兄君のブライアンさんだ。なぜ、キングスコート公爵家の嫡男と?
ブライアンさんと並び立つシェリーはとても綺麗で。皆の視線にまったく怯むことなく、笑顔で歩いていく。
……あんな女性ひとは知らない。
確かに前から綺麗だった。自分より大人だと焦ったりもした。それでも、こんなにも距離を感じることは無かったのに。

俺の視線に気が付いたのか、ようやく目が合う。でも全然嬉しくない。凄く惨めな気分だ。
彼女は、まるで何もなかったかのように、ブライアンさんと共に大人に混じって対等に会話をしている。

何だコレ。全然駄目じゃないか。
頑張ってもまったく追いつけない。もう、彼女の視界に俺なんか入っていない。どうして……どうやったら手が届くんだっ!

その後のイザコザも難なく解決してしまって、公爵にまで認められていた。あんなの婚約者になったも同然じゃないか。

『待たない。私は今よりもっと素敵な女性になれる様に頑張るもの』

「有言実行かよ……早すぎるって」
「逃した魚は随分と魅力的だったわね?」
「シンディー」
「彼女、貴方に合わせる為に我慢して縮こまってたもの。今はとっても楽しそうだわ」
「……なんだよ、それ」
「アンタが束縛し過ぎってこと。彼は上手いわ。シェリーちゃんをいい感じに自由にやりたい事をさせてあげてる。あれで10代なんだから凄いわよね。そんな人と対等に付き合えるシェリーちゃんも」
「あの二人って……そういうことなの?」
「さあ。何も発表はされていないし、シェリーちゃんは違うって言ってるけど。彼の方は結構しっかりと囲いこんでるわよね?」

だよな。ブライアンさんも公爵も『パートナー』という表現だったじゃないか。

「どうするの?もう諦めて家に帰って来る?」

諦める?たった4ヶ月で?

「ヤダよ。これ以上格好悪い姿は見せられないし、変わるって決めたんだ」
「そ?良かった。うちの子はちゃんと成長してるわ」

背伸びしてまで頭を撫でるのはやめろ。

それでもこうして見守ってくれて、ほんの少しの成長を褒めてくれる人達がいる。

落ち込む暇があるなら頑張れよ、俺。

まだ始めたばかりだ。まだ始まったばかりなんだ。

「明日の朝イチに戻るよ」
「カーティスが寂しがるけど仕方がないわね」
「新婚の邪魔はしないって」
「それとこれは別でしょ。後で一緒にお酒でも飲んであげたら?」
「え、ヤダよ。明日の訓練に響く」
「おお~!それっぽいわ」

それから、もう一度だけシェリーを探したが……見つけることが出来なかった。



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