婚約者様は大変お素敵でございます

ましろ

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23.安心できるもの

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ブライアンと会場を抜け出し庭園に出た。
少しやり過ぎたかもしれない。後悔はしていないけれど。

「はい、シャンパン」
「やだ、持ってきてたの?」
「もちろん」

嬉しいわ、ありがたく頂戴する。

「乾杯しちゃう?」
「何に?」
「事業計画の成功を祈って?」
「「乾杯」」

チンッ、とグラスを鳴らし、一口飲む。

「美味し!」
「一気に飲むと酔うぞ」
「そしたらおんぶして帰って」
「お姫様抱っこならいいよ」

違いは何?あんまり変わらないと思うけど。

「ねえ、気になることがあるのだけど」
「何?」

いつもと同じ穏やかな顔。
本当はこんなタイミングで聞くべきではないのかもしれない。でも、いつまでもこのままではいられないから。

「ブライアンは、私の事が好きなの?」

ずっと気になっていた。夫人の為なのは本当だろう。でも、それだけなら私を別邸に招いたり、大切な夫人の相手を任せたり、大勢の方にパートナーとして紹介したりするのはやり過ぎよね?

「バレちゃったか」
「バレてもいいって思ってたくせに」
「そうだね、だって打てる手は全部打った。あとは君に気付いてもらうだけだった」

ブライアンはこんな時でもとても冷静だ。同じ男性なのに、こんなにも違うものなのね。

「もっと情熱的に告白して欲しかった?」
「……いいえ。そうしたらダッシュで逃げてたわ」
「だよね。だから先に囲い込もうかなって」
「でも逃げ道も作ってくれるのね?」
「そうだね」

だって、まだ今ならビジネスパートナーとしてだけで終わらせることも出来てしまう。

「でも、いつから?」
「そうだな。気になったのは同じクラスになった時かな。だから生徒会に誘った」
「随分と前ね!?」

それは流石に驚いたわ。

「でもあの頃は君はまだか弱くて。私のせいで令嬢達に囲まれて涙目になっていたから、告白したら可哀想かなって」

ああ、なるほど。確かにね。もし、あの頃に告白されていたら確実に逃げた。公爵家なんて絶対の絶対に無理だと思ったわ。

「私も好き嫌いだけで相手を決められる立場では無かったし、そこに君を無理矢理押し込める気にはならなかった。一緒に学園で過ごせるだけで満足だって思う事にしていた」

比べるのは失礼だけど、貴方のその自制心をどこかのベニー君に分けてあげてほしかった。当時の貴方は14歳。なのに今のベニーよりもよっぽど大人だ。

「そうね。貴方も婚約したし」
「うん。ただね、一緒に学園生活だけでもって思っていたのに、飛び級されたのは本当に悲しかったな」
「あ……」

そうだったわ。いえ、でも知らなかったしアレなんだけど。

「まあね、仕方が無いんだ。ちゃんと諦めないと婚約者にも申し訳ないと思っていたから」
「……うん」
「その後は知っての通り、母が病気になって婚約解消して。その後は婚約どころじゃなかったのは本当だよ。
でも、カルヴァンが君の事を覚えていて、あの時の事件を教えてくれたんだ」

そうだ。カルヴァンは私の事を知っていたわ。

「もしかして、ベニーのことを聞いたりしてたの?」
「……君が飛び級してまで尽くす相手がどんな男か知りたかった。その、ごめん」

うわ、何それ。それはかなり本気だったのでは?
ちょっと待って。顔が……

「……そこでその反応は駄目だろう」
「ちょっと待って!あっち向いててっ!」

だってブライアンのくせにそんな純愛路線だなんて聞いてないわ!

「どうすればいいの。続きを話す?」
「……聞く」

凄く恥ずかしいけど、ここまできたら最後まで聞いてしまわないと。

「父上と母上に君の事をプレゼンした」
「は?」
「君は侯爵家に嫁ぐ為にしっかりと教育を受けているので、伯爵令嬢ではあるが中身は侯爵家レベルだ。
更に社交においても、あの様な事件があったにも関わらず、泣き叫ぶでもなく見事に乗り切るだけの胆力もある。
あとは、学生の頃から優秀で、国の為になる事業計画もあるのだと、君が考えた職業訓練校の内容も発表した」

……何してるの、この人。

「そうしたら母上が、その事業計画を二人で完成させる姿を見てみたいと仰ってくれたんだ。私達が学生時代に夢物語で終えてしまったものを、現実のものとしてみなさい、とね」
「……まさか、夫人の後押しだったの?」
「うん。別邸に来るように勧めたのも母だよ」

まさかの黒幕が夫人だったとは。

「父は今日の君を見て満足したようだ。素敵なパートナーだと言ってくれたからね」

まあ、公爵様まで公認なの。それは……喜んでいいのかしら?

「……愛の告白はしないの?」
「うん。だって、まだされたら困るだろう?」

それはそうだけど……。
どうしよう。彼はどこまでも私の事を考えてくれている。嫌なことは一つもない。でも、自分の気持ちが分からないわ。
ブライアンは大切な友人で、一緒にいるのはとても楽しい。ベンジャミンといた時の様に無理したり我慢することもない。
でも、これは愛になるのだろうか?

「これからは私の事を少しだけ意識して」
「……少しでいいの?」
「うん。それでいい」

どうしてそこまで私を大切にできるの?

「ありがとう。貴方の、私の気持ちを尊重してくれるところが嬉しい。とても好ましいわ」
「……よかった」

貴方はそんなふうに笑う人だったのね。
嬉しそうな、でも少しだけせつなそうな、そんな顔。

「そろそろ戻ろうか」
「ええ」

戻る……もうきっとただの友人には戻れない。だけど嫌なわけではない。
そうね。私は彼が好ましいのだろう。
どこまでも私を大切にしてくれる優しさに、こんなにも愛されることは安心出来るのだと、私の中の傷付いた女の子が喜んでいる。

いつもベニーの機嫌が悪くならないように気を遣ってビクビクしていた私。彼の笑顔ひとつで満足するくらい心が擦り減っていたのだと、今なら分かる。
ベニーを好きだった私はとてもいびつだった。
本当は心が通わないのに体に触れられることが嫌だった。
最初は愛があるから触れたいのだと喜んだ。でも、気持ちはすれ違うばかりで、それなのに触れ合いだけは求めてくる。まるで女性との経験だけが目当てなのではないかと不安になった。でも、愛がなければ求めないはずだと思い込もうとした。
求められて嬉しい気持ちと虚しい気持ち。そんな、色々なチグハグさが離れた今になって少しずつ分かってきた。

好きだけど恋になれなかったと思っていた。
でも……その好きな気持ちすら、傷付かないための防衛本能だったのかもしれないと、あの頃の自分が少し哀しくなった。


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