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「さあ、皆が待っている。行こうか。息子達も君に会うのを楽しみにしているんだ」
先程までと違い、楽しげな表情で手を差し出される。今の話は無かったことにしようということだろうか。
「はい、私も楽しみです」
そうよね。私を養子に望んでいるだなんてありえない。
恥さらしのお父様。そのお父様を殺した悪魔の娘。上辺だけの真実の愛の結晶。
誰も欲しがるわけないじゃない。
「お待たせしました、天使を連れてきましたよ」
ここでは女の子を天使と表現するのだろうか。なんだか慣れないわ。
「まぁまぁ、よく似合ってるわ!アンジェリーク、こちらにいらっしゃい。皆に紹介するわ」
「はい、王妃陛下」
「……アンジェリーク、その呼び方は悲しくなるわ。どうかおばあちゃまと呼んでくれないかしら」
おばあ……ちゃま?ちゃまって何?それは幼児が使う言葉ではなくて?
「あ、あの、それは少し恥ずかしいです」
「そうか?私はじぃじと呼ばれたいな」
だからそれも上手く舌の回らない幼児向けの言葉でしょう?!これは何かの罰なの?
「二人とも、アンジェリークが困っていますよ。
普通におじい様おばあ様でいいでしょう。
話が進まないので私が紹介しますね」
そう言って王太子殿下自ら皆様を紹介してくれた。王族の家系図は覚えていたので、それに顔を当て嵌めていく。
王太子殿下のご家族は、マチアス殿下が35歳。奥様がベアトリス様。ご子息がセドリック様とヴィクトル様。15歳と13歳でともに学園に通っていらっしゃる。
第二王子のエミール様は32歳。今はラヴァンディエ公爵を継いでいて、奥様はクラリス様。ご子息はエリック様が13歳、ジュール様が11歳、ロラン様はリリアンと同じ6歳。
エリック様はヴィクトル様達と同じ学園に通っているのね。
私のプラチナブロンドと赤い瞳は王家の色みたい。陛下と二人の王子、そのご子息達はみな濃さに違いはあるけれど、同じ色合いだわ。
侯爵家は黒髪か茶色の髪で私だけ浮いていたけど、ここなら馴染んでいる気がする。
「はじめまして、アンジェリーク・ラシュレと申します。皆様にお会い出来て光栄でございます」
「まぁ、綺麗なカーテシーね!でもそんなに他人行儀にしないで?私達は家族ですもの」
「ありがとうございます、王太子妃殿下」
「ああ、それ!その呼び方も駄目よ!
そうね、夫達は伯父様と呼んであげて。私達妻は、伯母様は年寄りになった気がして嫌だから、名前で呼んでちょうだい?
私達は貴方をアンジェと呼んでもいいかしら。
息子達は何でもいいわよ」
アンジェ……懐かしい呼び名。
「むかし……お父様がそう呼んでくれていた気がします」
お父様のことは皆が愚か者だと罵るけれど、私には優しい想いしか残っていない。顔も声も朧気だけど、私を愛してくれていたと思う。それとも、ただそう思いたいだけなのだろうか。
「そう。大切な呼び名ね。私達が使っても大丈夫かしら」
「……はい、嬉しいです」
王族ゆえのおおらかさなの?ここの人達はとても優しい。10日もこの優しさに浸ってしまったら、堕落してしまう気がする。気を引き締めなくては。
晩餐会はとても和やかに進んだ。こんなに楽しい食事は初めてだわ。
あ……この果物は……
いつもより少し大きいけど平気よね?少し我慢するだけだもの。
「あれ、アンジェ。顔色が悪くないか?」
セドリック様に気付かれてしまった。
いつもより大きいサイズを食べたからだろうか。少し息が苦しい。でも大丈夫。しばらくしたら治るもの。
「……いえ…、少し食べ過ぎただけで」
「いや、腕を見せて」
立ち上がり、腕を掴まれる。
「父上、蕁麻疹が出ています」
「何?!もしかして何かのアレルギーか?アンジェ、他の症状は?」
しまった。なぜ気付いてしまうの。
「……無作法をして申し訳ありません」
「怒っているのではない、心配しているんだ!他に症状は?!」
心配?なぜ?
「大丈夫です。すぐに治まりますから。お騒がせして申し訳ありませんが、お気になさらず」
「……アンジェ、命令だ。症状を言いなさい。嘘偽りなく正確にだ」
あぁ、叱られる。
「……口の中の痒みと、少し息苦しさがあります。たぶん、蕁麻疹は腕以外にも出ています。あと、お腹が少しだけ痛いです」
「うん、よく言えたね。えらいぞ。急いで医者を呼んでくれ。アンジェはまず水を飲んで」
なぜ褒めるの?こんなに情けない姿を見せているのに。
「どの食べ物が駄目なのか分かるかい?」
「……キウイです」
「知っていて食べたのはなぜ?」
「食べ物の好き嫌いは許されません」
だって初めて痒くなった時にそう伝えたら叱られた。なんて我儘を言うのだと。食べたくないからとそんな嘘を吐くなんてと。
「アレルギーと好き嫌いは別だよ。無理に食べると命の危険もある。辛かっただろう?すぐに気付けなくて悪かったね。
セドリックはアンジェを気にしてくれてありがとうな」
「いえ。アンジェ、急に腕を掴んでごめんね。怖かっただろう?」
「いえ、あの、ごめんなさい」
「アンジェ、悪いことをしていないのに謝っては駄目だよ。そうだな、こういう時は、気付いてくれてありがとう、と言ってあげるとセドリックも喜ぶよ」
「……セドリック様、ありがとうございます」
「どういたしまして」
伯父様が優しく頭を撫でてくれる。
「あなた、ベッドで寝かせてあげましょう。楽な服に着替えたほうがいいわ」
「そうだな、医者が来たらアンジェの部屋に案内してくれ」
そう言うとフワッと体が浮いた。
「え?」
「あぁ、声を掛けなくてごめん。部屋まで運ぶから捕まっててくれ」
抱き上げられた!こんなに軽々と?
お父様ってこんな感じなの?
どうしよう。いつもより症状が重いのかもしれない。目の奥が熱い。涙が出そう。
今日はいつもよりたくさん我慢しないといけなかった。
先程までと違い、楽しげな表情で手を差し出される。今の話は無かったことにしようということだろうか。
「はい、私も楽しみです」
そうよね。私を養子に望んでいるだなんてありえない。
恥さらしのお父様。そのお父様を殺した悪魔の娘。上辺だけの真実の愛の結晶。
誰も欲しがるわけないじゃない。
「お待たせしました、天使を連れてきましたよ」
ここでは女の子を天使と表現するのだろうか。なんだか慣れないわ。
「まぁまぁ、よく似合ってるわ!アンジェリーク、こちらにいらっしゃい。皆に紹介するわ」
「はい、王妃陛下」
「……アンジェリーク、その呼び方は悲しくなるわ。どうかおばあちゃまと呼んでくれないかしら」
おばあ……ちゃま?ちゃまって何?それは幼児が使う言葉ではなくて?
「あ、あの、それは少し恥ずかしいです」
「そうか?私はじぃじと呼ばれたいな」
だからそれも上手く舌の回らない幼児向けの言葉でしょう?!これは何かの罰なの?
「二人とも、アンジェリークが困っていますよ。
普通におじい様おばあ様でいいでしょう。
話が進まないので私が紹介しますね」
そう言って王太子殿下自ら皆様を紹介してくれた。王族の家系図は覚えていたので、それに顔を当て嵌めていく。
王太子殿下のご家族は、マチアス殿下が35歳。奥様がベアトリス様。ご子息がセドリック様とヴィクトル様。15歳と13歳でともに学園に通っていらっしゃる。
第二王子のエミール様は32歳。今はラヴァンディエ公爵を継いでいて、奥様はクラリス様。ご子息はエリック様が13歳、ジュール様が11歳、ロラン様はリリアンと同じ6歳。
エリック様はヴィクトル様達と同じ学園に通っているのね。
私のプラチナブロンドと赤い瞳は王家の色みたい。陛下と二人の王子、そのご子息達はみな濃さに違いはあるけれど、同じ色合いだわ。
侯爵家は黒髪か茶色の髪で私だけ浮いていたけど、ここなら馴染んでいる気がする。
「はじめまして、アンジェリーク・ラシュレと申します。皆様にお会い出来て光栄でございます」
「まぁ、綺麗なカーテシーね!でもそんなに他人行儀にしないで?私達は家族ですもの」
「ありがとうございます、王太子妃殿下」
「ああ、それ!その呼び方も駄目よ!
そうね、夫達は伯父様と呼んであげて。私達妻は、伯母様は年寄りになった気がして嫌だから、名前で呼んでちょうだい?
私達は貴方をアンジェと呼んでもいいかしら。
息子達は何でもいいわよ」
アンジェ……懐かしい呼び名。
「むかし……お父様がそう呼んでくれていた気がします」
お父様のことは皆が愚か者だと罵るけれど、私には優しい想いしか残っていない。顔も声も朧気だけど、私を愛してくれていたと思う。それとも、ただそう思いたいだけなのだろうか。
「そう。大切な呼び名ね。私達が使っても大丈夫かしら」
「……はい、嬉しいです」
王族ゆえのおおらかさなの?ここの人達はとても優しい。10日もこの優しさに浸ってしまったら、堕落してしまう気がする。気を引き締めなくては。
晩餐会はとても和やかに進んだ。こんなに楽しい食事は初めてだわ。
あ……この果物は……
いつもより少し大きいけど平気よね?少し我慢するだけだもの。
「あれ、アンジェ。顔色が悪くないか?」
セドリック様に気付かれてしまった。
いつもより大きいサイズを食べたからだろうか。少し息が苦しい。でも大丈夫。しばらくしたら治るもの。
「……いえ…、少し食べ過ぎただけで」
「いや、腕を見せて」
立ち上がり、腕を掴まれる。
「父上、蕁麻疹が出ています」
「何?!もしかして何かのアレルギーか?アンジェ、他の症状は?」
しまった。なぜ気付いてしまうの。
「……無作法をして申し訳ありません」
「怒っているのではない、心配しているんだ!他に症状は?!」
心配?なぜ?
「大丈夫です。すぐに治まりますから。お騒がせして申し訳ありませんが、お気になさらず」
「……アンジェ、命令だ。症状を言いなさい。嘘偽りなく正確にだ」
あぁ、叱られる。
「……口の中の痒みと、少し息苦しさがあります。たぶん、蕁麻疹は腕以外にも出ています。あと、お腹が少しだけ痛いです」
「うん、よく言えたね。えらいぞ。急いで医者を呼んでくれ。アンジェはまず水を飲んで」
なぜ褒めるの?こんなに情けない姿を見せているのに。
「どの食べ物が駄目なのか分かるかい?」
「……キウイです」
「知っていて食べたのはなぜ?」
「食べ物の好き嫌いは許されません」
だって初めて痒くなった時にそう伝えたら叱られた。なんて我儘を言うのだと。食べたくないからとそんな嘘を吐くなんてと。
「アレルギーと好き嫌いは別だよ。無理に食べると命の危険もある。辛かっただろう?すぐに気付けなくて悪かったね。
セドリックはアンジェを気にしてくれてありがとうな」
「いえ。アンジェ、急に腕を掴んでごめんね。怖かっただろう?」
「いえ、あの、ごめんなさい」
「アンジェ、悪いことをしていないのに謝っては駄目だよ。そうだな、こういう時は、気付いてくれてありがとう、と言ってあげるとセドリックも喜ぶよ」
「……セドリック様、ありがとうございます」
「どういたしまして」
伯父様が優しく頭を撫でてくれる。
「あなた、ベッドで寝かせてあげましょう。楽な服に着替えたほうがいいわ」
「そうだな、医者が来たらアンジェの部屋に案内してくれ」
そう言うとフワッと体が浮いた。
「え?」
「あぁ、声を掛けなくてごめん。部屋まで運ぶから捕まっててくれ」
抱き上げられた!こんなに軽々と?
お父様ってこんな感じなの?
どうしよう。いつもより症状が重いのかもしれない。目の奥が熱い。涙が出そう。
今日はいつもよりたくさん我慢しないといけなかった。
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