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「どうして連れ帰って来なかったの!!」
「……申し訳ありません。ですが王家にあの様に言われてしまうと逆らうことなどできず……それに!あの娘が私に逆らったのですよ!」
「駄目ね、あなたでは弱かったのだわ。私が付いていけばこんなことには……」
アンジェリーク。私の愛する娘を苦しめる、あの美しい悪魔そっくりの娘。
「もう少し早くにあなたに会わせるべきだったわ。義父としての躾が足りなかったのよ」
ラシュレ家の為に生きること。あの子はそう育ててきた。貴族令嬢が家の為に尽くすのは当たり前のことだ。でもこの男はあの子の中でラシュレ家とは言えないのかもしれない。
「それにしても10日は長過ぎるわね。3日後には迎えに行くと手紙を出します」
私が迎えに行けばいい。そうしたらあの子は必ず言うことを聞くもの。たとえ王家であっても他家の子供を勝手に囲い込むなど許されない。
アンジェリークを外に出すにはまだ早いわ。学園も6年制ではなく、15歳からの3年だけのつもりだったのに。
あの男を産み育てた王家ですもの。堕落させられるのは目に見えているわ。
あの子もせめて少しだけでもクロディーヌに似ていればよかったのに。
子供は神様からの授かりものだというけれど、神様は本当に残酷ね。私達にどこまでも試練を与えなさる。
あの悪魔にそっくりの孫を救うのは大変だわ。
でも大丈夫。あなたはちゃんとクロディーヌを助ける天使になれるわ。だって、あの子がお腹を痛めて産んだのですもの。その資格はあるのよ。
でも、もっともっと頑張って罪を償わないとね。クロディーヌへの償いをすべて終わったら、その名の通りクロディーヌを護る天使になれるわ。
早くラシュレ家の為に立派な大人の女性に育て上げなければいけないわね。
そうだわ、そろそろ決めるべきなのかもしれない。もう10歳ですもの。けして早くはないわ。
「王家とスーリエ伯爵に手紙を届けて。どちらも急ぎよ」
「かしこまりました」
もうすぐ主人も帰ってくる。何も問題は無いわ。あの人も賛成していたもの。我が家の決定に王家は口出しできない。
ほら、すぐに元通りになる。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「ラシュレ家から手紙だと?」
「はい父上。明後日には前侯爵夫人が迎えに来るそうですよ。どうしますか?」
「……侍女からの報告は?」
「体に傷などは一切無く、栄養状態も悪くありません。セドリックから聞きましたが語学も堪能でしっかりとした教育を施されています」
「虐待の証拠は出て来ぬか……あと二日か。時間が足りないな」
やっと会うことができたアランの愛し子。ずっと幸せに暮らしていると思っていたのに。
アランに良く似た美しい容姿に、しっかりと教育をされてきたであろう美しい所作。会話していても利発で言葉づかいもまるで大人の様にしっかりしている。過ぎるほどに。
子供らしさのない、歪な少女。あれ程優秀なのに、自己評価が低い。だが、唯々諾々と言うことを聞くような人形ではなく、自分の意見をしっかりと言うことができる。でもアレルギー等、己を守る為のことはなぜか罪悪感すら持って、我慢しているように感じる。
どこか異常なのは分かるのに、その証拠がない。
どんなに言葉を促しても侯爵家への不満は一切口にしてくれない。
「迎えが来ることをまず話そう。あの子が残りたいと言ってくれれば……いや、現状ではまだ難しいか」
「はい。あと侯爵家を見張っていた者からの報告です。前侯爵夫人はスーリエ伯爵家にも手紙を出しました。内容までは把握できていませんが」
「あそこは夫人の弟が継いでいたな。だがこの時期になぜ……」
スーリエ伯爵家は大きな家門ではないが、当主は実直な男で、堅実な領地運営をしていたはず。同時期に手紙を送るなど何故だ?
「伯爵家は嫡男が25歳ですでに結婚しています。ですが、20歳の次男が結婚後に平民に手を出して孕ませ、その後離婚して実家に戻っています。子供は死産だったそうですが」
「まさか!」
「えぇ、もしかしたら婚約者として迎えるつもりかもしれません」
「許せん、そんなクズを大切なアンジェに!」
「お得意の真実の愛を使うかもしれませんね」
真実の愛だと?どこがだ!アランが亡くなってからたった一年で再婚したくせに。「子供には父親が必要だから」そう言われたら反論など出来なかった。
「なるほどな。クズだということを隠せば、子供を授ける能力があることが証明されているのか。堅実と言われる伯爵家の次男。身分に問題は無い。だが年上過ぎるだろう!」
「ですが、今から当主教育をすることが出来て、アンジェが成人したらすぐに結婚して当主になり、子を成すことも可能です」
「……殺したいな……今夜にでも侯爵家に火をかけてしまえばいい気がしてきたぞ」
そうしたらこのままアンジェは城に住み続けることができる。もうそれで良くないか?
「名案だと言いたい所ですが、アンジェが知ってしまった時が怖いので却下ですよ」
許されるのなら今すぐ葬ってしまうのに。
「……申し訳ありません。ですが王家にあの様に言われてしまうと逆らうことなどできず……それに!あの娘が私に逆らったのですよ!」
「駄目ね、あなたでは弱かったのだわ。私が付いていけばこんなことには……」
アンジェリーク。私の愛する娘を苦しめる、あの美しい悪魔そっくりの娘。
「もう少し早くにあなたに会わせるべきだったわ。義父としての躾が足りなかったのよ」
ラシュレ家の為に生きること。あの子はそう育ててきた。貴族令嬢が家の為に尽くすのは当たり前のことだ。でもこの男はあの子の中でラシュレ家とは言えないのかもしれない。
「それにしても10日は長過ぎるわね。3日後には迎えに行くと手紙を出します」
私が迎えに行けばいい。そうしたらあの子は必ず言うことを聞くもの。たとえ王家であっても他家の子供を勝手に囲い込むなど許されない。
アンジェリークを外に出すにはまだ早いわ。学園も6年制ではなく、15歳からの3年だけのつもりだったのに。
あの男を産み育てた王家ですもの。堕落させられるのは目に見えているわ。
あの子もせめて少しだけでもクロディーヌに似ていればよかったのに。
子供は神様からの授かりものだというけれど、神様は本当に残酷ね。私達にどこまでも試練を与えなさる。
あの悪魔にそっくりの孫を救うのは大変だわ。
でも大丈夫。あなたはちゃんとクロディーヌを助ける天使になれるわ。だって、あの子がお腹を痛めて産んだのですもの。その資格はあるのよ。
でも、もっともっと頑張って罪を償わないとね。クロディーヌへの償いをすべて終わったら、その名の通りクロディーヌを護る天使になれるわ。
早くラシュレ家の為に立派な大人の女性に育て上げなければいけないわね。
そうだわ、そろそろ決めるべきなのかもしれない。もう10歳ですもの。けして早くはないわ。
「王家とスーリエ伯爵に手紙を届けて。どちらも急ぎよ」
「かしこまりました」
もうすぐ主人も帰ってくる。何も問題は無いわ。あの人も賛成していたもの。我が家の決定に王家は口出しできない。
ほら、すぐに元通りになる。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「ラシュレ家から手紙だと?」
「はい父上。明後日には前侯爵夫人が迎えに来るそうですよ。どうしますか?」
「……侍女からの報告は?」
「体に傷などは一切無く、栄養状態も悪くありません。セドリックから聞きましたが語学も堪能でしっかりとした教育を施されています」
「虐待の証拠は出て来ぬか……あと二日か。時間が足りないな」
やっと会うことができたアランの愛し子。ずっと幸せに暮らしていると思っていたのに。
アランに良く似た美しい容姿に、しっかりと教育をされてきたであろう美しい所作。会話していても利発で言葉づかいもまるで大人の様にしっかりしている。過ぎるほどに。
子供らしさのない、歪な少女。あれ程優秀なのに、自己評価が低い。だが、唯々諾々と言うことを聞くような人形ではなく、自分の意見をしっかりと言うことができる。でもアレルギー等、己を守る為のことはなぜか罪悪感すら持って、我慢しているように感じる。
どこか異常なのは分かるのに、その証拠がない。
どんなに言葉を促しても侯爵家への不満は一切口にしてくれない。
「迎えが来ることをまず話そう。あの子が残りたいと言ってくれれば……いや、現状ではまだ難しいか」
「はい。あと侯爵家を見張っていた者からの報告です。前侯爵夫人はスーリエ伯爵家にも手紙を出しました。内容までは把握できていませんが」
「あそこは夫人の弟が継いでいたな。だがこの時期になぜ……」
スーリエ伯爵家は大きな家門ではないが、当主は実直な男で、堅実な領地運営をしていたはず。同時期に手紙を送るなど何故だ?
「伯爵家は嫡男が25歳ですでに結婚しています。ですが、20歳の次男が結婚後に平民に手を出して孕ませ、その後離婚して実家に戻っています。子供は死産だったそうですが」
「まさか!」
「えぇ、もしかしたら婚約者として迎えるつもりかもしれません」
「許せん、そんなクズを大切なアンジェに!」
「お得意の真実の愛を使うかもしれませんね」
真実の愛だと?どこがだ!アランが亡くなってからたった一年で再婚したくせに。「子供には父親が必要だから」そう言われたら反論など出来なかった。
「なるほどな。クズだということを隠せば、子供を授ける能力があることが証明されているのか。堅実と言われる伯爵家の次男。身分に問題は無い。だが年上過ぎるだろう!」
「ですが、今から当主教育をすることが出来て、アンジェが成人したらすぐに結婚して当主になり、子を成すことも可能です」
「……殺したいな……今夜にでも侯爵家に火をかけてしまえばいい気がしてきたぞ」
そうしたらこのままアンジェは城に住み続けることができる。もうそれで良くないか?
「名案だと言いたい所ですが、アンジェが知ってしまった時が怖いので却下ですよ」
許されるのなら今すぐ葬ってしまうのに。
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