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1.初夜の戦い (勝者・妻)
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「私には他に愛する女性がいる。だから君は形だけの妻だ。抱く気など無い」
初夜の場に現れた途端、旦那様から信じられない言葉が吐き捨てられた。
「なるほど。これは結婚詐欺だと言うことですね!」
「……は?」
今日、アリーチェは結婚した。相手はエミディオ・バルディ伯爵令息。会うのは二度目だ。結婚の申込みの時に一度、今日で二度目。なかなか強引な人だわ。
見た目はアッシュグレーの髪にブルーの瞳。眉間のシワは気になるがなかなかの美形だ。
でもまぁ、29歳で独身を貫く変わり者だし、所謂性格に難有りなのだろう。
だってうちは借金を背負った貧乏子爵。お父様は教えてくれなかったけど、私は金で売られたのだろうし。
あの家は早くに出たかったけど次はこれかぁ。これでもピッチピチの17歳処女なのに!
「契約書を見せてください」
「なに?」
「ですから契約書ですよ。旦那様は父からお金で私を買ったのですよね?契約妻として。でしたら契約書があるはずです」
こちらは当たり前のことを聞いているのにどうしてそんなに憎々しげに見てくるのかしら。
「……そんな物は無い。だが、主人である私の決定に従うのは当然のことだろう」
「どこが当然なのですか。当然なのは今夜私と閨を共にして子種を授け、後継者を早く産ませることです。
貴族の結婚に愛は必要ありませんが、子供は絶対に必要なのですよ。やる事をやらないと授かれないでしょう?」
愛する人がいてもいいけど、後継者をどうするつもりなのか。
「それはいずれ親族から相応しい子供を見つけてくればいいだけだ」
はい、アウト!
「いやですよ。そんな事をしたら私が石女だと馬鹿にされるじゃないですか。どうしてもそうしたいのなら、旦那様が不能であるという診断書を用意して下さい。私を石女だと馬鹿にする人達にはそれを見せて説明致します。それなら白い結婚を受け入れますよ」
「なっ!そんなこと出来るわけがないだろう!」
「ご自分が嫌なことを人にさせないで下さい。旦那様の希望でしょう?ご自分でどうぞ」
……すっごく睨んでる。殴られるかしら。お父様より力がありそうだから顔は止めてほしいわ。
「君の家にはちゃんと金を支払っただろう……」
「さぁ、私が受け取ったわけじゃないので存じ上げません」
「そっちこそ詐欺師か!こちらは政略結婚のつもりだったんだ!今更どうしろと言うんだ!」
「え、政略?それなら最初に条件を提示してしかるべきでしょう?後出しでその様なことを言い出すのは詐欺の手口ですよ。
ちなみに実家への愛は欠片もないので、経済的に追い込んでも私は何も困りません」
さぁ、どうする?一日で離婚?別にわたしは構わない。そうしたら慰謝料を貰って平民にでもなってやるわ。
「だいたい愛する人がいらっしゃるならその方と結婚すればいいのに。他人を巻き込まないでくださいませ」
「……出来ればそうしてる。……もとは男爵令嬢だが、没落し平民になったんだ。妻にはできない」
「それなら独身を貫けばいいのでは?」
「30歳までに結婚しなければ爵位は継がせないと言われた。弟は頭と性格が悪い。あれが当主になれば領民に迷惑がかかるだろう」
なるほどね。自分の為だと言うのならすぐに離婚しようと思ったけど。
「仕方がないですね。では私と契約しましょう」
「君と?」
「はい。私はもともと成人したら家を出るつもりでした。でもあまりに貧乏過ぎて逃走資金が無くて。
ですから、私が20歳まであなたの妻としてここにいて差し上げます。もちろん白い結婚で。
まぁ、とりあえずは可愛い妻と二人っきりの生活を楽しみたい、子供はもう少し後でいいんだ、とか言い訳して下さいね。私が馬鹿にされないようにフォローはして下さい、絶対に!
それと、その3年の間に伯爵としてのあなたの地位を盤石なものにして下さいませ。そうしたら離婚しても今更爵位は剥奪されないでしょう?
もし、もっと早くにそうなれたならその時には離婚に応じますよ」
「離婚……だが、君の経歴に傷が付くぞ」
白い結婚で一生を縛るつもりだったくせに何を言っているのかしら。
「……すまん、言いたい事は分かったからそんなに軽蔑した目を向けないでくれないか」
「すみません、正直な質なので。
まぁいいですよ。経歴くらいどうでもいいです。離婚したら平民になるつもりですから」
「な、どうして!」
「私に興味を持ってくれなくていいです。離婚の慰謝料を多めにしてください。そうしたら隣国にでも移住しますから旦那様には二度と会うこともないでしょう」
酷いことを言ってきた張本人がどうして私に同情しようとするのか。変な人。
「で、どうしますか?」
「……君がそれでいいのなら」
「はい、では契約書を作りましょう!」
「今からか?」
「当たり前です。今から契約開始ですよ」
・契約期間はアリーチェの20歳の誕生日まで
(但し、エミディオが離婚しても伯爵として問題がないと認められるなら時期を早められる)
・白い結婚とするが、中傷されないように互いにフォローする
・契約期間中は伯爵夫人として尊重すること
・お互いのプライベートなことに口を出さない
・夫人としての仕事をさせる
・愛人を本館に入れない
・愛人との逢瀬は別邸のみ
・愛人に過度な出費をしない
・愛人に危害を加えない
・離婚成立時には、アリーチェに契約金5,000万エラを支払うこととする。なお、3年間で得たドレスや宝石類はすべてアリーチェの資産とする
・契約内容を他言しない
「こんなものかしら。他にも変えたいことが出てきたら都度相談して契約更新していきましょうか」
「……別に夫人の仕事などせずに好きに暮らしてもいいのだぞ?」
やっぱり旦那様は馬鹿ね。
「馬鹿ですか?あ、口から出ちゃった。
まぁいいわ。あのですね、そんなことをしたらご両親に認められないし、使用人達にも嫌われます。
そんな針のむしろで3年間も生活しろとおっしゃるの?
私は勉強も仕事も嫌いではありません。もともとのんびりゆったりなどという生活はしたことがありませんから、何かやることがある方が助かります」
「……君は伯爵夫人になると言うなら、その正直な口をどうにかしなさい」
「承知いたしました、旦那様。3年間よろしくお願いしますね。
あと、私の名前は君ではありません。どうぞ名前でお願いします。不自然ですよ」
「……分かった。アリーチェ、よろしく頼む」
初夜の場に現れた途端、旦那様から信じられない言葉が吐き捨てられた。
「なるほど。これは結婚詐欺だと言うことですね!」
「……は?」
今日、アリーチェは結婚した。相手はエミディオ・バルディ伯爵令息。会うのは二度目だ。結婚の申込みの時に一度、今日で二度目。なかなか強引な人だわ。
見た目はアッシュグレーの髪にブルーの瞳。眉間のシワは気になるがなかなかの美形だ。
でもまぁ、29歳で独身を貫く変わり者だし、所謂性格に難有りなのだろう。
だってうちは借金を背負った貧乏子爵。お父様は教えてくれなかったけど、私は金で売られたのだろうし。
あの家は早くに出たかったけど次はこれかぁ。これでもピッチピチの17歳処女なのに!
「契約書を見せてください」
「なに?」
「ですから契約書ですよ。旦那様は父からお金で私を買ったのですよね?契約妻として。でしたら契約書があるはずです」
こちらは当たり前のことを聞いているのにどうしてそんなに憎々しげに見てくるのかしら。
「……そんな物は無い。だが、主人である私の決定に従うのは当然のことだろう」
「どこが当然なのですか。当然なのは今夜私と閨を共にして子種を授け、後継者を早く産ませることです。
貴族の結婚に愛は必要ありませんが、子供は絶対に必要なのですよ。やる事をやらないと授かれないでしょう?」
愛する人がいてもいいけど、後継者をどうするつもりなのか。
「それはいずれ親族から相応しい子供を見つけてくればいいだけだ」
はい、アウト!
「いやですよ。そんな事をしたら私が石女だと馬鹿にされるじゃないですか。どうしてもそうしたいのなら、旦那様が不能であるという診断書を用意して下さい。私を石女だと馬鹿にする人達にはそれを見せて説明致します。それなら白い結婚を受け入れますよ」
「なっ!そんなこと出来るわけがないだろう!」
「ご自分が嫌なことを人にさせないで下さい。旦那様の希望でしょう?ご自分でどうぞ」
……すっごく睨んでる。殴られるかしら。お父様より力がありそうだから顔は止めてほしいわ。
「君の家にはちゃんと金を支払っただろう……」
「さぁ、私が受け取ったわけじゃないので存じ上げません」
「そっちこそ詐欺師か!こちらは政略結婚のつもりだったんだ!今更どうしろと言うんだ!」
「え、政略?それなら最初に条件を提示してしかるべきでしょう?後出しでその様なことを言い出すのは詐欺の手口ですよ。
ちなみに実家への愛は欠片もないので、経済的に追い込んでも私は何も困りません」
さぁ、どうする?一日で離婚?別にわたしは構わない。そうしたら慰謝料を貰って平民にでもなってやるわ。
「だいたい愛する人がいらっしゃるならその方と結婚すればいいのに。他人を巻き込まないでくださいませ」
「……出来ればそうしてる。……もとは男爵令嬢だが、没落し平民になったんだ。妻にはできない」
「それなら独身を貫けばいいのでは?」
「30歳までに結婚しなければ爵位は継がせないと言われた。弟は頭と性格が悪い。あれが当主になれば領民に迷惑がかかるだろう」
なるほどね。自分の為だと言うのならすぐに離婚しようと思ったけど。
「仕方がないですね。では私と契約しましょう」
「君と?」
「はい。私はもともと成人したら家を出るつもりでした。でもあまりに貧乏過ぎて逃走資金が無くて。
ですから、私が20歳まであなたの妻としてここにいて差し上げます。もちろん白い結婚で。
まぁ、とりあえずは可愛い妻と二人っきりの生活を楽しみたい、子供はもう少し後でいいんだ、とか言い訳して下さいね。私が馬鹿にされないようにフォローはして下さい、絶対に!
それと、その3年の間に伯爵としてのあなたの地位を盤石なものにして下さいませ。そうしたら離婚しても今更爵位は剥奪されないでしょう?
もし、もっと早くにそうなれたならその時には離婚に応じますよ」
「離婚……だが、君の経歴に傷が付くぞ」
白い結婚で一生を縛るつもりだったくせに何を言っているのかしら。
「……すまん、言いたい事は分かったからそんなに軽蔑した目を向けないでくれないか」
「すみません、正直な質なので。
まぁいいですよ。経歴くらいどうでもいいです。離婚したら平民になるつもりですから」
「な、どうして!」
「私に興味を持ってくれなくていいです。離婚の慰謝料を多めにしてください。そうしたら隣国にでも移住しますから旦那様には二度と会うこともないでしょう」
酷いことを言ってきた張本人がどうして私に同情しようとするのか。変な人。
「で、どうしますか?」
「……君がそれでいいのなら」
「はい、では契約書を作りましょう!」
「今からか?」
「当たり前です。今から契約開始ですよ」
・契約期間はアリーチェの20歳の誕生日まで
(但し、エミディオが離婚しても伯爵として問題がないと認められるなら時期を早められる)
・白い結婚とするが、中傷されないように互いにフォローする
・契約期間中は伯爵夫人として尊重すること
・お互いのプライベートなことに口を出さない
・夫人としての仕事をさせる
・愛人を本館に入れない
・愛人との逢瀬は別邸のみ
・愛人に過度な出費をしない
・愛人に危害を加えない
・離婚成立時には、アリーチェに契約金5,000万エラを支払うこととする。なお、3年間で得たドレスや宝石類はすべてアリーチェの資産とする
・契約内容を他言しない
「こんなものかしら。他にも変えたいことが出てきたら都度相談して契約更新していきましょうか」
「……別に夫人の仕事などせずに好きに暮らしてもいいのだぞ?」
やっぱり旦那様は馬鹿ね。
「馬鹿ですか?あ、口から出ちゃった。
まぁいいわ。あのですね、そんなことをしたらご両親に認められないし、使用人達にも嫌われます。
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「……分かった。アリーチェ、よろしく頼む」
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