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16.触れたい (激励会)
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アリーチェの様子がおかしい。
マリベルの誕生日。あの日からだ。
私に触れさせてくれない……
彼女からは触れてくる。本当にそっと。
触れるかどうかの、微かな口付け。
だが、私から返そうとすると、体が固まる。
たまにふわっと髪を撫でてくれる。でも、私が撫でようとすると、ビシッと固まってしまう。
これで何日まともに触れていないのだろう……
一緒に寝てくれなくなった。
手も繋いでくれない。
そのせいで、会話もどこかぎこちない。
聞けば答えてくれるのだろうか。
だが、もし、離婚したいと言われたら?
……実家を潰すと言ったから?だが、これは違う気がする。あぁ、アリーチェの変化が気になって、この件を進めていなかった。早くやらないとな。
……告白されたことで、エリアスを男として認識した?だが、そんな雰囲気は欠片もない。それは間違いないと思う。
では、実家から慰謝料を貰えれば、離婚して他国に行けるから?もうすぐ爵位は継げる。そうしたら3年経たなくても離婚できる……だからなのか?
どうしよう。私は手放さなくてはいけないのか?あの子の幸せを願うなら……
「エミディオ様、明日ですが私はモニカさんに会いに行ってきます」
……は?
「えと、先日お手紙を出しまして。遊びに来ていいって言ってくれたんです」
「……そうか」
「はい、だから明日は朝から出かけちゃいますね。先生にも明日はお休みにしてくださいって伝えてありますから大丈夫です!」
「…………そうか」
すでに私以外にはすべて伝えて手回しはしてあるのか。マナーの先生ですら知っていることを私だけが知らずに……
「だが、一人で出かけてはいけないよ。ノーラを連れて行くこと。これは絶対だ」
「分かりました、ありがとうございます」
次の日、アリーチェは出て行った。
……帰ってくる……よな?
まだ彼女は私の妻だ。無責任にいなくなるはずがない。
それでも不安で仕方がない。
私は何をやってしまったのだろう。
「おい、お前大丈夫か?」
「……グイド、私はもう駄目かもしれない……」
つい耐えられなくなって弱音を吐く。
「どうした、夫婦喧嘩でもしたか?」
「……何が悪いのかわからないんだ……」
「え、本当に喧嘩してるのかよ!」
喧嘩……喧嘩はしていないな。
ただ、
「……触らせてくれない……」
「は?」
「私が触れようとすると固まるんだ。離婚を切り出されたらどうしよう……」
「ん?嫌がられるんじゃなくて、固まるのか」
「嫌がってはいない……と思う。あの子はすぐ顔に出るから」
なんなら口も手もすぐ動く。
本当に嫌なら罵って殴ってきそうだ。
「ふ~ん。それってさ、照れてるだけじゃないのか?」
照れる。誰が?
「あの子は平気で私に絡まって寝ていたぞ」
「いや、お前の夫婦のアレコレは聞きたくない。だけどさ、今までは義務とかだったり、たんなる “夫” としか認識してなかったものが、何らかの理由で “男” だと感じたのかもしれないぞ」
夫じゃなくて男……私が?
「だいたいそういうお前はどうなんだ。可愛い可愛い言ってるけど、それは女としてか?それともただ愛でるだけのモノなのか」
あの子は、娘で、子猫で、宝物で。
「……お前今日は使い物にならなそうだから帰れよ。そもそも急ぎの案件じゃないだろ、コレ。
大事なことから逃げてないでちゃんと向き合えよな。モニカさんと違って、アリーチェちゃんはお前が手を伸ばせば手に入れることができるんだから」
手に入れることができる……本当に?
モニカはどれだけ愛していても離れていった。
アリーチェは……
まだ若くて、可愛くて、すごくいい子で。
今まで幸せが足りなかった分、これからはたくさん幸せになるべき人で。
「ちゃんと女性として好きなんだろう?」
好き、好きだよ、大好きだ。
そうだ、いつからだったのだろう。
あの子を……愛してしまったのは。
「……だが、私は初恋を諦められなくて契約妻を望むような卑怯な男だ。しかも振られたばかりでもう次に目移りしてるなんて、男としても人としても最低だろう……」
私は絶対アリーチェに相応しくない。父でいたかった気持ちも残っているせいで、こんな男に可愛いアリーチェを渡す気にはなれない。絶対殴って追い返すぞ。
「それを決めるのはアリーチェちゃんだろ。聖人君子だったら愛されるわけじゃないさ。好みは色々で、結局は彼女が好きだって思える男が一番強いんだ」
そうか。正しいかどうかではなく、あの子がどう思うか。駄目だな、分かっていたはずなのに、自分が絡むとおかしくなる。どれだけ愚か者かを知っているから。
それでも。あの子は言っていたじゃないか。自分の考えを聞きもしないで暴走して、と。これではエリアスと同じだった。
頭の中の妄想アリーチェだったか?
あの子は面白いことをいうよな。
「……なるほど。マリベルが大きくなったらそう伝えてやろう」
「あ!この野郎、弱ってると思って優しくしてやったのに!さっさとアリーチェちゃんに告白して来い!!」
私は嫌われるのが怖くて告白すらしていなかった。まずは正直に好きだと、女性として愛していると伝えよう。
あの子は人の気持ちを無碍に扱ったりはしない。
「グイド、ありがとう」
「おう」
「だが、ちゃん付けで呼ぶことは許さん」
「はいはい」
だが、昼過ぎには戻ると言っていたアリーチェは、夕方になっても帰って来なかった。
マリベルの誕生日。あの日からだ。
私に触れさせてくれない……
彼女からは触れてくる。本当にそっと。
触れるかどうかの、微かな口付け。
だが、私から返そうとすると、体が固まる。
たまにふわっと髪を撫でてくれる。でも、私が撫でようとすると、ビシッと固まってしまう。
これで何日まともに触れていないのだろう……
一緒に寝てくれなくなった。
手も繋いでくれない。
そのせいで、会話もどこかぎこちない。
聞けば答えてくれるのだろうか。
だが、もし、離婚したいと言われたら?
……実家を潰すと言ったから?だが、これは違う気がする。あぁ、アリーチェの変化が気になって、この件を進めていなかった。早くやらないとな。
……告白されたことで、エリアスを男として認識した?だが、そんな雰囲気は欠片もない。それは間違いないと思う。
では、実家から慰謝料を貰えれば、離婚して他国に行けるから?もうすぐ爵位は継げる。そうしたら3年経たなくても離婚できる……だからなのか?
どうしよう。私は手放さなくてはいけないのか?あの子の幸せを願うなら……
「エミディオ様、明日ですが私はモニカさんに会いに行ってきます」
……は?
「えと、先日お手紙を出しまして。遊びに来ていいって言ってくれたんです」
「……そうか」
「はい、だから明日は朝から出かけちゃいますね。先生にも明日はお休みにしてくださいって伝えてありますから大丈夫です!」
「…………そうか」
すでに私以外にはすべて伝えて手回しはしてあるのか。マナーの先生ですら知っていることを私だけが知らずに……
「だが、一人で出かけてはいけないよ。ノーラを連れて行くこと。これは絶対だ」
「分かりました、ありがとうございます」
次の日、アリーチェは出て行った。
……帰ってくる……よな?
まだ彼女は私の妻だ。無責任にいなくなるはずがない。
それでも不安で仕方がない。
私は何をやってしまったのだろう。
「おい、お前大丈夫か?」
「……グイド、私はもう駄目かもしれない……」
つい耐えられなくなって弱音を吐く。
「どうした、夫婦喧嘩でもしたか?」
「……何が悪いのかわからないんだ……」
「え、本当に喧嘩してるのかよ!」
喧嘩……喧嘩はしていないな。
ただ、
「……触らせてくれない……」
「は?」
「私が触れようとすると固まるんだ。離婚を切り出されたらどうしよう……」
「ん?嫌がられるんじゃなくて、固まるのか」
「嫌がってはいない……と思う。あの子はすぐ顔に出るから」
なんなら口も手もすぐ動く。
本当に嫌なら罵って殴ってきそうだ。
「ふ~ん。それってさ、照れてるだけじゃないのか?」
照れる。誰が?
「あの子は平気で私に絡まって寝ていたぞ」
「いや、お前の夫婦のアレコレは聞きたくない。だけどさ、今までは義務とかだったり、たんなる “夫” としか認識してなかったものが、何らかの理由で “男” だと感じたのかもしれないぞ」
夫じゃなくて男……私が?
「だいたいそういうお前はどうなんだ。可愛い可愛い言ってるけど、それは女としてか?それともただ愛でるだけのモノなのか」
あの子は、娘で、子猫で、宝物で。
「……お前今日は使い物にならなそうだから帰れよ。そもそも急ぎの案件じゃないだろ、コレ。
大事なことから逃げてないでちゃんと向き合えよな。モニカさんと違って、アリーチェちゃんはお前が手を伸ばせば手に入れることができるんだから」
手に入れることができる……本当に?
モニカはどれだけ愛していても離れていった。
アリーチェは……
まだ若くて、可愛くて、すごくいい子で。
今まで幸せが足りなかった分、これからはたくさん幸せになるべき人で。
「ちゃんと女性として好きなんだろう?」
好き、好きだよ、大好きだ。
そうだ、いつからだったのだろう。
あの子を……愛してしまったのは。
「……だが、私は初恋を諦められなくて契約妻を望むような卑怯な男だ。しかも振られたばかりでもう次に目移りしてるなんて、男としても人としても最低だろう……」
私は絶対アリーチェに相応しくない。父でいたかった気持ちも残っているせいで、こんな男に可愛いアリーチェを渡す気にはなれない。絶対殴って追い返すぞ。
「それを決めるのはアリーチェちゃんだろ。聖人君子だったら愛されるわけじゃないさ。好みは色々で、結局は彼女が好きだって思える男が一番強いんだ」
そうか。正しいかどうかではなく、あの子がどう思うか。駄目だな、分かっていたはずなのに、自分が絡むとおかしくなる。どれだけ愚か者かを知っているから。
それでも。あの子は言っていたじゃないか。自分の考えを聞きもしないで暴走して、と。これではエリアスと同じだった。
頭の中の妄想アリーチェだったか?
あの子は面白いことをいうよな。
「……なるほど。マリベルが大きくなったらそう伝えてやろう」
「あ!この野郎、弱ってると思って優しくしてやったのに!さっさとアリーチェちゃんに告白して来い!!」
私は嫌われるのが怖くて告白すらしていなかった。まずは正直に好きだと、女性として愛していると伝えよう。
あの子は人の気持ちを無碍に扱ったりはしない。
「グイド、ありがとう」
「おう」
「だが、ちゃん付けで呼ぶことは許さん」
「はいはい」
だが、昼過ぎには戻ると言っていたアリーチェは、夕方になっても帰って来なかった。
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