悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

文字の大きさ
28 / 89
第一章

27.決裂

しおりを挟む

エマ、あなたはどうして何処にもいないの?

本館に行けば会えると思った。
でも、あなたはいなかった。
エマの事情で辞めたのならそれでいい。
だけど、本当の事を知るのが怖くて今まで聞くことができなかった。

「ああ、思い出した。その乳母ならお母様がクビにしたはずだよ」
「そんな奴いたっけ?」
「3年くらいはミュリエルの乳母の一人だっただろ?でも、余計なことをするのが目に余るとお母様が」
「なんで?」
「え、何が?」

ミュリエル専任の乳母ですらなかったの?
そんな、いなくても困らないのなら私のもとに返してくれたらよかったのに!!

「気に入った使用人だったのか?だが、主の意向を汲み取れないような能力の足りない者を雇い続けるわけにはいかないだろ」
「……エマは優秀だったわ。ずっと…ずっと私を大切に育ててくれた、とても優しくて優秀な乳母だったわ」
「子供の目にはそう見えても、雇い主が不要だと言えばそれまで。その程度だったんだよ。
こちらはお金を払っているんだ。役に立たなければ切られる。当然だろう」

……何をさかしらに語っているの。
何も知らないくせに。エマがどれだけ私に尽くしてくれたのか知りもしないくせにっ!!

「そう……。それがあなた達の考えなのね」

役に立たなければ切り捨てればいい。あなた達はそういうのね?

「……では、自分達の首の心配するといいわ」
「は?何を言って」
「あなた達は今回の件で、後継者としてペナルティが付いたのを忘れたの?」
「それはっ、だから魔法塔に行くんじゃないか」
「まさかそれですべてが元に戻るとお考えなのかしら。さっきご自分で言ったではありませんか。
役に立たなければ切られる。
……ええ、そうですわね。ご理解くださっているのなら、私は心置きなく戦えますわ」

だってあなた達に情は必要ないのでしょう?

エマがお母様の意向に従わなかった?それはきっと、私にしてくれていたようにミュリエルに対しても愛情をもって仕えていたのでしょう。
だってあの人は私にも言っていたもの。
使用人とは道具であり、そんなものを慕うような愚か者にはなるなと。
あなた達もそう育てられたのでしょう?
だから恨むべきではないのかもしれないわね。
でも、どうしても許せないの。人を人として扱わないことに違和感を感じないあなた達が心底気持ち悪い!

「まさか…、お前は後継者の座を狙っているのか?!」
「いけませんか?私だって権利はありますもの。
何なら、あの両親の教育をという利点すらある。
そして何よりも、この年で独学で魔力回路のリンク治療を成功させた。
どうです?なかなか良いスタートを切れていると思いませんか?」

あなた達はどう?これからの矯正はどれくらいかかるのかしら。

「……だが、お前だって隔離されていて性格が歪んでるじゃないか」
「まあっ、実の妹に向かってそんなことを仰るのね?本当に情というものが存在しないみたい」
「やめて!兄様をいじめないで!姉様なんてどこか行っちゃえっ!」

幼いってすごいわ。世界は自分を中心に動いているとでも思っているの?望めば何でも叶う世界なんて存在しないのよ。

「なぜ?嫌ならばあなたがどこかに行けばいい。
私はこのせっかくのチャンスを逃す気はなくなったの。公爵家で教育が受けられるなんてこんなにも光栄なことはないものね?」

シルヴァン兄様がいなくてよかった。
こんなにも酷いことを平気で言える姿を見られたくない。

「これは何の騒ぎだ」
「お祖父様?!いえ、あの、ちょっとした兄弟喧嘩というか、その」

狼狽えちゃって馬鹿みたい。

「お祖父様、このような場で騒ぎを起こしてしまい誠に申し訳ございません。
私が生まれた時から側にいてくれて母のように慕っていた乳母が母上に無能だとクビにされていたと聞き、冷静ではいられませんでした」
「マイルズ、本当の事か」
「えっ?!あの、本当ですが、でも僕達はそんなこと知らなくて!」
「良いのです。あなた達が使用人を道具としか見ていないと分かりましたから。そう教えられてきたのですから仕方がないのでしょうね」
「僕はそんなこと言ってないっ!」

……これ以上追い詰めては駄目ね。

「騒ぎを起こした罰は受けます」
「……ブランシュを罰するつもりはないが」

そう言うと、お祖父様は私の頭をグシャグシャとかき回した。
…これは撫でているつもりなの…かな?

「お祖父様?」
「いや…、本当にお前達には申し訳ないことをしたと思ってなぁ」

それはお母様のこと?そうね。嫁がせず、修道院にでも放り込んでおいてくれたらこんなことにはならなかったと思うわ。
そうしたら私は生まれていないけど。

「マイルズ、パスカル。お前達は今、貴族としてやり直せるかどうかの瀬戸際にいるのだという自覚はあるか?」
「は、はい。だから魔法塔に」
「では、それまでは何も変えないでもいいと思っているのか。それは随分と甘いぞ。なぜなら、君達は残念ながら既に裁かれた身だからだ」
「そんな……それではまるで罪人……」
「そうだな。難しい魔法を使っている人間の邪魔をし、下手をしたら二人の人間を殺めてしまうところだった。
それは十分に罪なのではないのか?」

なぜいまさら蒼白になるの?もしかして、本当はまだ理解できていなかった?

「ちょっと肩を掴んだだけのつもりだったか?
だがな、人はそのちょっとしたことで死ぬこともある。
そうしてそれは、知らなかったでは済まされないんだ」
「あ……でも、でもブランシュは元気で」
「それはブランシュがたまたま優秀でミスを何とか防いだだけだ。
なあ、マイルズ、パスカル。君達は自分達がまだ一度も謝っていないことに気付いているかい?」




しおりを挟む
感想 243

あなたにおすすめの小説

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】 幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて

碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。 美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。 第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。

処理中です...