悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜

ましろ

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第二章

8.告げ口

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「可愛い子だったよ」

偶然庭園で出会ったノディエ家の長女のことを、ロランはそう語っていた。
新しく先生となるエルフェ殿と散歩をしていたらしい。

「二人だけで?」
「うん、少し離れた所にメイドはいたけど他の兄妹はいなかったよ」

それは何とも不思議な話だ。新しい場所に来て不安もあるだろうから誰かと共にいる。これは納得できるけど、その相手が魔法塔の教師?
そもそもエルフェ先生自身が不思議な存在なのに。
ノディエ家のために派遣された魔法塔の教師としか聞いていないけれど、教師としてはまだ若く、新任と言っても良さそうな年齢の彼が、何故か私達のことまで教えてくださることになった。
すでに家庭教師は揃っているのに、だ。

「シルヴァン兄様って呼んでて、すごく仲良しみたいだよ」
「……それは、短期間でずいぶんと仲が良くなっているみたいだな」

今回たまたま派遣されたわけではないのか?もともと知り合い……、いや、以前から魔法塔の介入があったならオレリー叔母様をもっと早くに止められていただろうから違うか。

「でも、先生凄いんだよ。ちょっと近付いただけですぐにバレちゃった。障壁?ていう魔法を展開してたんだって」

なるほど。さすがは魔法塔の教師。簡単にそんなものを使えるのか。というかずいぶん警戒されているとも言えるけど。それくらいノディエ家の長女を大切に守っているということだ。

「でも、晩餐には呼ばれてないんだよな」
「まあ、ただの家庭教師を呼びはしないだろう」

家庭教師は使用人と変わらない。客人ではないのだから晩餐の席には招かれないのが普通ではある。

「それに本当の兄がいるから大丈夫だよ」
「そっか。確かにね」

でも、本当の兄や妹とではなく、出会って間もない先生と散歩をしていたことがどうしても気になっていた。

そうして、晩餐の席にやって来たノディエ家の兄妹を見て、その理由が分かった気がした。

確かに、ロランが言う通り可愛い、というか綺麗な子だ。でも、4人で並んでいると彼女だけ異質なのだ。
他の三人が金髪に緑の瞳で、一人だけ銀髪に水色の瞳だから。というだけではなかった。
食事が始まって、一番下のミュリエルが料理の好き嫌いを何度も口にしたが、それを訴える先は隣に座っている姉を越えて双子の兄達だ。そしてそんな妹のマナーの悪さを少し呆れ気味に見ている姿は、まるで初めて見るかのようで。
そして、それまでは笑顔で会話をしていたはずなのに、急に不安げに俯いてしまった彼女は誰にも助けを求めなかった。そこには誰も味方などいないかのように。
結局は自分自身で持ち直し、

「…ごめんなさい。こんな大人数での会話に慣れていなくて。……私はずっと家族とは離れて暮らしていたものですから。不調法で申し訳ありません」

笑顔でそう話したのだ。
ああ、違和感の正体はコレか。
兄妹なのにどこか余所余所しい。その理由は共に暮らしていなかったから。
それならば、血は繋がっていても他人のようなものだろう。

それを聞いた父上はまるで何でも無いことのように会話を続けた。ということは、父上は知っていたのだ。
……試したのか。彼らの仲を。
だから先生を招かなかったのかな。家庭教師であっても魔法塔からの客人として招待することは可能だったのにしなかった。それは、保護されていない状態が見たかったからだろう。我が親ながら腹黒くて嫌になる。
もう先程のような不安そうな顔はなく、こうやっていつも一人で乗り越えてきたのかと思うと少し悲しくなった。

食事が終わり、ノディエ家の兄妹とはまだ話があるからと、私達だけ先に部屋に戻ることになった。

さて、どうしようか。

「兄上?戻らないの?」
「うん。ちょっと用を思い出した」

何となく父上のやり方が気に入らないんだよね。

コンコンコン

「リシャール君、何かあった?」

ノックをすると、エルフェ先生がすぐに扉を開けてくれた。

「ブランシュさんのことでお伝えしたいことがあります」

そう伝えれば、どうぞと中に入れてくれた。
先生の部屋は賓客用で、やはり使用人ではなく客人の扱い。それなのに。

「父上が申し訳ありません」
「晩餐のことかな?」
「はい。客人である貴方を招かないなんて」
「まあ、家庭教師だしね」

先生はその微妙な線引きを分かっていたのだろう。

「……自分はずっと家族と離れて暮らしていたから、と。迷子の子どもみたいで可哀想でした。
ちゃんと自分だけで乗り切ってましたけど」
「……そっか。それを伝えに来てくれたのかな」
「はい。だって『お兄様』なのでしょう?」
「ああ、ロラン君か」

スイっと視線がまだ彼女がいるであろう部屋の方に向けられた。

「父上がノディエ家の子ども達に話があるとのことで、そのまま残っています。………ブランシュさんの居場所が分かるのですか?」
「変態みたいに言わないで」

いや、絶対に分かってるよね?

「……あの子の魔力を覚えてるから」
「ああ、もう発現しているのですか」

双子達が早くに発現したことは聞いていたけど、まさかブランシュさんもだったのか。
でも、覚えているからって簡単に見つけられるものなのか?先生ってかなりの実力者なのでは。

「うん。でもこれ以上のことは、ブランシュと仲良くなって本人から聞いてね」
「あ、そうですね。……しまったな。父上が意地悪なのかと思って告げ口に来たのに、個人情報を漏らさなかった父上の方が正しかったのだと今気付きました」

最初から教えてくれていたらあんな顔をさせずに済んだのかと思ったけれど、勝手に事情を話されている方が良くないのか。
でも、人との交流に慣れていない彼女にいきなり保護者抜きで晩餐に参加させたのはやっぱり良くなかったと思う。

「まあ知っていた方が対応しやすいということもあるけど、友達になるのなら相手が話してくれるまで待ってあげて。さっき教えてくれた言葉も、君達に伝えるのはとても勇気がいったと思うんだ」
「はい、分かりました」
「あの子を気に掛けてくれてありがとう。これからも仲良くしてやってくれ」

……何と優しげな顔をするのか。
本当にこっちの方が兄じゃないか。

「はい、もちろんです」

ブランシュさんが心配だったけど、この人がいれば大丈夫なのだろうな。

「では、おやすみなさい」
「おやすみ。告げ口ありがとうね」

うん。伝えたことは正解だったようだ。
あとは先生にお任せしよう。




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