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第二章
10.朝食にて
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小鳥の囀りが聞こえ、朝なのだと気付き目を覚ます。
まだ馴染まない景色に一瞬戸惑ってしまった。
「……公爵家に来たのだったわ」
一ヶ月のお試し期間ではあるけれど、余程のことがない限り、このままお世話になるのだと思う。
最初は不安だったけど、公爵家の方々は皆お優しいし、何よりもミュリエルと二人きりで過ごすよりは気が楽だと思ってしまいます。
「ブランシュ様、お目覚めですか?」
「おはよう、ナタリー。丁度起きたところよ」
最近ナタリーはお嬢様ではなく、名前で呼んでくれることが増えました。たったそれだけのことですが、何となく嬉しいと思います。
「今日は暖かくなるそうですので、髪は上げてしまいましょうか」
そう言いながら、サイドを編み込みポニーテールにして、お祖父様に買っていただいた涼やかなターコイズブルーのデイドレスに着替えました。
「今日のブランシュ様もとっても可愛らしいです」
エディットの提案で髪を緩く巻いてあるので、歩くとふわんと揺れるのが何だか楽しい。
「今までは落ち着いた色合いが多かったですが、こういうお色も大変お似合いです!」
「そうなのですか?昨日のピンクのドレスもとても良くお似合いでしたわ。これからは明るいお色を増やすべきだと思います」
ナタリーとエディットが意気投合しています。
だって今までは採寸されて届けられた物を着るだけでした。自分で選ぶなんて、お祖父様達とのお買い物が初めてだったのです。
「……うん。ドレスを選ぶのは大変だけど楽しかった」
だって見たことがない物がたくさんありました。
お祖父様のおすすめは少し遠慮したい物が多かったけれど、それでも、フリルやレースはとっても綺麗だったわ。
これまでは両親か使用人しかいなかったから、誰かを見て羨ましいと思うこともありませんでした。
でも、ミュリエルを初めて見たとき、ああ、愛される子とはこんなふうに明るく彩られた可愛らしいものなのかと、そう思ったのです。
「やはりおしゃれは女性の醍醐味です。
それに、淑女としても流行りの物などを知っておくことは大切なんですよ?」
「そうなの?」
「はい。年頃の令嬢ならばそういった知識は必須ですね」
知りませんでした。では、私は今のところおしゃれ項目は落第生です。
「……本当に世間知らずなのね」
「まだ9歳でいらっしゃいますもの。これから学ばれれば十分間に合いますわ」
「ありがと。頑張るね」
身支度が終わったころ、シルヴァン兄様が迎えに来てくださいました。
「おはよう、そのドレスもよく似合っているね」
「おはようございます。私も気に入っています」
こうやって新しい服を褒められるのって嬉しいものですね。
「はい、お姫様にプレゼント」
「これは…鈴蘭ですか?」
可愛らしい小さな花束を頂いてしまいました。
「うん。ブランシュに似合うと思って」
「とっても可愛いです」
「あの、エルフェ様。鈴蘭はあまり触れないほうが」
エディットが申し訳なさそうに進言しました。
「ああ、ちゃんと魔法で加工してあるから大丈夫だよ」
「なぜ魔法を?」
「鈴蘭は毒性があるんだ。口にしなければ大丈夫だけど、何かあったら困るからね」
「まあ。こんなに可愛らしいのに」
コロンと可愛らしい白い小花は毒があるようには思えません。
「ごめん、嫌だった?」
「いいえ。とっても可愛いですし、お花を頂いたのは初めてなので嬉しかったです。それも魔法の掛かった花束ですもの。初めて尽くしですわ」
「よかった。じゃあ、行こうか」
「はい!」
食堂に向かうと、すでにリシャール様とロラン様がいらっしゃいます。
「先生、ブランシュさん、おはようございます」
「おはようございます」
「おはよっ。ちゃんと眠れた?」
「はい。朝までぐっすりでした」
リシャール様もロラン様も気軽に話し掛けてくださるのでホッとします。
「その髪型可愛いね」
「うん、今日は巻いてるんだな。よく似合ってる」
「あ、ありがとう?」
何?何だかマイルズ達と勝手が違うわ。
「おやおや、リシャール君達は女性を褒めるのが上手だね」
「そうですか?母上に、女性の変化には敏感であれと教わったので」
「でも嘘は言ってないよ?だってブランシュ可愛いし」
「可愛いより綺麗だろ?」
「うちのブランシュは可愛いし綺麗なんです」
やめて~~~っ!!何?何なの?!
シルヴァン兄様だけならまだしも、この兄弟は二人ともサラッと女性を褒め過ぎだと思いますっ!
「……そんなに簡単に褒めてばかりいると、女性に勘違いされますよ!」
「ブランシュさんは確かに可愛いですね」
「だろ?」「でしょう?」
……勝てない。この人達には勝てる気がしません。
それでもすっかりと緊張も解れ、普通に話せるようになってきました。
「ロラン様、今度剣術のお稽古を見学させてもらってもいいですか?」
「え!興味ある?ブランシュも習ってみる?」
まあ。何だか凄い勢いで食いついてきました。
「いえ。剣術を見たことがなかったので」
「そっか!でも、興味を持ってもらえて嬉しいよ。
今日は午後にやるんだけど、見に来る?」
「ありがとうございます。パスカルも剣術が好きなようなので、一緒に行ってもいいですか?」
「もちろん!」
よかった。快く承諾していただけました。
「あ、じゃあ午前中は暇?」
「はい」
「それなら、よかったら図書室に行かないか。
我が家は結構珍しい本も置いてあるんだ。ブランシュさんは読書が好きなんでしょう?」
図書室!これもまた嬉しいお誘いです。
「私が行ってもよろしいのでしたら、ぜひ」
「もちろん大丈夫だよ。先生もどうですか?」
「ありがとう。では、私も行かせてもらおうかな」
「………俺は行かないから」
あ、ロラン様は勉強がお嫌いなのでしたね。
「残念です」
「え」
「そうだわ!戦術などが書かれた本などもあると思うのですけど。………そういったものも興味はございませんでしょうか?」
「えっと、あの、……うん。ちょっと見てみよう、かな?」
「まあ!では、皆で行きましょう!」
ちょっと強引だったかしら。でも、お二人ともっと打ち解けたいと思って頑張ってしまいました。
「ブランシュさん、最高。まさかロランを図書室に連れて行くなんて素晴しい腕前だね」
「ありがとうございます?」
何を褒められたのかよく分かりませんが、何だかもうお友達になれたみたい?いえ、まだ早いかしら。
でも、お二人はノディエ家兄妹と違って気難しくないので、もっと親しくなれると嬉しいです。
まだ馴染まない景色に一瞬戸惑ってしまった。
「……公爵家に来たのだったわ」
一ヶ月のお試し期間ではあるけれど、余程のことがない限り、このままお世話になるのだと思う。
最初は不安だったけど、公爵家の方々は皆お優しいし、何よりもミュリエルと二人きりで過ごすよりは気が楽だと思ってしまいます。
「ブランシュ様、お目覚めですか?」
「おはよう、ナタリー。丁度起きたところよ」
最近ナタリーはお嬢様ではなく、名前で呼んでくれることが増えました。たったそれだけのことですが、何となく嬉しいと思います。
「今日は暖かくなるそうですので、髪は上げてしまいましょうか」
そう言いながら、サイドを編み込みポニーテールにして、お祖父様に買っていただいた涼やかなターコイズブルーのデイドレスに着替えました。
「今日のブランシュ様もとっても可愛らしいです」
エディットの提案で髪を緩く巻いてあるので、歩くとふわんと揺れるのが何だか楽しい。
「今までは落ち着いた色合いが多かったですが、こういうお色も大変お似合いです!」
「そうなのですか?昨日のピンクのドレスもとても良くお似合いでしたわ。これからは明るいお色を増やすべきだと思います」
ナタリーとエディットが意気投合しています。
だって今までは採寸されて届けられた物を着るだけでした。自分で選ぶなんて、お祖父様達とのお買い物が初めてだったのです。
「……うん。ドレスを選ぶのは大変だけど楽しかった」
だって見たことがない物がたくさんありました。
お祖父様のおすすめは少し遠慮したい物が多かったけれど、それでも、フリルやレースはとっても綺麗だったわ。
これまでは両親か使用人しかいなかったから、誰かを見て羨ましいと思うこともありませんでした。
でも、ミュリエルを初めて見たとき、ああ、愛される子とはこんなふうに明るく彩られた可愛らしいものなのかと、そう思ったのです。
「やはりおしゃれは女性の醍醐味です。
それに、淑女としても流行りの物などを知っておくことは大切なんですよ?」
「そうなの?」
「はい。年頃の令嬢ならばそういった知識は必須ですね」
知りませんでした。では、私は今のところおしゃれ項目は落第生です。
「……本当に世間知らずなのね」
「まだ9歳でいらっしゃいますもの。これから学ばれれば十分間に合いますわ」
「ありがと。頑張るね」
身支度が終わったころ、シルヴァン兄様が迎えに来てくださいました。
「おはよう、そのドレスもよく似合っているね」
「おはようございます。私も気に入っています」
こうやって新しい服を褒められるのって嬉しいものですね。
「はい、お姫様にプレゼント」
「これは…鈴蘭ですか?」
可愛らしい小さな花束を頂いてしまいました。
「うん。ブランシュに似合うと思って」
「とっても可愛いです」
「あの、エルフェ様。鈴蘭はあまり触れないほうが」
エディットが申し訳なさそうに進言しました。
「ああ、ちゃんと魔法で加工してあるから大丈夫だよ」
「なぜ魔法を?」
「鈴蘭は毒性があるんだ。口にしなければ大丈夫だけど、何かあったら困るからね」
「まあ。こんなに可愛らしいのに」
コロンと可愛らしい白い小花は毒があるようには思えません。
「ごめん、嫌だった?」
「いいえ。とっても可愛いですし、お花を頂いたのは初めてなので嬉しかったです。それも魔法の掛かった花束ですもの。初めて尽くしですわ」
「よかった。じゃあ、行こうか」
「はい!」
食堂に向かうと、すでにリシャール様とロラン様がいらっしゃいます。
「先生、ブランシュさん、おはようございます」
「おはようございます」
「おはよっ。ちゃんと眠れた?」
「はい。朝までぐっすりでした」
リシャール様もロラン様も気軽に話し掛けてくださるのでホッとします。
「その髪型可愛いね」
「うん、今日は巻いてるんだな。よく似合ってる」
「あ、ありがとう?」
何?何だかマイルズ達と勝手が違うわ。
「おやおや、リシャール君達は女性を褒めるのが上手だね」
「そうですか?母上に、女性の変化には敏感であれと教わったので」
「でも嘘は言ってないよ?だってブランシュ可愛いし」
「可愛いより綺麗だろ?」
「うちのブランシュは可愛いし綺麗なんです」
やめて~~~っ!!何?何なの?!
シルヴァン兄様だけならまだしも、この兄弟は二人ともサラッと女性を褒め過ぎだと思いますっ!
「……そんなに簡単に褒めてばかりいると、女性に勘違いされますよ!」
「ブランシュさんは確かに可愛いですね」
「だろ?」「でしょう?」
……勝てない。この人達には勝てる気がしません。
それでもすっかりと緊張も解れ、普通に話せるようになってきました。
「ロラン様、今度剣術のお稽古を見学させてもらってもいいですか?」
「え!興味ある?ブランシュも習ってみる?」
まあ。何だか凄い勢いで食いついてきました。
「いえ。剣術を見たことがなかったので」
「そっか!でも、興味を持ってもらえて嬉しいよ。
今日は午後にやるんだけど、見に来る?」
「ありがとうございます。パスカルも剣術が好きなようなので、一緒に行ってもいいですか?」
「もちろん!」
よかった。快く承諾していただけました。
「あ、じゃあ午前中は暇?」
「はい」
「それなら、よかったら図書室に行かないか。
我が家は結構珍しい本も置いてあるんだ。ブランシュさんは読書が好きなんでしょう?」
図書室!これもまた嬉しいお誘いです。
「私が行ってもよろしいのでしたら、ぜひ」
「もちろん大丈夫だよ。先生もどうですか?」
「ありがとう。では、私も行かせてもらおうかな」
「………俺は行かないから」
あ、ロラン様は勉強がお嫌いなのでしたね。
「残念です」
「え」
「そうだわ!戦術などが書かれた本などもあると思うのですけど。………そういったものも興味はございませんでしょうか?」
「えっと、あの、……うん。ちょっと見てみよう、かな?」
「まあ!では、皆で行きましょう!」
ちょっと強引だったかしら。でも、お二人ともっと打ち解けたいと思って頑張ってしまいました。
「ブランシュさん、最高。まさかロランを図書室に連れて行くなんて素晴しい腕前だね」
「ありがとうございます?」
何を褒められたのかよく分かりませんが、何だかもうお友達になれたみたい?いえ、まだ早いかしら。
でも、お二人はノディエ家兄妹と違って気難しくないので、もっと親しくなれると嬉しいです。
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