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その後、王家から婚約白紙の通知が届いた。また、私の怪我への多額の慰謝料も。
やっと自由になれて嬉しい。でも、私は学園にはまだ通えずにいる。
……怖いのだ。家族以外の男性が怖い。
これからどうしたらいいのか分からない。もう、修道院に行くしかないのかしら。
それでもひとつだけ嬉しいことがある。
お見舞いのカードと共に届く小さな贈り物。
可愛らしい花束、美味しいお菓子、新作の本。高価なものでは無いけれど、私のことを考えて選んでくれたのが分かる。だって図書室で話したもの。
大輪の薔薇より鈴蘭の方が好き。毒があるのに?可愛いからいいのよ。アルマのクッキー美味しいですよね。太るぞ。いじわる!もうすぐ新刊が出ますね。うん、楽しみだ。
そんな他愛もない会話を覚えていてくれた。
クールな先輩はどんな顔をして選んだのだろう。それらが届くたび、心が温かくなった。
婚約白紙から2週間経った頃、マルティナ様が禁忌魔法を使用した罪で捕まったとの知らせと共に、王宮に来るようにとの手紙が届いた。
「禁忌魔法?では、殿下の豹変はそのせいだというのか?」
「……まさか、魔法が解けたからもう一度婚約しろとは言わないですよね?」
あの時の殿下を思い出し、体が震え出す。
「…いや、嫌です!お父様、私を修道院に入れてくださいませ!どうせ傷物です。もう一度婚約するくらいなら私は神に仕えますわ」
「リーゼ、落ち着いて?まずはお話を聞いてから考えましょう。大丈夫よ、あなたの嫌がることはしないわ」
「そうだな。リーゼはまだ外に出れる状態ではない。私だけ行ってこよう。早まらないで待っていておくれ」
私はまだ心の傷が癒えず、外出が困難という理由でお父様だけが王宮に向かった。
どうしよう、怖い。なぜ放っておいてくれないの。あれだけ傷つけてまだ足りないというの?
お父様を待つ時間は拷問のようだ。
もう嫌だ、誰か助けて……
無理だと分かっていても誰かに助けを求めたくなる。震える体をお母様とユリアーナが抱きしめてくれる。
お父様が帰ってきたのは深夜になってからだった。
「ただいま、リーゼ。遅くなったね」
「お帰りなさい、お父様」
ユリアは寝てしまった為、お母様と二人で話を聞くことになった。
「……殿下は魅了魔法に掛かっていたらしいよ。いや、殿下だけじゃない。彼女と親しかった者が皆……かな」
魅了……そんな物語でしか聞いたことのないものが実在するなんて。魔法はそんなに強力なの?でも先輩は掛かっていなかったと思う。
「もともと殿下を狙っていたのですか?」
「一目惚れらしいよ。ただ魔法は否定してるそうだ。昔から周りに愛されていたけど魅了なんて知らないとさ。魔法というより呪いみたいだ。彼女の母親から教えてもらった幸せの呪文があるみたいだね」
おまじないなの?そんなもので殿下はあんなに変わってしまうなんて。でも、私が知りたいのはそんな事じゃない。
「なぜ私達が呼ばれたのですか?」
心臓が早鐘のようだ。答えを聞くのが怖い。
「殿下はお前との婚約白紙を聞いて倒れられた。しばらく高熱と記憶の混濁があったそうだ。やっと落ち着くと、なぜマルティナ公女を好きだと思っていたか分からないと、何かに操られていたとしか思えないと言い出した。
王家はもっと前から調査していたそうだよ。フリーゼ公国にも協力を要請していたが、なんせ異国の踊り子だった母からの口伝だ。なかなか証拠が掴めずにいたらしい。
いままではなんとなく好かれやすいくらいだったが、公女が殿下に恋をして本気で彼を望んだ結果、想像以上の効力を発揮したのではないかという見立てだ。詳しい方法などは禁忌魔法になるため教えてはもらえなかったよ。マルティナ公女はフリーゼでの幽閉が決まった。
そして、殿下は……お前との再婚約を望んでいらっしゃる」
「!!」
覚悟していた言葉だった。でも、
「……いや…いやです…私は、もうっ」
否定の言葉を紡ごうとも息が吸えなくなっていく。なぜ?こわいこわいこわい!
「ハッ、ハッ、ヤ、ぁっ、苦し、っ」
「リーゼ?!しっかりしろ!」
「大丈夫よ、落ち着いて、ゆっくり息を吐くの。ほら、お母様に合わせて」
お母様に抱きしめられて、背中を撫でられる。苦しくて苦しくて……
どれだけ時間が経っただろう。ようやく呼吸が落ち着いた頃には汗と涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「……私、死ぬの?」
こんな発作は初めてだった。
「驚いて過呼吸になったのね。大丈夫、心配しないで。あなたの望まない事はさせないわ。だってあなたは立派に王家との契約は果たしたの。魔法だからなんて関係ない。私達が守るわ」
「そうだよ。陛下にはしっかりとお断りしてきた。先に言えばよかったね。怖がっているのを知っていたのにごめんな」
本当に?もう殿下の婚約者に戻らなくてもいい?本当に嫌なの。怖いの。でもお父様達は断っても大丈夫なの?
「おや、私はずいぶん信用が無いのかな?一度目は仕方が無かったが、2度目は無いよ。
お前は頑張った。次はもっと素敵な人を探そう。お前を愛してくれて勤勉な婿。そう約束しただろう?」
懐かしい約束ごと。遠い昔の夢だ。
「……でも私は傷物だわ」
「まさか!お前ほど可愛い子はいないよ。この魅力が分からないような馬鹿に用はない。それに、見る目のある男が近くにいるだろう?」
「え?」
何を言っているのか分からない。疲れてぼぅっとしてきた。
「今日はもう寝ましょう。さぁベッドに入って。明日はきっといいことがあるわ。リーゼにいい夢が訪れますように」
お母様の優しい声を聞きながら、私はゆっくり目を閉じた。今は優しい夢がみたい。そう願いながら──
やっと自由になれて嬉しい。でも、私は学園にはまだ通えずにいる。
……怖いのだ。家族以外の男性が怖い。
これからどうしたらいいのか分からない。もう、修道院に行くしかないのかしら。
それでもひとつだけ嬉しいことがある。
お見舞いのカードと共に届く小さな贈り物。
可愛らしい花束、美味しいお菓子、新作の本。高価なものでは無いけれど、私のことを考えて選んでくれたのが分かる。だって図書室で話したもの。
大輪の薔薇より鈴蘭の方が好き。毒があるのに?可愛いからいいのよ。アルマのクッキー美味しいですよね。太るぞ。いじわる!もうすぐ新刊が出ますね。うん、楽しみだ。
そんな他愛もない会話を覚えていてくれた。
クールな先輩はどんな顔をして選んだのだろう。それらが届くたび、心が温かくなった。
婚約白紙から2週間経った頃、マルティナ様が禁忌魔法を使用した罪で捕まったとの知らせと共に、王宮に来るようにとの手紙が届いた。
「禁忌魔法?では、殿下の豹変はそのせいだというのか?」
「……まさか、魔法が解けたからもう一度婚約しろとは言わないですよね?」
あの時の殿下を思い出し、体が震え出す。
「…いや、嫌です!お父様、私を修道院に入れてくださいませ!どうせ傷物です。もう一度婚約するくらいなら私は神に仕えますわ」
「リーゼ、落ち着いて?まずはお話を聞いてから考えましょう。大丈夫よ、あなたの嫌がることはしないわ」
「そうだな。リーゼはまだ外に出れる状態ではない。私だけ行ってこよう。早まらないで待っていておくれ」
私はまだ心の傷が癒えず、外出が困難という理由でお父様だけが王宮に向かった。
どうしよう、怖い。なぜ放っておいてくれないの。あれだけ傷つけてまだ足りないというの?
お父様を待つ時間は拷問のようだ。
もう嫌だ、誰か助けて……
無理だと分かっていても誰かに助けを求めたくなる。震える体をお母様とユリアーナが抱きしめてくれる。
お父様が帰ってきたのは深夜になってからだった。
「ただいま、リーゼ。遅くなったね」
「お帰りなさい、お父様」
ユリアは寝てしまった為、お母様と二人で話を聞くことになった。
「……殿下は魅了魔法に掛かっていたらしいよ。いや、殿下だけじゃない。彼女と親しかった者が皆……かな」
魅了……そんな物語でしか聞いたことのないものが実在するなんて。魔法はそんなに強力なの?でも先輩は掛かっていなかったと思う。
「もともと殿下を狙っていたのですか?」
「一目惚れらしいよ。ただ魔法は否定してるそうだ。昔から周りに愛されていたけど魅了なんて知らないとさ。魔法というより呪いみたいだ。彼女の母親から教えてもらった幸せの呪文があるみたいだね」
おまじないなの?そんなもので殿下はあんなに変わってしまうなんて。でも、私が知りたいのはそんな事じゃない。
「なぜ私達が呼ばれたのですか?」
心臓が早鐘のようだ。答えを聞くのが怖い。
「殿下はお前との婚約白紙を聞いて倒れられた。しばらく高熱と記憶の混濁があったそうだ。やっと落ち着くと、なぜマルティナ公女を好きだと思っていたか分からないと、何かに操られていたとしか思えないと言い出した。
王家はもっと前から調査していたそうだよ。フリーゼ公国にも協力を要請していたが、なんせ異国の踊り子だった母からの口伝だ。なかなか証拠が掴めずにいたらしい。
いままではなんとなく好かれやすいくらいだったが、公女が殿下に恋をして本気で彼を望んだ結果、想像以上の効力を発揮したのではないかという見立てだ。詳しい方法などは禁忌魔法になるため教えてはもらえなかったよ。マルティナ公女はフリーゼでの幽閉が決まった。
そして、殿下は……お前との再婚約を望んでいらっしゃる」
「!!」
覚悟していた言葉だった。でも、
「……いや…いやです…私は、もうっ」
否定の言葉を紡ごうとも息が吸えなくなっていく。なぜ?こわいこわいこわい!
「ハッ、ハッ、ヤ、ぁっ、苦し、っ」
「リーゼ?!しっかりしろ!」
「大丈夫よ、落ち着いて、ゆっくり息を吐くの。ほら、お母様に合わせて」
お母様に抱きしめられて、背中を撫でられる。苦しくて苦しくて……
どれだけ時間が経っただろう。ようやく呼吸が落ち着いた頃には汗と涙でぐちゃぐちゃになっていた。
「……私、死ぬの?」
こんな発作は初めてだった。
「驚いて過呼吸になったのね。大丈夫、心配しないで。あなたの望まない事はさせないわ。だってあなたは立派に王家との契約は果たしたの。魔法だからなんて関係ない。私達が守るわ」
「そうだよ。陛下にはしっかりとお断りしてきた。先に言えばよかったね。怖がっているのを知っていたのにごめんな」
本当に?もう殿下の婚約者に戻らなくてもいい?本当に嫌なの。怖いの。でもお父様達は断っても大丈夫なの?
「おや、私はずいぶん信用が無いのかな?一度目は仕方が無かったが、2度目は無いよ。
お前は頑張った。次はもっと素敵な人を探そう。お前を愛してくれて勤勉な婿。そう約束しただろう?」
懐かしい約束ごと。遠い昔の夢だ。
「……でも私は傷物だわ」
「まさか!お前ほど可愛い子はいないよ。この魅力が分からないような馬鹿に用はない。それに、見る目のある男が近くにいるだろう?」
「え?」
何を言っているのか分からない。疲れてぼぅっとしてきた。
「今日はもう寝ましょう。さぁベッドに入って。明日はきっといいことがあるわ。リーゼにいい夢が訪れますように」
お母様の優しい声を聞きながら、私はゆっくり目を閉じた。今は優しい夢がみたい。そう願いながら──
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