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40.断罪(2)
しおりを挟む夕方になり、ようやくコーデリアが帰って来た。
「コーデリアッ」
早く謝って、それからこれからのことを、
「あら旦那様。随分と早いお帰りですのね」
コーデリアはいつもと変わらずにっこりと微笑んだ。
本当に泣いていたのか?何も変わらないが。
「その、話があるんだ」
違う。見ただけでは分からないだろう?
だからちゃんと話を、
「まあ、そうですの?ですが私、少し疲れてしまって。出来れば休ませて頂こうと思っていたのですが」
「あ、ああ。その、大丈夫か?医師を呼んだ方が」
「いえ。少し休めば治ると思いますので」
そう言ってふんわりと微笑むと、振り返ることなく、自室に向かってしまった。
……体調が悪いなら仕方がない。明日こそ話をしよう。
だが、それからもずっとコーデリアからは避けられ続けた。
「本日はお茶会が」「これから来客が」「この後は子供達と」
何かと用があると言われ、急ぎではないのなら、と笑顔で躱される。
「コーデリア、頼むっ!5分でもいい、話がしたいんだっ!」
とうとうすがり付くように話し合いを求めた。
「……ふう。仕方がありませんわね。では本当に5分だけですよ?」
「あ、ああ」
二人で向き合って座る。
5分。たった5分で何を伝えたら……
「時間が過ぎていきますが大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない!」
そうだ。綺麗に纏めている場合ではない。言いたい事をありのままに伝えるんだ!
「コーデリア、今まですまなかった!」
ガバリとテーブルに頭を打ち付けそうな勢いで頭を下げた。だが、コーデリアは無言だ。
そろりと頭を上げると目があった。
「……どうぞ続けて?」
「あ、ああ。私は今までずっと自分は悪くないと思っていた。アシュリーを失ったのは、母上のせいであり……君のせいだと逆恨みしていた。そのくせずっと甘え続けて。
今回だって、君がどう思うか、どう言われるかを考えもしないでアシュリーを探しに出て行ってしまった。
そのせいで、子供達にまで辛い思いをさせてしまって…。
本当に申し訳なかったと思っている」
コーデリアの表情は変わらない?いや、そうじゃないだろう。相手の反応がどうとかではない!
「今まで本当にごめん。それからありがとう。
……子供達は本当にいい子に育っているな。すべて君のおかげだよ。あの子達のこれからの為にも、今度こそ心を入れ替えて頑張るから。
今度こそ君を守るから。
……お願いだ。私にチャンスをくれないか」
「なんの事でしょう?」
「今度こそ君の夫として向き合って行きたい」
そう伝えると、コーデリアが驚いたのか、目を見開いて、そして、
「ぷっ!んふっ、うふふふっ!」
酷く可笑しそうに笑い出したのだ。
「……コーデリア?」
「ふふふっ、ごめんなさい。だってあまりにも可笑しくて」
「何がそんなに可笑しいんだ」
「だって私はもう捨ててしまいましたのに、今更仰られても困りますわ」
……捨てた……何を?
「……なぜかしら。あの日、意味も無く涙が溢れてしまいましたの。
子供達を心配させるなんて、母親として失格だと思ったのですが……あの子達が一生懸命に慰めてくれたのです。
それが本当に嬉しくて……。
だからもういいと思いました。私には子供達がいる。最初からそのつもりだったではないかと、再認識致しました。
夫婦になり、貴方と暮らすうちに、いつの間にか欲が出てしまったようです。……愚かでしたわ」
「コーデリア、欲なんかじゃないっ、当たり前のことだ!」
こんな言い方をさせてしまうくらい、私が追い詰めてしまったのだろう。
「いいえ。当たり前ではありません。
仰る通り、私は加害者です。罪人です。
……でも、子供達の母です。
あの子達が必要としてくれている。それでもう十分ですわ。
私はもう、貴方は要らない。
もちろん、今まで通り良き妻、良き伯爵夫人として振る舞いますし、アシュリー様の代役として夜のお相手も致します。
でも今度こそ揺らぎませんので、どうぞお気になさらず。貴方は今まで通り良き父、良き伯爵として努力なさって下さいませ」
そんな、どうして…?
やっと分かり合えると思ったのにっ!
そんな私の動揺をよそにコーデリアはチラリと時計を見た。
「あら大変。5分を過ぎているわ」
「そんな!」
「駄目よ。今日はマクギニス侯爵夫人のお茶会ですもの。遅れるわけにはいきません。
隣国の新しい織物を紹介して頂く予定ですのよ。
では、行ってまいりますね」
コーデリアはそれだけ言うと、急ぎ足で出て行ってしまった。
「……どうしてこんなことに」
あの時悪魔の甘言に乗ってしまったせいなのか。
彼は何故あの手紙を届けに来たんだ。
……もしかしたらこの為に?
私が五年経っても何も変わっていないから、だからこうして……
いや、違う。子供達と約束しただろう。
たくさん謝るし大事にする。そう誓った。
見てるからね。そう言われただろう。
諦めるな。今日が駄目なら明日、明日が駄目ならその次の日。
信じてもらえるまで努力するんだ。
いつか……いつか彼女の心に届く日がくるだろうか。
「コーデリアッ」
早く謝って、それからこれからのことを、
「あら旦那様。随分と早いお帰りですのね」
コーデリアはいつもと変わらずにっこりと微笑んだ。
本当に泣いていたのか?何も変わらないが。
「その、話があるんだ」
違う。見ただけでは分からないだろう?
だからちゃんと話を、
「まあ、そうですの?ですが私、少し疲れてしまって。出来れば休ませて頂こうと思っていたのですが」
「あ、ああ。その、大丈夫か?医師を呼んだ方が」
「いえ。少し休めば治ると思いますので」
そう言ってふんわりと微笑むと、振り返ることなく、自室に向かってしまった。
……体調が悪いなら仕方がない。明日こそ話をしよう。
だが、それからもずっとコーデリアからは避けられ続けた。
「本日はお茶会が」「これから来客が」「この後は子供達と」
何かと用があると言われ、急ぎではないのなら、と笑顔で躱される。
「コーデリア、頼むっ!5分でもいい、話がしたいんだっ!」
とうとうすがり付くように話し合いを求めた。
「……ふう。仕方がありませんわね。では本当に5分だけですよ?」
「あ、ああ」
二人で向き合って座る。
5分。たった5分で何を伝えたら……
「時間が過ぎていきますが大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない!」
そうだ。綺麗に纏めている場合ではない。言いたい事をありのままに伝えるんだ!
「コーデリア、今まですまなかった!」
ガバリとテーブルに頭を打ち付けそうな勢いで頭を下げた。だが、コーデリアは無言だ。
そろりと頭を上げると目があった。
「……どうぞ続けて?」
「あ、ああ。私は今までずっと自分は悪くないと思っていた。アシュリーを失ったのは、母上のせいであり……君のせいだと逆恨みしていた。そのくせずっと甘え続けて。
今回だって、君がどう思うか、どう言われるかを考えもしないでアシュリーを探しに出て行ってしまった。
そのせいで、子供達にまで辛い思いをさせてしまって…。
本当に申し訳なかったと思っている」
コーデリアの表情は変わらない?いや、そうじゃないだろう。相手の反応がどうとかではない!
「今まで本当にごめん。それからありがとう。
……子供達は本当にいい子に育っているな。すべて君のおかげだよ。あの子達のこれからの為にも、今度こそ心を入れ替えて頑張るから。
今度こそ君を守るから。
……お願いだ。私にチャンスをくれないか」
「なんの事でしょう?」
「今度こそ君の夫として向き合って行きたい」
そう伝えると、コーデリアが驚いたのか、目を見開いて、そして、
「ぷっ!んふっ、うふふふっ!」
酷く可笑しそうに笑い出したのだ。
「……コーデリア?」
「ふふふっ、ごめんなさい。だってあまりにも可笑しくて」
「何がそんなに可笑しいんだ」
「だって私はもう捨ててしまいましたのに、今更仰られても困りますわ」
……捨てた……何を?
「……なぜかしら。あの日、意味も無く涙が溢れてしまいましたの。
子供達を心配させるなんて、母親として失格だと思ったのですが……あの子達が一生懸命に慰めてくれたのです。
それが本当に嬉しくて……。
だからもういいと思いました。私には子供達がいる。最初からそのつもりだったではないかと、再認識致しました。
夫婦になり、貴方と暮らすうちに、いつの間にか欲が出てしまったようです。……愚かでしたわ」
「コーデリア、欲なんかじゃないっ、当たり前のことだ!」
こんな言い方をさせてしまうくらい、私が追い詰めてしまったのだろう。
「いいえ。当たり前ではありません。
仰る通り、私は加害者です。罪人です。
……でも、子供達の母です。
あの子達が必要としてくれている。それでもう十分ですわ。
私はもう、貴方は要らない。
もちろん、今まで通り良き妻、良き伯爵夫人として振る舞いますし、アシュリー様の代役として夜のお相手も致します。
でも今度こそ揺らぎませんので、どうぞお気になさらず。貴方は今まで通り良き父、良き伯爵として努力なさって下さいませ」
そんな、どうして…?
やっと分かり合えると思ったのにっ!
そんな私の動揺をよそにコーデリアはチラリと時計を見た。
「あら大変。5分を過ぎているわ」
「そんな!」
「駄目よ。今日はマクギニス侯爵夫人のお茶会ですもの。遅れるわけにはいきません。
隣国の新しい織物を紹介して頂く予定ですのよ。
では、行ってまいりますね」
コーデリアはそれだけ言うと、急ぎ足で出て行ってしまった。
「……どうしてこんなことに」
あの時悪魔の甘言に乗ってしまったせいなのか。
彼は何故あの手紙を届けに来たんだ。
……もしかしたらこの為に?
私が五年経っても何も変わっていないから、だからこうして……
いや、違う。子供達と約束しただろう。
たくさん謝るし大事にする。そう誓った。
見てるからね。そう言われただろう。
諦めるな。今日が駄目なら明日、明日が駄目ならその次の日。
信じてもらえるまで努力するんだ。
いつか……いつか彼女の心に届く日がくるだろうか。
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