アシュリーの願いごと

ましろ

文字の大きさ
上 下
41 / 65

40.断罪(2)

しおりを挟む
夕方になり、ようやくコーデリアが帰って来た。

「コーデリアッ」

早く謝って、それからこれからのことを、

「あら旦那様。随分と早いお帰りですのね」

コーデリアはいつもと変わらずにっこりと微笑んだ。
本当に泣いていたのか?何も変わらないが。

「その、話があるんだ」

違う。見ただけでは分からないだろう?
だからちゃんと話を、

「まあ、そうですの?ですが私、少し疲れてしまって。出来れば休ませて頂こうと思っていたのですが」
「あ、ああ。その、大丈夫か?医師を呼んだ方が」
「いえ。少し休めば治ると思いますので」

そう言ってふんわりと微笑むと、振り返ることなく、自室に向かってしまった。

……体調が悪いなら仕方がない。明日こそ話をしよう。

だが、それからもずっとコーデリアからは避けられ続けた。

「本日はお茶会が」「これから来客が」「この後は子供達と」

何かと用があると言われ、急ぎではないのなら、と笑顔で躱される。

「コーデリア、頼むっ!5分でもいい、話がしたいんだっ!」

とうとうすがり付くように話し合いを求めた。

「……ふう。仕方がありませんわね。では本当に5分だけですよ?」
「あ、ああ」

二人で向き合って座る。
5分。たった5分で何を伝えたら……

「時間が過ぎていきますが大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない!」

そうだ。綺麗に纏めている場合ではない。言いたい事をありのままに伝えるんだ!

「コーデリア、今まですまなかった!」

ガバリとテーブルに頭を打ち付けそうな勢いで頭を下げた。だが、コーデリアは無言だ。
そろりと頭を上げると目があった。

「……どうぞ続けて?」
「あ、ああ。私は今までずっと自分は悪くないと思っていた。アシュリーを失ったのは、母上のせいであり……君のせいだと逆恨みしていた。そのくせずっと甘え続けて。
今回だって、君がどう思うか、どう言われるかを考えもしないでアシュリーを探しに出て行ってしまった。
そのせいで、子供達にまで辛い思いをさせてしまって…。
本当に申し訳なかったと思っている」

コーデリアの表情は変わらない?いや、そうじゃないだろう。相手の反応がどうとかではない!

「今まで本当にごめん。それからありがとう。
……子供達は本当にいい子に育っているな。すべて君のおかげだよ。あの子達のこれからの為にも、今度こそ心を入れ替えて頑張るから。
今度こそ君を守るから。
……お願いだ。私にチャンスをくれないか」
「なんの事でしょう?」
「今度こそ君の夫として向き合って行きたい」

そう伝えると、コーデリアが驚いたのか、目を見開いて、そして、

「ぷっ!んふっ、うふふふっ!」

酷く可笑しそうに笑い出したのだ。

「……コーデリア?」
「ふふふっ、ごめんなさい。だってあまりにも可笑しくて」
「何がそんなに可笑しいんだ」
「だって私はもう捨ててしまいましたのに、今更仰られても困りますわ」

……捨てた……何を?

「……なぜかしら。あの日、意味も無く涙が溢れてしまいましたの。
子供達を心配させるなんて、母親として失格だと思ったのですが……あの子達が一生懸命に慰めてくれたのです。
それが本当に嬉しくて……。
だからもういいと思いました。私には子供達がいる。最初からそのつもりだったではないかと、再認識致しました。
夫婦になり、貴方と暮らすうちに、いつの間にか欲が出てしまったようです。……愚かでしたわ」
「コーデリア、欲なんかじゃないっ、当たり前のことだ!」

こんな言い方をさせてしまうくらい、私が追い詰めてしまったのだろう。

「いいえ。当たり前ではありません。
仰る通り、私は加害者です。罪人です。

……でも、子供達の母です。

あの子達が必要としてくれている。それでもう十分ですわ。
私はもう、貴方は要らない。

もちろん、今まで通り良き妻、良き伯爵夫人として振る舞いますし、アシュリー様の代役として夜のお相手も致します。
でも今度こそ揺らぎませんので、どうぞお気になさらず。貴方は今まで通り良き父、良き伯爵として努力なさって下さいませ」

そんな、どうして…?
やっと分かり合えると思ったのにっ!

そんな私の動揺をよそにコーデリアはチラリと時計を見た。

「あら大変。5分を過ぎているわ」
「そんな!」
「駄目よ。今日はマクギニス侯爵夫人のお茶会ですもの。遅れるわけにはいきません。
隣国の新しい織物を紹介して頂く予定ですのよ。
では、行ってまいりますね」

コーデリアはそれだけ言うと、急ぎ足で出て行ってしまった。

「……どうしてこんなことに」

あの時悪魔の甘言に乗ってしまったせいなのか。
彼は何故あの手紙を届けに来たんだ。

……もしかしたらこの為に?

私が五年経っても何も変わっていないから、だからこうして……

いや、違う。子供達と約束しただろう。
たくさん謝るし大事にする。そう誓った。
見てるからね。そう言われただろう。

諦めるな。今日が駄目なら明日、明日が駄目ならその次の日。
信じてもらえるまで努力するんだ。

いつか……いつか彼女の心に届く日がくるだろうか。





しおりを挟む
感想 149

あなたにおすすめの小説

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

幼馴染と夫の衝撃告白に号泣「僕たちは愛し合っている」王子兄弟の関係に私の入る隙間がない!

小太りおばさん
恋愛
「僕たちは愛し合っているんだ!」 突然、夫に言われた。アメリアは第一子を出産したばかりなのに……。 アメリア公爵令嬢はレオナルド王太子と結婚して、アメリアは王太子妃になった。 アメリアの幼馴染のウィリアム。アメリアの夫はレオナルド。二人は兄弟王子。 二人は、仲が良い兄弟だと思っていたけど予想以上だった。二人の親密さに、私は入る隙間がなさそうだと思っていたら本当になかったなんて……。

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

不遇の王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン💞 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人

キムラましゅろう
恋愛
私の婚約者はとても素敵な人。 だから彼に想いを寄せる女性は沢山いるけど、私はべつに気にしない。 だって婚約者は私なのだから。 いつも通りのご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不知の誤字脱字病に罹患しております。ごめんあそばせ。(泣) 小説家になろうさんにも時差投稿します。

処理中です...