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【番外編】
理想の人
ジャスミンの様子がおかしい。
いや、彼女の言動がおかしいのはよくあることだが。
「ジャスミン、具合が悪いのか?」
「へ? いえ、全然! とっても元気いっぱいですが⁉」
確かに、力いっぱい否定して慌てふためく姿は元気があり余っている。しかし。
「では、今日の料理は口に合わないだろうか」
ジャスミンはいつも食事を残したりしない。マナーを守りつつ、おいしそうに食べる姿は見ていて気持ちのよいものなのに、今日の彼女はちっとも料理が減っていかないのだ。
「違うんです! すごくおいしいです。でも、おいしいのが問題といいますか」
「うん? 料理がおいしくて何が問題なんだ?」
またおかしな思考に陥っているのだろうか。言っている意味がさっぱり分からん。
「……だって」
「だって?」
「……きつかったんです」
「何が?」
「……ウェディングドレスがきつくなっていたんです!」
ああ、そういえばウェディングドレスが出来上がったと連絡が来ていたな。これから最終調整をすると聞いていたが。
「最終チェックで分かったのだから問題ないだろう? それほど大きな誤差でもないだろうし」
確かに、出会った頃に比べると少し雰囲気が変わった気がする。だが、まだ十八歳。この年頃なら体つきが多少変わってもおかしくないだろうに。
「う~~~っ、これでも結婚式にはあこがれがあるんですよ? それに……少しでもきれいな花嫁姿をユリシーズ様に見てほしいのに」
え、なにそれ可愛い。俺が理由なのか。どうしよう、にやついてしまいそうだ。
「ジャスミンは魅力的になったよ」
「ふぇ⁉」
そこで乙女になり切れない声が漏れるところもジャスミンらしくて可愛いし。結局、何をしても可愛い一択だ。
「出会った頃は、普通に可愛らしいお嬢さんとしか思わなかったのに、今では早く結婚して自分のものにしたいくらいいい女だ」
「お、女って」
「女嫌いな俺が唯一惚れた女だろう?」
「きゃ―――っ‼」
いや、その悲鳴はどういう意味なんだ? 顔を覆ってうつむいてしまったが……よし、耳が赤い。引かれたわけではないらしい。
「大天使ユリシーズ様が卑猥です!」
「天使じゃなくてジャスミンにベタ惚れの婚約者ですが?」
「……ベタ惚れなの?」
そろりと顔を覆っていた手を下ろし、涙で潤んだ瞳で俺を見つめるから、守ってやりたい気持ちと、噛みついてしまいたい気持ちがせめぎ合う。
駄目だなぁ。余裕のある大人の男でいたいのに、時折こうして彼女に触れたくてたまらなくなる。
「ああ。結婚式を指折り数えて待つくらいな」
「……私と同じ?」
「おや、ジャスミンさんも婚約者にベタ惚れですか?」
「ウェディングドレスがきつくて、思わずダイエットを頑張っちゃうくらい大好きですよ」
「馬鹿だな、魅力的だと言っただろう?」
たとえぽっちゃりになったとしても気持ちが変わる気はしない。もちろん、健康であってほしいから急激に体重が増加したなら、多少の食事管理や運動はしてもらいたいが。
「というか、太ってないだろう? ダンスの時、軽すぎて衝撃だったぞ?」
「……でも、本当にきつかったのよ? 息苦しいほどではないけど、お母さまもニヤニヤ笑っていたし」
息苦しい? ということは、首……はいきなり太らないだろうし、だったら……胸?
それってもしかして、太ったのではなくて。
「女性らしい体つきになっただけでは?」
「? それってどういうこと?」
あ。言ってしまった。でも、たぶんそういうことだよな? だから夫人も心配はせず、笑っていたのではないだろうか。でも、男の俺からは言い難いぞ。さて、なんと誤魔化すか。
「そうだ、成長期!」
「……もう、十八なのに?」
「ああ、俺も十八のころはまだ身長が伸びていたし」
「え、すごい! そんなことがあるのですね。では、そんなに心配しなくても大丈夫なのかしら」
「ああ。俺はこうして一緒に食事ができて楽しいし、できればジャスミンにも楽しんでもらえると嬉しい」
「……そうですよね。せっかくのお食事ですもの。美味しく頂かないと罰が当たりますね」
「そのかわり、食後に少し長めの散歩でもいかがですか?」
「よろこんで!」
よかった。笑顔が戻った。ジャスミンにはやっぱり笑顔が似合う。
「でも、もしかしてユリシーズ様はふくよかな女性の方がお好みですか?」
おっと、今度はそう来たか。とくに好みの体形などはないのだけど。
「俺の好みは、幸せそうに笑っている人かな」
太っているか痩せているかではなく、共にいて幸せだと思いあえる方が余程大切だろう?
「それなら絶対に大丈夫です。ユリシーズ様が笑っていてくれたら私も幸せだもの」
なるほど。卵が先か、鶏が先か。
どちらが先かは分からないが、俺たちはきっといつも幸せに笑っていられるのだろうな。
いや、彼女の言動がおかしいのはよくあることだが。
「ジャスミン、具合が悪いのか?」
「へ? いえ、全然! とっても元気いっぱいですが⁉」
確かに、力いっぱい否定して慌てふためく姿は元気があり余っている。しかし。
「では、今日の料理は口に合わないだろうか」
ジャスミンはいつも食事を残したりしない。マナーを守りつつ、おいしそうに食べる姿は見ていて気持ちのよいものなのに、今日の彼女はちっとも料理が減っていかないのだ。
「違うんです! すごくおいしいです。でも、おいしいのが問題といいますか」
「うん? 料理がおいしくて何が問題なんだ?」
またおかしな思考に陥っているのだろうか。言っている意味がさっぱり分からん。
「……だって」
「だって?」
「……きつかったんです」
「何が?」
「……ウェディングドレスがきつくなっていたんです!」
ああ、そういえばウェディングドレスが出来上がったと連絡が来ていたな。これから最終調整をすると聞いていたが。
「最終チェックで分かったのだから問題ないだろう? それほど大きな誤差でもないだろうし」
確かに、出会った頃に比べると少し雰囲気が変わった気がする。だが、まだ十八歳。この年頃なら体つきが多少変わってもおかしくないだろうに。
「う~~~っ、これでも結婚式にはあこがれがあるんですよ? それに……少しでもきれいな花嫁姿をユリシーズ様に見てほしいのに」
え、なにそれ可愛い。俺が理由なのか。どうしよう、にやついてしまいそうだ。
「ジャスミンは魅力的になったよ」
「ふぇ⁉」
そこで乙女になり切れない声が漏れるところもジャスミンらしくて可愛いし。結局、何をしても可愛い一択だ。
「出会った頃は、普通に可愛らしいお嬢さんとしか思わなかったのに、今では早く結婚して自分のものにしたいくらいいい女だ」
「お、女って」
「女嫌いな俺が唯一惚れた女だろう?」
「きゃ―――っ‼」
いや、その悲鳴はどういう意味なんだ? 顔を覆ってうつむいてしまったが……よし、耳が赤い。引かれたわけではないらしい。
「大天使ユリシーズ様が卑猥です!」
「天使じゃなくてジャスミンにベタ惚れの婚約者ですが?」
「……ベタ惚れなの?」
そろりと顔を覆っていた手を下ろし、涙で潤んだ瞳で俺を見つめるから、守ってやりたい気持ちと、噛みついてしまいたい気持ちがせめぎ合う。
駄目だなぁ。余裕のある大人の男でいたいのに、時折こうして彼女に触れたくてたまらなくなる。
「ああ。結婚式を指折り数えて待つくらいな」
「……私と同じ?」
「おや、ジャスミンさんも婚約者にベタ惚れですか?」
「ウェディングドレスがきつくて、思わずダイエットを頑張っちゃうくらい大好きですよ」
「馬鹿だな、魅力的だと言っただろう?」
たとえぽっちゃりになったとしても気持ちが変わる気はしない。もちろん、健康であってほしいから急激に体重が増加したなら、多少の食事管理や運動はしてもらいたいが。
「というか、太ってないだろう? ダンスの時、軽すぎて衝撃だったぞ?」
「……でも、本当にきつかったのよ? 息苦しいほどではないけど、お母さまもニヤニヤ笑っていたし」
息苦しい? ということは、首……はいきなり太らないだろうし、だったら……胸?
それってもしかして、太ったのではなくて。
「女性らしい体つきになっただけでは?」
「? それってどういうこと?」
あ。言ってしまった。でも、たぶんそういうことだよな? だから夫人も心配はせず、笑っていたのではないだろうか。でも、男の俺からは言い難いぞ。さて、なんと誤魔化すか。
「そうだ、成長期!」
「……もう、十八なのに?」
「ああ、俺も十八のころはまだ身長が伸びていたし」
「え、すごい! そんなことがあるのですね。では、そんなに心配しなくても大丈夫なのかしら」
「ああ。俺はこうして一緒に食事ができて楽しいし、できればジャスミンにも楽しんでもらえると嬉しい」
「……そうですよね。せっかくのお食事ですもの。美味しく頂かないと罰が当たりますね」
「そのかわり、食後に少し長めの散歩でもいかがですか?」
「よろこんで!」
よかった。笑顔が戻った。ジャスミンにはやっぱり笑顔が似合う。
「でも、もしかしてユリシーズ様はふくよかな女性の方がお好みですか?」
おっと、今度はそう来たか。とくに好みの体形などはないのだけど。
「俺の好みは、幸せそうに笑っている人かな」
太っているか痩せているかではなく、共にいて幸せだと思いあえる方が余程大切だろう?
「それなら絶対に大丈夫です。ユリシーズ様が笑っていてくれたら私も幸せだもの」
なるほど。卵が先か、鶏が先か。
どちらが先かは分からないが、俺たちはきっといつも幸せに笑っていられるのだろうな。
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