幸せな政略結婚のススメ【本編完結】

ましろ

文字の大きさ
30 / 36
【番外編】

理想の人

 ジャスミンの様子がおかしい。
 いや、彼女の言動がおかしいのはよくあることだが。

「ジャスミン、具合が悪いのか?」
「へ? いえ、全然! とっても元気いっぱいですが⁉」

 確かに、力いっぱい否定して慌てふためく姿は元気があり余っている。しかし。

「では、今日の料理は口に合わないだろうか」

 ジャスミンはいつも食事を残したりしない。マナーを守りつつ、おいしそうに食べる姿は見ていて気持ちのよいものなのに、今日の彼女はちっとも料理が減っていかないのだ。

「違うんです! すごくおいしいです。でも、おいしいのが問題といいますか」
「うん? 料理がおいしくて何が問題なんだ?」

 またおかしな思考に陥っているのだろうか。言っている意味がさっぱり分からん。

「……だって」
「だって?」
「……きつかったんです」
「何が?」
「……ウェディングドレスがきつくなっていたんです!」

 ああ、そういえばウェディングドレスが出来上がったと連絡が来ていたな。これから最終調整をすると聞いていたが。

「最終チェックで分かったのだから問題ないだろう? それほど大きな誤差でもないだろうし」

 確かに、出会った頃に比べると少し雰囲気が変わった気がする。だが、まだ十八歳。この年頃なら体つきが多少変わってもおかしくないだろうに。

「う~~~っ、これでも結婚式にはあこがれがあるんですよ? それに……少しでもきれいな花嫁姿をユリシーズ様に見てほしいのに」

 え、なにそれ可愛い。俺が理由なのか。どうしよう、にやついてしまいそうだ。

「ジャスミンは魅力的になったよ」
「ふぇ⁉」

 そこで乙女になり切れない声が漏れるところもジャスミンらしくて可愛いし。結局、何をしても可愛い一択だ。

「出会った頃は、普通に可愛らしいお嬢さんとしか思わなかったのに、今では早く結婚して自分のものにしたいくらいいい女だ」
「お、女って」
「女嫌いな俺が唯一惚れた女だろう?」
「きゃ―――っ‼」

 いや、その悲鳴はどういう意味なんだ? 顔を覆ってうつむいてしまったが……よし、耳が赤い。引かれたわけではないらしい。

「大天使ユリシーズ様が卑猥です!」
「天使じゃなくてジャスミンにベタ惚れの婚約者ですが?」
「……ベタ惚れなの?」

 そろりと顔を覆っていた手を下ろし、涙で潤んだ瞳で俺を見つめるから、守ってやりたい気持ちと、噛みついてしまいたい気持ちがせめぎ合う。
 駄目だなぁ。余裕のある大人の男でいたいのに、時折こうして彼女に触れたくてたまらなくなる。

「ああ。結婚式を指折り数えて待つくらいな」
「……私と同じ?」
「おや、ジャスミンさんも婚約者にベタ惚れですか?」
「ウェディングドレスがきつくて、思わずダイエットを頑張っちゃうくらい大好きですよ」
「馬鹿だな、魅力的だと言っただろう?」

 たとえぽっちゃりになったとしても気持ちが変わる気はしない。もちろん、健康であってほしいから急激に体重が増加したなら、多少の食事管理や運動はしてもらいたいが。

「というか、太ってないだろう? ダンスの時、軽すぎて衝撃だったぞ?」
「……でも、本当にきつかったのよ? 息苦しいほどではないけど、お母さまもニヤニヤ笑っていたし」

 息苦しい? ということは、首……はいきなり太らないだろうし、だったら……胸?
 それってもしかして、太ったのではなくて。

「女性らしい体つきになっただけでは?」
「? それってどういうこと?」

 あ。言ってしまった。でも、たぶんそういうことだよな? だから夫人も心配はせず、笑っていたのではないだろうか。でも、男の俺からは言い難いぞ。さて、なんと誤魔化すか。

「そうだ、成長期!」
「……もう、十八なのに?」
「ああ、俺も十八のころはまだ身長が伸びていたし」
「え、すごい! そんなことがあるのですね。では、そんなに心配しなくても大丈夫なのかしら」
「ああ。俺はこうして一緒に食事ができて楽しいし、できればジャスミンにも楽しんでもらえると嬉しい」
「……そうですよね。せっかくのお食事ですもの。美味しく頂かないと罰が当たりますね」
「そのかわり、食後に少し長めの散歩でもいかがですか?」
「よろこんで!」

 よかった。笑顔が戻った。ジャスミンにはやっぱり笑顔が似合う。

「でも、もしかしてユリシーズ様はふくよかな女性の方がお好みですか?」

 おっと、今度はそう来たか。とくに好みの体形などはないのだけど。

「俺の好みは、幸せそうに笑っている人かな」

 太っているか痩せているかではなく、共にいて幸せだと思いあえる方が余程大切だろう?

「それなら絶対に大丈夫です。ユリシーズ様が笑っていてくれたら私も幸せだもの」

 なるほど。卵が先か、鶏が先か。
 どちらが先かは分からないが、俺たちはきっといつも幸せに笑っていられるのだろうな。






感想 152

あなたにおすすめの小説

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙冬可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

この婚姻は誰のため?

ひろか
恋愛
「オレがなんのためにアンシェルと結婚したと思ってるんだ!」 その言葉で、この婚姻の意味を知った。 告げた愛も、全て、別の人のためだったことを。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。