ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

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10.己を知り敵を知る

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「よし、今日はここまで!」
「あざした!」
「お疲れ様。すごいな、最後まで立っていられるようになったじゃないか」

これは褒められているのかどうだ?
でも、確かにまだ余力はある。

「ありがとうございます」
「団長の動きもずいぶんと見えるようになってるし、太刀筋も良くなった。大丈夫、成長してるよ」

うわーん、副団長優しい!大好き!

「まぁ、お前の特訓に付き合ってるおかげで、俺達も鍛え直しできているけどな」
「げっ」
「そうだね。最近暇で体が鈍っていたみたいだ」
「なっ!アレで?!」
「やっぱり年はとりたくないなぁ」

団長達はバケモノだ。本当に勝てる日は来るのか?

「で?最近は?」
「溺愛週間というか、仲良くチェスやカードゲームやって遊んでます。……体の関係は控えてますね」
「ふん、丸一日かけて貪ったら満足したのか?で、彼女は?」
「特に変わらずです」

プレゼントを貰っても無表情。ただ、ゲームで勝てた時だけ少し嬉しそう。彼女が負けず嫌いだと知れて嬉しいし可愛い。ただ陛下も同じ事を思っていそうでキモい。同じは嫌だ、本当に勘弁してほしい。

「城内の評判はもう持ち直してるね。最初こそ王妃陛下や王子殿下達を慮って批判的な噂が出たけど。
政務は前以上に真面目にこなしているし、殿下達にもちゃんと説明して頭を下げたらしい。
賢王の初めての恋だってメイド達が楽しそうに話してた。情報操作が上手いよね」
「もともと陛下は愛妾を持つことが許されているからな。すでに4人も子供がいる。政務も前以上に頑張っている。愛妾はまったく贅沢を望まない政務にも口出ししないわきまえた女性で、陛下もとても大切にしてる。付け入る隙が無い」

その為に最近は大人しくしているのかよ。
ただな……

「あの、少し違うかもしれません」
「何が?」
「情報操作はあくまでオマケな気がします」
「ん?じゃあメインは何だよ」
「セレスティーヌの反応です」
「…………意味が分からん」

だって俺の仮説だし。でも確信がある。

「陛下は全部どうでもいいんです。何なら今すぐ死んでも構わない」
「……それで?」
「ただ、セレスティーヌのことは本当に気に入っていて楽しそうです。だから、いろんな彼女が見たい」
「何だその変態思考は」

ね、理解不能だよね。

「だから今は溺愛週間で、ついでに情報操作していると?」
「はい」
「お前の頭を心配したくなる仮説だな」

違うんだ。俺が頭がおかしいとか、実は同類とかそういうことじゃなくて!

「ただ、王妃様も同じ事を言っていた」
「えっ!」
「近くにいる人間二人が陛下の異常な考えを指摘している。見逃すわけにはいかん」
「やっぱりハイメス公爵に動いてもらう?」
「……次の話し合いの場にお前も来い。包み隠さず話せ。王妃陛下にも同席していただく」

何それ。めっちゃ胃痛がしそうなメンバーじゃん!

「……かしこまりました」

所詮下っ端。逆らえませんよ。頑張れ俺、強く生きるんだ!

「もう少しで建国記念日の式典準備に入るからな。それまでに方針を固めたいようだ」

建国記念日か。これは近衛騎士団もとっても忙しくなる嫌な時期だ。今年は節目年だから、例年よりも大規模になる。

「まぁ、いきなりおかしな行動はされないと思うが。天才と気狂いは紙一重。俺達では考えられないことをされても困る」

団長、不敬罪で捕まりますよ。

「諜報部は大人しくしてるんですか」
「最近は彷徨いてないから空気が清々しいよね」
「なるほど」

それでも怖いから、そういうことは心の中だけにしてほしいなぁ。俺は小心者なんだよ。






「最近ずいぶんと鍛えているようだな」
「……はい。国王陛下の護衛ですから当然のことです」
「そうか?寝首をかく為かと思っていたよ」

これは何だ。団長達との会話を聞かれた?
顔に出すな、絶対だ!

「頼もしいな。君達がいれば国は安泰だな。ああ、私に何かあってもレアンドロが助けてくれることだろう」

レアンドロ。王弟であるハイメス公爵のことだ。

「彼の母君は薬学にも精通している。ご立派な方々だよ」

……ようするに、陛下の毒殺未遂はハイメス公爵の母君、前側妃であられるベレニス様だということか。

「左様ですか」
「うん。もし、彼等に会うことがあればよろしく伝えてくれ」
「……私如きにその様な機会は無いかと」
「そうかい?人生何があるかは分からない」

クソ、すべてが筒抜けかよ。諜報部か、それともスパイがいるのか。
最近の緩さから油断していた。この人は愚かではない。本当に優秀な王者だ。

「かしこまりました。その様な機会に恵まれましたら必ずお伝え致します」
「頼んだ」

こんな奴にどうやって立ち向かえばいいんだ。
勝てる気がしない、未来が見えない……

どうやったらたどり着ける?



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