ご愛妾様は今日も無口。

ましろ

文字の大きさ
12 / 58

12.笑顔の行方

しおりを挟む
「陛下は一度しか、あの笑顔を見ることが出来ていませんよね」

護衛の職務中。陛下に求められてもいないのに言葉を発してしまった。これはとんでもないペナルティだ。
それでも──

「ふぅん。セレスティーヌを守りたいのか」
「はい」

絶対にここで負けてはいけない。もう二度とセレスティーヌに触れられたくないっ!!

「陛下はたくさんのセレスティーヌを見たいのですよね?」
「そうだよ、よく分かったね」

アンタに共感するのは本当に嫌だよ。自分が汚れた気がする。

「……俺もセレスティーヌを愛していますから」

もう、引き下がれない。絶対に守り抜くんだ!

「私の物を?」
「俺の妻ですから」

まだだ。まだ俺は陛下に届いていない。

「凄く眩しかったですよね」
「…………」
「覚えていますか?あのデビュタントの日、ダンスを踊っていたセレスティーヌのことを。白いドレスのリボンがひらひらと蝶のように揺れて、オレンジブラウンの髪に挿した白い花は何だったのかな。ぽとりと落ちてしまわないか心配でした」

来い、食い付けっ!

「あの時の笑顔が一等……」
「それをお前が引き出したと?」

よしっ!

「……はい。偶然かもしれませんが、とても美しくて。まさか、もう一度見れるなんてと心が踊りました」

トントンッと、指でテーブルを叩きながら少し考え込む。

「お前が出来ること……騎士として守ることを誓ったか、夫として妻であるセレスティーヌを愛すると宣言するか」

……見ていたかのように言わないで欲しい。どっちも確かにやっちゃってる。あれ、愛してるって言ったっけ?

「それとも、結婚指輪?」

だから怖いって!もう何?魔王様は人の記憶が読めるの?

「確かにどれも私には出来ないことだな。それで?偶然にも方法を知ったから、私に様を見ろとでも言いたいのかな。それとも、私にもやれるものならやってみろという挑発かい?」
「どう受け取って下さっても構いません。セレスティーヌの笑顔は美しかった。それだけです」

これ以上は無理。でも、どうか止まってくれ!

「セレスティーヌ、どうしようか」

そう言いながらセレスティーヌの頬に触れる。
何時もとは違い、陛下から視線を逸らさず見つめ合う。

「久しぶりにちゃんと私を見たね。うん。その顔は好きだな」

ふんわりと嬉しそうに笑った。
いや、アンタが微笑んじゃうのかよ。

「いいよ。そろそろカードゲームにも飽きて来たから、トリスタンも混ぜて遊ぼうか。
ルールは彼と同じに、君に触れることなく笑顔を引き出すこと。期限は……そうだな。建国記念式典の夜まで。どう?」
「それも罰ゲームがあるのですか?」
「そうだね、どんな罰ゲームがいいかな」
「私を笑顔に出来なかったら、1ヶ月、私に触れないで下さい」
「なるほど?じゃあ、笑顔に出来たら1日ずっと触れさせてくれる?」
「……はい」
「じゃあ決まりだ。今から?」
「はい、今から」
「残念。キスしてから始めればよかった」

そう言いながらも少し楽しそうにしている。
これでしばらくは時間稼ぎが出来る。
それだけでも嬉しい。

「だけどね、トリスタン。職務中の私語は厳禁だよ」

くそっ、そこは見逃さないのか!

「今日は面白かったから許してあげよう。次は気を付けるように」
「………ありがとうございます」

そうなんだよな。こういう少し茶目っ気があって、部下にも寛大な対応をして下さる陛下をお守りしたいとずっと思っていたのに。
どうしてそのままでいてくれなかったんだよ。

俺はアンタの笑顔だって好きだったんだ。



しおりを挟む
感想 248

あなたにおすすめの小説

三年の想いは小瓶の中に

月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。 ※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...