そのシスターは 丘の上の教会にいる

丸山 令

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狭まる捜査網 ⑶

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 ホワイトボードに貼られた写真のうち、強盗事件で逮捕された人物のものは、その日のうちに剥がされた。
 
 そして、その日の夕方から、残る二枚の下に、続々と情報が書き足され始めた。

 小柄な男性は、ジョセフ=マルタン。
 町はずれに住む二十一歳の学生で、大学内に親しい友人はおらず、ここ一年ほど大学に姿を見せていない。

 眼鏡の女性は、ロラ=マテュー。
 中心街からバスで数十分の町中に住んでおり、東地区商店街にある雑貨店で正社員として働く二十八歳。
 真面目で勤務態度は良く、物静かな性格。

 データを眺めながら、ヴィクトーは感心したように何度も頷いた。


「こんなに早く、住所や名前まで。本当に有難いことです」

「本当ですね。依頼してから一日経ってないのに」


 ニコラも目を丸くしている。


「それだけ皆、この事件にフラストレーションがたまっているんだろうよ」


 ホワイトボードに情報を書き足しながら、ヤニス巡査部長はニヒルに笑う。


「ロラの職場まで行って来たが、そこそこな規模の雑貨店だった。ただ、正社員はそれほど多く無い。常時店舗にいる正社員は二、三名で、今日彼女は休んでいた」


 ヴィクトーは頷く。


「因みに、どのような形で聞き込みを?」

「ああ。職場内で妙な噂が流れたら、警戒して逃げちまうかもしれないからな。今日のところは、女性店員を中心に注意喚起だけ。あと、それぞれの情報を少しずつ貰って、ついでに今日休んでいるロラに関しても多少聞いてみた、といったところだ」

「流石ですね」

「なに。これくらいはな」

「因みに、親しい友人などはいるようでしたか?」

「それなりに話す同僚はいるようだが、プライベートについて知っている人間は、今日のところはいなかった」

「なるほど。では、男性関係などは分からないですね」

「ま、年齢的に結婚してる可能性もあるからな。とりあえず、今、役所に確認に行って貰っている」

「有難いです」


 ヴィクトーは頭を下げる。


「ヴィクトー係長。ジョセフの件も良いですか?」


 若い刑事に言われて、ヴィクトーはそちらを見る。


「お願いします」

「はい。近隣住民の話によりますと、ジョセフは現在家に引きこもりのような状態で、外出するのは週に一、二回程度。たまに奇声を上げたりするようで、気味悪がられていました」

「なるほど。であれば、彼本人が通り魔殺人を犯してもおかしくない印象ですが……」

「ええ。そうなんです。彼は身長が低いので、犯人像からは外れます。更に、友人知人などほぼ皆無なので、誰かのためにナイフを調達したというのは、考えにくいですね」

「仰る通りです。ただ、そうなると、何故彼がナイフを購入したのかが、気になってきますね。別の事件を起こさなければ良いですが」

「そうですね。自殺なども、十分有り得ますし。でも、何も起きてない以上、人員を割くのは……」

「そうですね。家族間で解決してくれることを、祈りましょうか。どうもありがとうございました」

「いえ。お役に立てれば幸いです」


 若い刑事は笑顔で一礼する。


「では、我々は、明日以降、ロラ=マテューの周辺を少し探ってみることにします」

「それが良いな」


 ヤニスが顎を擦りながら同意し、ニコラは小さくため息を落とした。


「まだまだ先が長そうだ」

「いえ。あまりのんびりもしていられませんよ。もう、次の被害者を出すわけにはいきませんからね」


 ヴィクトーにピシャリと言われて、ニコラは背筋を伸ばす。

 と、そこに捜査員が部屋に飛び込んだ来て、ヤニスとヴィクトーに告げた。


「ロラ=マテュー。婚姻歴ありません」

「そうですか。ありがとうございました」


 ヴィクトーとヤニスは視線を合わせる。
 そして、その捜査員がホワイトボードに情報を書き足すのを見ながら、二人同時に小さくため息を落とした。
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