23 / 32
ニアミス ⑴
しおりを挟む(はぁ。素敵な作品だったわ……まさか、あんな最後を迎えるなんて、思いもしなかったけれど……)
ロラはため息を落としつつも、手早く商品を前出ししていく。
(恋愛小説でバッドエンドはありえないと思っていたけど……いえ。あれは、バッドエンドとは呼べないわね……っと、あら。このメーカーのカップ、先週から一つも売れていないわ。形は悪くないから、配置が悪いのかも。家で使う時の様子がイメージできるように、後でスペースを作って、ディスプレイしなおしましょう)
カップをかごの中に移動して、空いたスペースに別の商品を並べ直し、ロラは一つうなずいた。
(よし、と。そしたら、このカップはどこに置いたら目立つかしら。大人っぽい印象だから、そうだわ。寝具売り場のサイドテーブルの上にペアで並べたら良いかも。それなら、ファブリックは……)
キッチン雑貨の棚からシックなランチョンマットを選びとると、ディスプレイ用の膝掛けを取りに一度バックヤードに戻る。
(愛し合って結ばれるのが至高の愛だと思っていたけど、私、浅はかだったわ。『この作品を布教したい』と言っていたシスターの気持ちが分かる。愛しているが故に……)
「はぁっ」
ロラが、今日何度目かになるため息を吐き出したとき、後方から同僚のルイズに肩を叩かれた。
「やっぱりロラも見た? 素敵な二人組よね~。若い彼は、背が高くて人懐こい感じだし、渋いあの方は、顔立ちが整っていて最高にクールだし……」
「え?何の話?」
ルイズは、ジト目でロラを見ながら、にやりと口角を上げた、
「またまた~。さっきお店に入って来た、イケメン二人のことよ。アルバイトの子の話だと、応接で店長が対応しているらしいけど、業者さんかしらね?」
「まぁ。そうなの?」
ロラが適当に相槌を打つと、ルイズは頬を膨らませてむくれた。
「まっ。そっけないふりしちゃって! 今、熱っぽくため息ついてたの、私聞いてたんだからね?」
ロラは口ごもる。
(別に、小説を思い出していただけだし、私、もう相手がいるんだけど……)
ロラは職場に、自身が事実婚していることを、まだ話していなかった。本当は、プロポーズを受けてすぐに話すつもりだったのだが、テオから止められていた。
(資格に受かったら、公にする約束だもの。後数ヶ月の我慢だわ)
ロラは笑顔を作った。
「いやだ。聞かれちゃった?」
「聴いてたわよ。恋煩いの深いため息だった。
ね!店長にお願いして、あの二人のこと紹介してもらわない? 私、あの長身の彼が良いわ。ロラは、銀髪の紳士を狙ってみない?」
「私は無理よ。地味で、何の取り柄もないし」
「そんなの、話してみないと分からないじゃない!」
鼻息荒く言うルイズに、ロラは頬を掻いた。
(テオと出会って、結婚できただけで奇跡なのに、これ以上何を望むって言うのよ……)
「私なんかより、レナの方が男受けするでしょ?」
独身の同僚の名前を出して、矛先を違う方向に向けようとしたが、ルイズは首を横に振る。
「レナはダメよ!私、あの娘と趣味がかぶってるの。絶対とられちゃうわ!」
(それって、私なら 好きな相手が重なっても、絶対取られないと安心できるって言う意味よね?バカにしているわ。早く『私、結婚してるの』って話して、鼻をあかしてやりたい)
ロラは引き攣り笑いを浮かべたが、ルイズはそれに気付いた様子もなく、今日やって来た二人組の話を続けている。
「ねぇ。お願い。一緒に来て?」
(これは、行かないとおさまらない感じかしら?)
ロラはため息をついて、頷いた。
「分かった。でも、私は後ろで立っているだけよ?」
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる