投稿小説のヒロインに転生したけど、両手をあげて喜べません

丸山 令

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第六章

心の動きが示唆すること ⑵

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(side ローズ)


「クルスさんは、来客らしいです。昼はご一緒できませんけど?」


 わたしのそわそわした視線の動きを察知したのか、ジャンカルロさんにジト目でそう言われて、わたしは狼狽える。


「っええと! 違うんです。そのっ……最近よく三人で動いているので、この後いらっしゃるのかな?……と思っただけでして?」

「だから、そう思って探したんでしょ? 何が違うんです」

「っう。それは……その」


 ムッとした顔で返されて、言葉に詰まる。
 ……確かに仰る通りだし。

 と、そこに、にやにや笑いながらラルフさんが口を挟んだ。


「はいはい。一気に情報が増えて混乱する気持ちはわかるっすけど、ローズさんにあたらない」

「べっ!別に、混乱してないし、あたってない」

「いやいや。大混乱だし、完全に八つあたりでしょ。今の自分の言動、よく思い返してみてくださいよ。紳士のジャンカルロ様?」
 
「っぐぅ」


 ぅわぁ。
 ぐうの音が出ましたね?

 ラルフさんて、ただの食いしん坊の脳筋と思われがちだけど、観察力が優れてるから、たまに繰り出される正論パンチの破壊力が半端ないですよね。

 でも、わたしがジャンカルロさんを不機嫌にさせたわけじゃないのが分かっただけで、安心した。

 ジャンカルロさんは俯いたまま、わたしの顔と床、交互に視線を動かしている。
 それを横目に、ラルフさんはふうっと鼻で息を吐いた。


「やれやれ。困ったジャン君で、すみませんね? ローズさん。彼、自分が一番遅れていた事実に、少々打ちのめされてまして」

「うぅっるっさい!だって、まさか……」

「遅れていた?」


 何に?と思って、つい口に出したら、ジャンカルロさんは真っ赤になってラルフさんに詰め寄った。


「ちがっ違うから!ラルフ!ここで、そういう話、やめろっ!」

「へーへー」


 ラルフさんは悪びれもせず、視線を外して小指で耳の穴を掻いている。
 ジャンカルロさんは、怒りに拳を振るわせていたけど、ゆっくり深呼吸して こちらを向き直った。


「態度が悪かったことは、謝ります。お詫びに、デザートくらいは奢りますから、行きたいお店があったら言ってください」

「えっ? いえいえ。わたしに何か至らぬところがあって機嫌を損ねたのかも?と、心配していたので、そういうので無ければ良かったです」


 気にしてないですよ?と笑顔で伝えたつもりが、ジャンカルロさんは青ざめながら胸を押さえた。


「うぐぅっ」

「はい。こりゃもう、ジャンの全おごりっすね。ご馳走様です」

「いや、お前には奢らないぞ? ……それではローズマリーさん、行きましょうか」


 疲れたように額に手を当てるジャンカルロさん。

 あら。
 そんな気は無かったのだけど、嫌味に聞こえてしまったかしら?
 まぁ、でも最終的に自分で支払えば良いから……。

 わたしは笑顔を作って、その場で小さく会釈した。
 

「はい。ご一緒していただけるだけで、わたしは有難いです」





 結局、二人は宣言通り、行く先をわたしに決めさせてくれた。
 そこで、当初の予定通り、最近見つけたばかりの喫茶店へと向かう。
 
 落ち着いた雰囲気のそこは、訪れたグループごと簡易的に区切られた作りで、プライベートに配慮されている。
 まぁ、区切られたと言っても、完全個室というほど仰々しいものではなくて、カーテンなどを上手く使って、他のスペースからは顔が見えないと言った程度のものだけど。

 
「へぇ。こんなとこ出来たんだ。おしゃれ」

「ですよね。つい最近オープンしたばかりで、気になっていたんです」


 目をキラキラさせながら店内を眺めるラルフさんに、わたしは笑顔を返す。

 聖堂西側にある飲食店街の端っこに位置しているそこは、喫茶だけでなく、軽食などメニューも豊富。

 わたしとジャンカルロさんは、一皿に様々な惣菜が盛られたプレートランチにしたけど、ラルフさんはメイン料理にサラダやスープのついたしっかりめのセットランチを注文した。
 腹ペコさんにも対応可能なのは、聖騎士もターゲットになっているからかな?


「それにしても、ローズさんが一人で外食なんて、珍しいですね?」


 料理が運ばれてくるまでの間に、ラルフさんから悪意なく飛び出した発言に、わたしはぎくりとした。

 なるほど。
 どうやら、聖女様の通達は、女性職員限定のものみたい。
 聖堂内で完全に孤立したわけではないことが分かって安堵したものの、彼らに現状を伝えて良いかは難しいところだわ。


「その。最近、少しだけ他の候補さんたちと折り合いが悪くて?」

「えー? あ!今年一番とったから、やっかまれてるんですか? 女子こわっ」

「あー。聖女候補は、毎年この時期少なからず荒れるって聞きましたよ。順位が出ますからね」

「そうなんですか?」

「ええ。喧嘩とか増えるから、注意しておくようにって、そう言えばライアンさんが」

「なるほど」

「あんまり長引くようなら、相談した方が」

「はい。そうします」


 そっか。
 毎年あることなら、あまり気にしない方が良いのかな?
 リリアさんによれば、聖女様からの通達ってことだけど、プリシラさんが言い張っているだけで、実際のところは分からないし。


「そういうことなら、いつでも相談してください。オレも先輩もウェルカムっす」

「クルスさんはともかく、お前に相談しても解決しないだろ?」

「えー?一緒にご飯くらいはいけますよ?」


 喧嘩口調の二人の会話に、強張っていた心が少しほぐれた気がする。
 

「ん? じゃあ、ここのところ朝の散歩に来てないの、それが原因?メンタルきついとか」

「あ、ええと」


 それは、違うんですけど。


「話すだけでも幾らかストレス発散になるでしょ?いつでも声かけてください。朝来ないの、先輩、自分のせいだって凹んでるんで」

「っえ?」


 凹んでいた?レンさんが?
 わたしの反応に、ジャンカルロさんは目を細める。


「それとも、本当にクルスさんのせいなんですか?」
 
「あ、いえ。どちらかというと、わたしが悪くて、その、どう謝るべきか悩んでいたら、日が経って余計言いにくくなって」


 あたふたと返すと、二人は顔を見合わせて、ほぼ同時に首を傾げた。

 あうう。
 自分でもよく理解できないこの気持ちを説明するのは、ハードルが高すぎる。

 その時、カランっと来客を知らせる涼しげなベルの音。

 わたしたちは、何となく入り口に視線を向けて、次の瞬間全員が物陰に隠れた。
 だって、そこに現れたのは、女性を伴ったレンさんだったから!
 女性っていうか、あの溢れ落ちんばかりに露出された豊満なお胸。今日は白衣を着てないけど、マヤ先生に間違いない。

 来客って、マヤ先生だったのね。
 それにしたって、何故このお店?偶然?
 確かに女性とデートするにはうってつけだけど……え?そういうこと?

 ぐるぐる考えていると、二人は私たちの隣のスペースに案内されてきた。
 ノー!!!
 こんなの!わざとじゃなくても、聞き耳立てずにいられないでしょう? 女神さまの悪戯?
 そう思っていたのは、前に並んで座っている二人も同じようで、静かに後方の様子を伺っているみたい。


「へぇえ。驚いた。普段こんなところ来るのか?レン」

「それなりのところに案内しろと言ったのは、貴女では?」
 
「アンタがこういうところ、知ってたことに驚いてるんだ。普段、誰と来るのかも気になるし」

「…………ここは、知り合いの方が経営を。その方の弟さんに、指導を行っている関係で」

「ふぅん? ま、良いけど。奢るから、何でも頼んで?」

「自分で払いますので」

「何だ?可愛げの無さが悪化してるじゃないか」


 囁くように続けられる二人の会話。
 わたしたち三人は目配せをして頷くと、静かに様子を伺うことにした。
 

 
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