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プロローグ
2.「ダンジョンには行けません」
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「ダンジョンには行けません」
爆乳美女ギルド受付嬢に一言、そう告げられた。
その一言に、俺はギルドの喧騒が一瞬だけ聞こえなくなって、もう一度、今度は少し言い方を変えて確認した。
「チュートリアルダンジョンも?」
「貴方は行くことが出来ません」
「どうして?」
ゲームの選択肢にも関わらず、ギルドの受付嬢は顔を顰めた。まあ、そういう風にプログラムされているんだろうけど。表情でプロローグを飛ばすから、となじられた。世間には俺みたいにチュートリアルや設定をろくに読まない人間がいるのだ。お手柔らかに願いたい。
シアと名前が表示されているエルフ族であろう長い耳としなやかな身体、に目立ちすぎるおっぱいをこしらえている受付嬢の台詞ウィンドウにつらつらと文字が並ぶ。
「ダンジョン攻略及びクエストの受注はデュオ以上のチームを組むのが絶対条件です。ペアをフレンドから組むか、ランダムマッチで見つけてアモル・スキルリンクを行ってから受付にお越しください」
「――ソロ対応はしていないゲームだったのか……」
デュオ以上のチーム編成、ペアは絶対に組む、アモル・スキルリンク。
目では文字を追えるけれど、意味は脳に入ってこない。なかなかに珍しいが、噂の独自システムというのがこれだったのだろう。俺が、プロローグに説明があったのか、とスキップをしたのを若干後悔しながら顎を擦って首をひねっていると、隣の受付でペアを組んだであろう男女がダンジョンの攻略申請を行っていた。金髪が目立つ精悍な顔つきの白銀の重装備騎士と、桃色の髪と派手な魔法使いのローブが特徴的な少女がべったりと密着しながらダンジョンを選んでいる。騎士が魔法使いの腰に手をまわし、微笑んでいるのを見て、カップル用のモーションまであるのかと俺はゲームに感心した。
これ見よがしなイチャつき具合と、後ろに人が並んだ気配がして、俺はそそくさと受付を後にした。
ペアは絶対条件と言う言葉を突きつけられたのも相俟って、凄く居づらい。
ギルドを出ると、冒険者だけではなくてNPCであろう住人や商売人の喧騒がどぅっと身体に響く。
石畳の街。ギルドは城下町にあり、長い坂と階段の上には立派な城が聳え立っている。噴水広場の周りには武器屋や雑貨屋、宿屋が並んでいる。よくある西洋ファンタジーの中心都市だ。
少しだけ驚いたことに、ゲーム内の大型都市はこのクラーヴェルしかないらしい。東西南北に無数のダンジョンと、中間地点として小さな村や街があるだけで、基本的にはこのクラーヴェルのギルドからクエストかダンジョン攻略を申請する。ダンジョンまでは基本、徒歩か道中に移動している馬車を利用し、中間地点やダンジョン前にある銅像に記録するとファストトラベルが出来るようになる。RPGにしては小規模な印象を受けた。ペアを組まなければいけないという制約もあるし、プレイヤーたちはこのゲームのどこに駆り立てられるのだろう。
俺は城下町を散策し、プレイヤーたちが集まる交流広場に向かう。仲間集めのためだ。ワールドチャットを流し読みしながら広場に足を踏み入れると、処理落ちしそうなほどにキャラクターがごった返していた。背景なんて見えない。広々とした石畳の公園に、色々な種族のキャラクターがみっちりと収まっている。
が、
「皆、もうチームが出来てるな……」
ペアの印なのか、ハートマークがキャラクターの頭上に浮かんでいるのと、そもそも今の状態ではチームの勧誘・招待も出来ないらしい。チュートリアル画面には赤文字で『リンクノードに行ってペアを作ろう!』と表示されている。ソロでやる気満々だったのでスルーしていたが、どうしても行かなければならないらしい。
肩を落としてギルドの隣にあるリンクノードと呼ばれる場所に向かう道中、家屋の間、暗い路地裏で人の気配がした。息遣いとか、足音とか、気持ち悪いと思われるけどFPSもプレイしていた俺は気になって反射的にその路地裏に視線を向けてしまった。
「ん、……っ、ふ……おい、やめろって」
「やだ、お願い。もうちょっと」
「は、ぁ……おま、んんっ……ここは、リンクバフの範囲外だろ……ッ!」
「リンクとか、バフとか、そういうことじゃなくて、僕がしたいからするの」
めっちゃちゅーしてた。
おそらく聖職者の上位ジョブである召喚士の装備をした小柄な青年が、頭一つ分背の高いアサシンジョブの男の唇に、一生懸命背伸びをして唇を押し当てている。ちゅっ、ちゅっ、と小言を漏らすアサシンの唇を、吐息ごと飲み込んで、壁ドン状態で召喚士は啄ばんでいた。アサシンの男の方が適性的に見ても絶対気配には敏感だろうに、中の人はキスに翻弄されているのか、視線を俺の方に流してきたのは召喚士の方だった。
男の唇に自分の唇を押し当てたまま、艶やかで柔らかそうな唇に、言葉を載せる。
――えっち。
かあっと頬が火照って視線を逸らしたと同時に、力強い拒絶の音が聞こえたのは同時だった。お前がッ! と詰る声が聞こえてきたけれど、もう覗く勇気も度胸もあるはずがない。どっちに言ったのか分からないけれど、俺にもアサシンにも彼の言葉は酷く、効いた。
「いや、てか、なんか、」
キャラクター同士の距離が近くないか?
ひと昔前のMMOでも、別に脱げもしないぼっ立ちのドット絵でちんこを扱く行為が流行っていたと聞くが、ギルドにいたカップルの腰に腕をまわす行為とか、先ほどの男同士のキスとか、物理演算が狂っていないし、まるでそうあるべきモーションのようにゲームが推奨しているようだった。嗚呼、もしかしてこれが完全成人向け指定にした理由なのだろうか。
ダッシュでチュートリアル先のリンクノードに向かうと、プロローグにいた天使が入り口でふわふわと浮いていた。腰に手を当てて怒った仕草を見せる。
「来るのが遅いよぅ! 迷っちゃった?」
迷った。非常に迷った。ゲームはほとんどソロで行っている俺が、ペアを作るためにこの場所に行くのを。なんなら広場に行くというチュートリアル無視の遠回りをするくらいには。でも、キスを盗み見してバレた俺には、チュートリアルに入って姿を消すしか選択肢がなくなってしまった。
煉瓦作りの建物は、入りやすいように扉はなく吹き抜けになっていて、中に入らなくても中央に光の円環があり、そこに立ってなにかするんだろうな、というのが分かる。
「さあさあマッチングしてA.S.Lをしよう!」
天使とチュートリアル表示に強引に導かれて光の円環の中央に向かう。
目の前の洗濯画面にランダムマッチとフレンドマッチの表示が出て、俺は仕方がなくランダムマッチを押した。
キャラクターが勝手に後ずさりして、眩しいくらいの光が円環を包み込む。
チュートリアルだからかとんとん拍子で進むなぁと目の前の光景を見つめていた。
光が収まると、円環の中心には片膝をついて頭を垂れ、召喚を待っていた戦士の男がいた。
爆乳美女ギルド受付嬢に一言、そう告げられた。
その一言に、俺はギルドの喧騒が一瞬だけ聞こえなくなって、もう一度、今度は少し言い方を変えて確認した。
「チュートリアルダンジョンも?」
「貴方は行くことが出来ません」
「どうして?」
ゲームの選択肢にも関わらず、ギルドの受付嬢は顔を顰めた。まあ、そういう風にプログラムされているんだろうけど。表情でプロローグを飛ばすから、となじられた。世間には俺みたいにチュートリアルや設定をろくに読まない人間がいるのだ。お手柔らかに願いたい。
シアと名前が表示されているエルフ族であろう長い耳としなやかな身体、に目立ちすぎるおっぱいをこしらえている受付嬢の台詞ウィンドウにつらつらと文字が並ぶ。
「ダンジョン攻略及びクエストの受注はデュオ以上のチームを組むのが絶対条件です。ペアをフレンドから組むか、ランダムマッチで見つけてアモル・スキルリンクを行ってから受付にお越しください」
「――ソロ対応はしていないゲームだったのか……」
デュオ以上のチーム編成、ペアは絶対に組む、アモル・スキルリンク。
目では文字を追えるけれど、意味は脳に入ってこない。なかなかに珍しいが、噂の独自システムというのがこれだったのだろう。俺が、プロローグに説明があったのか、とスキップをしたのを若干後悔しながら顎を擦って首をひねっていると、隣の受付でペアを組んだであろう男女がダンジョンの攻略申請を行っていた。金髪が目立つ精悍な顔つきの白銀の重装備騎士と、桃色の髪と派手な魔法使いのローブが特徴的な少女がべったりと密着しながらダンジョンを選んでいる。騎士が魔法使いの腰に手をまわし、微笑んでいるのを見て、カップル用のモーションまであるのかと俺はゲームに感心した。
これ見よがしなイチャつき具合と、後ろに人が並んだ気配がして、俺はそそくさと受付を後にした。
ペアは絶対条件と言う言葉を突きつけられたのも相俟って、凄く居づらい。
ギルドを出ると、冒険者だけではなくてNPCであろう住人や商売人の喧騒がどぅっと身体に響く。
石畳の街。ギルドは城下町にあり、長い坂と階段の上には立派な城が聳え立っている。噴水広場の周りには武器屋や雑貨屋、宿屋が並んでいる。よくある西洋ファンタジーの中心都市だ。
少しだけ驚いたことに、ゲーム内の大型都市はこのクラーヴェルしかないらしい。東西南北に無数のダンジョンと、中間地点として小さな村や街があるだけで、基本的にはこのクラーヴェルのギルドからクエストかダンジョン攻略を申請する。ダンジョンまでは基本、徒歩か道中に移動している馬車を利用し、中間地点やダンジョン前にある銅像に記録するとファストトラベルが出来るようになる。RPGにしては小規模な印象を受けた。ペアを組まなければいけないという制約もあるし、プレイヤーたちはこのゲームのどこに駆り立てられるのだろう。
俺は城下町を散策し、プレイヤーたちが集まる交流広場に向かう。仲間集めのためだ。ワールドチャットを流し読みしながら広場に足を踏み入れると、処理落ちしそうなほどにキャラクターがごった返していた。背景なんて見えない。広々とした石畳の公園に、色々な種族のキャラクターがみっちりと収まっている。
が、
「皆、もうチームが出来てるな……」
ペアの印なのか、ハートマークがキャラクターの頭上に浮かんでいるのと、そもそも今の状態ではチームの勧誘・招待も出来ないらしい。チュートリアル画面には赤文字で『リンクノードに行ってペアを作ろう!』と表示されている。ソロでやる気満々だったのでスルーしていたが、どうしても行かなければならないらしい。
肩を落としてギルドの隣にあるリンクノードと呼ばれる場所に向かう道中、家屋の間、暗い路地裏で人の気配がした。息遣いとか、足音とか、気持ち悪いと思われるけどFPSもプレイしていた俺は気になって反射的にその路地裏に視線を向けてしまった。
「ん、……っ、ふ……おい、やめろって」
「やだ、お願い。もうちょっと」
「は、ぁ……おま、んんっ……ここは、リンクバフの範囲外だろ……ッ!」
「リンクとか、バフとか、そういうことじゃなくて、僕がしたいからするの」
めっちゃちゅーしてた。
おそらく聖職者の上位ジョブである召喚士の装備をした小柄な青年が、頭一つ分背の高いアサシンジョブの男の唇に、一生懸命背伸びをして唇を押し当てている。ちゅっ、ちゅっ、と小言を漏らすアサシンの唇を、吐息ごと飲み込んで、壁ドン状態で召喚士は啄ばんでいた。アサシンの男の方が適性的に見ても絶対気配には敏感だろうに、中の人はキスに翻弄されているのか、視線を俺の方に流してきたのは召喚士の方だった。
男の唇に自分の唇を押し当てたまま、艶やかで柔らかそうな唇に、言葉を載せる。
――えっち。
かあっと頬が火照って視線を逸らしたと同時に、力強い拒絶の音が聞こえたのは同時だった。お前がッ! と詰る声が聞こえてきたけれど、もう覗く勇気も度胸もあるはずがない。どっちに言ったのか分からないけれど、俺にもアサシンにも彼の言葉は酷く、効いた。
「いや、てか、なんか、」
キャラクター同士の距離が近くないか?
ひと昔前のMMOでも、別に脱げもしないぼっ立ちのドット絵でちんこを扱く行為が流行っていたと聞くが、ギルドにいたカップルの腰に腕をまわす行為とか、先ほどの男同士のキスとか、物理演算が狂っていないし、まるでそうあるべきモーションのようにゲームが推奨しているようだった。嗚呼、もしかしてこれが完全成人向け指定にした理由なのだろうか。
ダッシュでチュートリアル先のリンクノードに向かうと、プロローグにいた天使が入り口でふわふわと浮いていた。腰に手を当てて怒った仕草を見せる。
「来るのが遅いよぅ! 迷っちゃった?」
迷った。非常に迷った。ゲームはほとんどソロで行っている俺が、ペアを作るためにこの場所に行くのを。なんなら広場に行くというチュートリアル無視の遠回りをするくらいには。でも、キスを盗み見してバレた俺には、チュートリアルに入って姿を消すしか選択肢がなくなってしまった。
煉瓦作りの建物は、入りやすいように扉はなく吹き抜けになっていて、中に入らなくても中央に光の円環があり、そこに立ってなにかするんだろうな、というのが分かる。
「さあさあマッチングしてA.S.Lをしよう!」
天使とチュートリアル表示に強引に導かれて光の円環の中央に向かう。
目の前の洗濯画面にランダムマッチとフレンドマッチの表示が出て、俺は仕方がなくランダムマッチを押した。
キャラクターが勝手に後ずさりして、眩しいくらいの光が円環を包み込む。
チュートリアルだからかとんとん拍子で進むなぁと目の前の光景を見つめていた。
光が収まると、円環の中心には片膝をついて頭を垂れ、召喚を待っていた戦士の男がいた。
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