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一話目 異変
しおりを挟む3月25日、世界が静止した。
静止した、という表現は比喩表現だ。現に外では太陽は頭の上まで登って沈み始めているし、風だって暖かくて心地の良い春風ってやつが吹いている。少なくとも物理的な静止、ではない。
空は晴天。鮮やかな青空。遠くの雲までハッキリと見える。一周回って、少し頭にくるほどだ。
今、僕はショッピングモールの中を歩いている。日中にもかかわらず建物内の電気は全て消えているが、省エネを意識した構造をしているのか、やたらと日当たりの良い作りになっている。だから電気が全て消えていても窓から差し込んでくる太陽の光だけでも十分なくらいだ。
僕が床をかかとで踏む音がやたらと反響する。 とん、とん、と普段であれば、人の声とかに掻き消されて聞こえることなんてないはずの音。
だが、今、この場ではそんな音が一番の存在感を持っている。
視線を床から前へと向けると、蝶が僕のところへひらりと飛んでくるのが見えた。
さっきドアを開けた時閉めなかったから、そこから入って来たのだろうか。ここまで奥に虫がはいってくるのなんて、多分この場じゃ本来ありえないことだろう。
一通り探索は終えたので、外に出てみる。出てすぐ突き当たりに見えた公園を通って道路に出る。
本来なら車の往来もそれなりにあって、歩道は人が通り、青信号を知らせる機械音が定期的に聞こえるこの道路。
でも、今は物音一つなく静かで、
車なんて一つも通ってない。
そして、1番の異変、それは、
人が、1人もいないこと。
ここにくる間だって、誰の1人にも出くわさなかった。
学生連合での無理が祟ってぶっ倒れて、病院に担ぎ込まれて入院して、退院を翌日に控えて迎えた朝。
やたらと周りが静かで、ナースさんが朝の診断にいつまでも来ないことに異変を感じた。
テレビをつけても、『信号を受信できません』の文字が映るだけ。
明らかに、異常だ。
そして外に飛び出てみて、ようやく気づいた。
さっき僕は世界が静止したと言った。これが、その言葉の意味。
世界から、僕以外の人が消えた。
町を、村を、都市を残して。
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