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佐藤一志は怒っていた。
少し前に一瞬、意識が飛びかけたが、腕にまた何かを注射されたのか、その痛みで自我を保った。
<ゾンビにならない?>
そう思えたのも束の間、医者の話に今度は理性が吹き飛ばされそうになっている。
「佐藤さん、折角、"あの時"生き残ったのに、結局はこんな目に遭って、あなたはつくづく運のない男ですねぇ」
そう言って始まった医者の話に怒りが止まらない。
「あの事故、あれは偶然起こったのではないのですよ。あれは、私が仕掛けたものです。
お気の毒に、あなたの叔父と叔母だけが亡くなってしまいましたが。
惜しい二人を失くしました」
一志は幼い頃に叔父が運転する車に乗り、叔母と静と共に事故に遭っていた。
当時、一志は助手席に座るのが好きで、お決まりだった。
幼かった静は、チャイルドシートで後部座席。
事故の直前、自分も前に乗りたい、と静が駄々をこね始めたため、結局、叔母が助手席に座った。
その結果、死んだのは前に座っていた二人となった。
事故そのものは大したことはないのだが、運悪く、エアバックの異常で金属片が直撃したから、のはずだった。
「あなたは、なぜ、あの時だけ、後ろに、座って、いたのでしょう」
一言ずつ区切る口調は、一志がいつもは前に座っていたのを知っていた、ということをひけらかしているようだ。
「それから、あなたはいい大学を出ながら、就職できませんでしたねぇ。
それもなぜなんでしょう?」
<何…?就職できなかったのにも、こいつが関わっている?>
池田に沸々と怒りが湧いてきた。
静の両親の死、就職活動の失敗からの今の自分…それを思うと、惑わされまいとしても、感情が抑えきれない。
「そうそう、そして、佐藤さん、あなたには"妹さん"がいましたねぇ」
医者の話は、さらに一志の妹に向いた。
「あなたの妹、静さんですか。今、高校三年生。
あなたのような情けない男とは違い、よくできた娘さんのようです」
医者はそう言って、静のことをゆっくりとねちっこい口調で話始めた。
誕生日、学歴、今通っている高校と塾の通学方法、オカルト好きという趣味、自分も知らなかったSNSの内容、交友関係…。
<こいつは、静のストーカーでもあるのか。
俺だけでなく、静にも手を出すかもしれない。
静は俺の大事な妹だ。そんなことさせてたまるか!
そうなる前に、ぶっ殺してやる!>
一志には、これまでに感じたことがないほどの怒りが溢れ、医者を激しく攻撃したい欲望に駆られた。
「もうおわかりでしょうが、私は、たまたまあなたを拐った訳ではありません。
私はあなたの父親と知り合いでしたので。父親だけではない、母親の累さんともね。
よく、聴きなさい。
私の家族は、あなたの両親に裏切られ、死にました。
今度は、あなた"たち"が死ぬ番です、うっうっうっ」
「そんなこと知るか!親父たちがしたことは俺たちには関係ないだろう!
なんでそれで俺たちで恨みを晴らそうとするんだ!静には手を出すな!」
一志は、自分が拐われたことが偶然ではなかったことに驚いたものの、妹にまで魔の手を伸ばそうとする医者の口ぶりへの怒りが勝り、爆発した。
「ああ、なんと兄妹愛が深いことでしょう。たまらないですねえ。
私は、神の出現よりも、この日の方を待っていたのかもしれない」
医者はさもうれしそうに、演技がかった言い方を続ける。
「そうですねえ、妹さんもあなたのように拐った上で、なぶり殺しにしましょう。
手足を切り刻み、死ぬに死ねないように、少しずつねぇ」
そう言って、医者は一志の目の前に歩いて行き、その姿を晒した。
<こいつ!?>
初めて見た医者の姿に一志は驚き、戸惑いながら、怒りがさらに増した。
「やめろ、そんなこと許さない、絶対に!」
「どうやって、やるっていうんです、そんな状態で。
惨めですねえ。シスコンの末路と言うのは。
まあ、本当はシスコンとは…」
「誰がシスコンだ!くそー!畜生!殺してやる!
お前、絶対に許さないからな!
何が神だ!そんなものいるものか!
神なんて…かみ?」
<そうだ、俺は噛みたい、こいつを無性に噛みたいんだ、噛み殺してやる!>
「噛んでやる!お前を噛み殺してやる!!」
一志の頭の中は怒りと憎しみで充満し、理性が保てなくなった。
それが一志のオメガを発症する前の、最後の言葉となった。
少し前に一瞬、意識が飛びかけたが、腕にまた何かを注射されたのか、その痛みで自我を保った。
<ゾンビにならない?>
そう思えたのも束の間、医者の話に今度は理性が吹き飛ばされそうになっている。
「佐藤さん、折角、"あの時"生き残ったのに、結局はこんな目に遭って、あなたはつくづく運のない男ですねぇ」
そう言って始まった医者の話に怒りが止まらない。
「あの事故、あれは偶然起こったのではないのですよ。あれは、私が仕掛けたものです。
お気の毒に、あなたの叔父と叔母だけが亡くなってしまいましたが。
惜しい二人を失くしました」
一志は幼い頃に叔父が運転する車に乗り、叔母と静と共に事故に遭っていた。
当時、一志は助手席に座るのが好きで、お決まりだった。
幼かった静は、チャイルドシートで後部座席。
事故の直前、自分も前に乗りたい、と静が駄々をこね始めたため、結局、叔母が助手席に座った。
その結果、死んだのは前に座っていた二人となった。
事故そのものは大したことはないのだが、運悪く、エアバックの異常で金属片が直撃したから、のはずだった。
「あなたは、なぜ、あの時だけ、後ろに、座って、いたのでしょう」
一言ずつ区切る口調は、一志がいつもは前に座っていたのを知っていた、ということをひけらかしているようだ。
「それから、あなたはいい大学を出ながら、就職できませんでしたねぇ。
それもなぜなんでしょう?」
<何…?就職できなかったのにも、こいつが関わっている?>
池田に沸々と怒りが湧いてきた。
静の両親の死、就職活動の失敗からの今の自分…それを思うと、惑わされまいとしても、感情が抑えきれない。
「そうそう、そして、佐藤さん、あなたには"妹さん"がいましたねぇ」
医者の話は、さらに一志の妹に向いた。
「あなたの妹、静さんですか。今、高校三年生。
あなたのような情けない男とは違い、よくできた娘さんのようです」
医者はそう言って、静のことをゆっくりとねちっこい口調で話始めた。
誕生日、学歴、今通っている高校と塾の通学方法、オカルト好きという趣味、自分も知らなかったSNSの内容、交友関係…。
<こいつは、静のストーカーでもあるのか。
俺だけでなく、静にも手を出すかもしれない。
静は俺の大事な妹だ。そんなことさせてたまるか!
そうなる前に、ぶっ殺してやる!>
一志には、これまでに感じたことがないほどの怒りが溢れ、医者を激しく攻撃したい欲望に駆られた。
「もうおわかりでしょうが、私は、たまたまあなたを拐った訳ではありません。
私はあなたの父親と知り合いでしたので。父親だけではない、母親の累さんともね。
よく、聴きなさい。
私の家族は、あなたの両親に裏切られ、死にました。
今度は、あなた"たち"が死ぬ番です、うっうっうっ」
「そんなこと知るか!親父たちがしたことは俺たちには関係ないだろう!
なんでそれで俺たちで恨みを晴らそうとするんだ!静には手を出すな!」
一志は、自分が拐われたことが偶然ではなかったことに驚いたものの、妹にまで魔の手を伸ばそうとする医者の口ぶりへの怒りが勝り、爆発した。
「ああ、なんと兄妹愛が深いことでしょう。たまらないですねえ。
私は、神の出現よりも、この日の方を待っていたのかもしれない」
医者はさもうれしそうに、演技がかった言い方を続ける。
「そうですねえ、妹さんもあなたのように拐った上で、なぶり殺しにしましょう。
手足を切り刻み、死ぬに死ねないように、少しずつねぇ」
そう言って、医者は一志の目の前に歩いて行き、その姿を晒した。
<こいつ!?>
初めて見た医者の姿に一志は驚き、戸惑いながら、怒りがさらに増した。
「やめろ、そんなこと許さない、絶対に!」
「どうやって、やるっていうんです、そんな状態で。
惨めですねえ。シスコンの末路と言うのは。
まあ、本当はシスコンとは…」
「誰がシスコンだ!くそー!畜生!殺してやる!
お前、絶対に許さないからな!
何が神だ!そんなものいるものか!
神なんて…かみ?」
<そうだ、俺は噛みたい、こいつを無性に噛みたいんだ、噛み殺してやる!>
「噛んでやる!お前を噛み殺してやる!!」
一志の頭の中は怒りと憎しみで充満し、理性が保てなくなった。
それが一志のオメガを発症する前の、最後の言葉となった。
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