ブアメードの血

ハイポクリエーターキャーリー

文字の大きさ
14 / 70

13

しおりを挟む
 佐藤一志は怒っていた。

少し前に一瞬、意識が飛びかけたが、腕にまた何かを注射されたのか、その痛みで自我を保った。


<ゾンビにならない?>

そう思えたのも束の間、医者の話に今度は理性が吹き飛ばされそうになっている。


 「佐藤さん、折角、"あの時"生き残ったのに、結局はこんな目に遭って、あなたはつくづく運のない男ですねぇ」

そう言って始まった医者の話に怒りが止まらない。

「あの事故、あれは偶然起こったのではないのですよ。あれは、私が仕掛けたものです。

お気の毒に、あなたの叔父と叔母だけが亡くなってしまいましたが。

惜しい二人を失くしました」

 一志は幼い頃に叔父が運転する車に乗り、叔母と静と共に事故に遭っていた。

当時、一志は助手席に座るのが好きで、お決まりだった。

幼かった静は、チャイルドシートで後部座席。

事故の直前、自分も前に乗りたい、と静が駄々をこね始めたため、結局、叔母が助手席に座った。

その結果、死んだのは前に座っていた二人となった。

事故そのものは大したことはないのだが、運悪く、エアバックの異常で金属片が直撃したから、のはずだった。

「あなたは、なぜ、あの時だけ、後ろに、座って、いたのでしょう」

一言ずつ区切る口調は、一志がいつもは前に座っていたのを知っていた、ということをひけらかしているようだ。

「それから、あなたはいい大学を出ながら、就職できませんでしたねぇ。

それもなぜなんでしょう?」

<何…?就職できなかったのにも、こいつが関わっている?>

池田に沸々と怒りが湧いてきた。

静の両親の死、就職活動の失敗からの今の自分…それを思うと、惑わされまいとしても、感情が抑えきれない。

「そうそう、そして、佐藤さん、あなたには"妹さん"がいましたねぇ」

医者の話は、さらに一志の妹に向いた。

「あなたの妹、静さんですか。今、高校三年生。

あなたのような情けない男とは違い、よくできた娘さんのようです」

医者はそう言って、静のことをゆっくりとねちっこい口調で話始めた。

誕生日、学歴、今通っている高校と塾の通学方法、オカルト好きという趣味、自分も知らなかったSNSの内容、交友関係…。

<こいつは、静のストーカーでもあるのか。

俺だけでなく、静にも手を出すかもしれない。

静は俺の大事な妹だ。そんなことさせてたまるか!

そうなる前に、ぶっ殺してやる!>

一志には、これまでに感じたことがないほどの怒りが溢れ、医者を激しく攻撃したい欲望に駆られた。

「もうおわかりでしょうが、私は、たまたまあなたを拐った訳ではありません。

私はあなたの父親と知り合いでしたので。父親だけではない、母親の累さんともね。

よく、聴きなさい。

私の家族は、あなたの両親に裏切られ、死にました。

今度は、あなた"たち"が死ぬ番です、うっうっうっ」

「そんなこと知るか!親父たちがしたことは俺たちには関係ないだろう!

なんでそれで俺たちで恨みを晴らそうとするんだ!静には手を出すな!」

一志は、自分が拐われたことが偶然ではなかったことに驚いたものの、妹にまで魔の手を伸ばそうとする医者の口ぶりへの怒りが勝り、爆発した。

「ああ、なんと兄妹愛が深いことでしょう。たまらないですねえ。

私は、神の出現よりも、この日の方を待っていたのかもしれない」

医者はさもうれしそうに、演技がかった言い方を続ける。

「そうですねえ、妹さんもあなたのように拐った上で、なぶり殺しにしましょう。

手足を切り刻み、死ぬに死ねないように、少しずつねぇ」

そう言って、医者は一志の目の前に歩いて行き、その姿を晒した。

<こいつ!?>

初めて見た医者の姿に一志は驚き、戸惑いながら、怒りがさらに増した。

「やめろ、そんなこと許さない、絶対に!」

「どうやって、やるっていうんです、そんな状態で。

惨めですねえ。シスコンの末路と言うのは。

まあ、本当はシスコンとは…」

「誰がシスコンだ!くそー!畜生!殺してやる!

お前、絶対に許さないからな!

何が神だ!そんなものいるものか!

神なんて…かみ?」

<そうだ、俺は噛みたい、こいつを無性に噛みたいんだ、噛み殺してやる!>

「噛んでやる!お前を噛み殺してやる!!」

一志の頭の中は怒りと憎しみで充満し、理性が保てなくなった。

それが一志のオメガを発症する前の、最後の言葉となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

【完結】ホラー短編集「隣の怪異」

シマセイ
ホラー
それは、あなたの『隣』にも潜んでいるのかもしれない。 日常風景が歪む瞬間、すぐそばに現れる異様な気配。 襖の隙間、スマートフォンの画面、アパートの天井裏、曰く付きの達磨…。 身近な場所を舞台にした怪異譚が、これから続々と語られていきます。 じわりと心を侵食する恐怖の記録、短編集『隣の怪異』。 今宵もまた、新たな怪異の扉が開かれる──。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...