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ジョージ・クリスは困っていた。
埼玉県郊外、中規模の公園の遊歩道。
初夏にしては露出の多い、若く美しい少女に目を奪われた。
思わず、胸からぶら下げていたミラーレス一眼レフカメラを向けそうになるほど。
<盗撮になるかな>
ジョージが躊躇ったのも束の間、その少女が近付いてきた。
ジョージは戸惑いながらも自分の思いを悟られまいと、視線を外した。
そうしてすれ違う瞬間、その少女が急によろけて、ジョージにぶつかった。
少女の持っていた紙コップのジュースが、もろにジョージの胸元のカメラに引っかかった。
確認してみると、やはり故障していた。
その少女は平謝りし、クリーニング代も合せて弁償させてほしいと、驚くほど流暢な英語で言ってきた。
ただ、今は持ち合わせがないので、連絡先を教えてほしい、とも。
日本がとにかく好きで、趣味となっていた。
その範囲は伝統文化から所謂オタク文化まで、幅広い。
元々、風景などの写真とCGを融合したアートの創作活動をしていたが、その趣味が高じたのもあって、去年から帝都芸術大学へ留学。
今もその元となる写真を撮り、帰ろうしたところだ。
ジョージは諦めきれず、カメラの電源を何回も入り切りしてみた。
だが、うんともすんとも言わない。
メモリ媒体までは濡れていないので、データは死んでいないかもしれないが、カメラ自体はそれなりの値が張るものだ。
こんな少女に弁償させるのは気がひけるが、自分で直すにも留学中で余裕のない身としては辛い。
ジョージは、自分はフランス人で、英語よりも日本語の方が話せるからと、日本語で会話を進めた。
そして、その少女に、スマートフォンの電話番号と、できれば親御さんから連絡をしてほしい旨を拙い日本語で伝えた。
その日のうちに、その少女の親と名乗る人物から電話があり、次の日会うことになった。
約束した場所は多摩川台公園。
調べて行くから大丈夫、と言ってしまったが、案外遠い場所だった。
多摩川駅を降りてすぐに見つかったが、あまり人気がない。
<あの少女の家の近くかな?
どうして、こんな公園に呼び出されたのだろう>
土地勘のないジョージは戸惑ったが、それでも気を取り直して、スマートフォンで写真を撮り始めた。
ありふれた公園でも、ジョージにとっては何もかもが作品の原石になるように見えた。
「クリスさん?」
後ろから、電話で聞いたのと同じしゃがれた声がした。
振り向くと、その声からの想像とかけ離れた人物が立っていた。
一通りの挨拶を済ませると、新しいカメラを買っても余るほどの現金の入った封筒を渡された。
また気がひけたが、少女の親は、自分のSNSを見て作品を気に入った、芸術に関心があるのでそれでもっといいカメラを買えばいい、などと言って譲らない。
さらに、こんな所まで呼び出してしまったので帰りは送ってくれる、とも言う。
車は黒いセダン型の高級車、レクス。
裕福な家庭なのだろう。
その車には先日の少女が乗って待っており、声を掛けてきた。
ジョージは少し躊躇ったが、この少女にもお礼がしたいと思い、送ってもらうことにした。
走り出した車の中で少女は、また会えてうれしいと、話を弾ませた。
それから、車に備え付けられたクーラーボックスを開け、飲み物を勧めてきた。
缶やペットボトルが六本ほど入るスペースに、ジュースやコーヒー、それにお酒まである。
ジョージはペットボトルのジュースを選んだ。
よく冷えた液体は、ジョージの乾いた喉を潤したのち、眠気を誘った。
やがて車は、都内とは反対方向に緩やかに進路を変え、走り去った。
それからほどなくして、一人のフランス人留学生が行方不明となったと、ちょっとしたニュースとなった。
医者が誘拐したのは、この留学生を除き、外国人実習生や不法滞在者がほとんど。
行方不明になっても、話題にならない者ばかりだったので、それらはニュースになることはなかった。
結局、医者が誘拐した人数は、先の中国人とアメリカ人、そして一志を含め、全部で十三人となった。
埼玉県郊外、中規模の公園の遊歩道。
初夏にしては露出の多い、若く美しい少女に目を奪われた。
思わず、胸からぶら下げていたミラーレス一眼レフカメラを向けそうになるほど。
<盗撮になるかな>
ジョージが躊躇ったのも束の間、その少女が近付いてきた。
ジョージは戸惑いながらも自分の思いを悟られまいと、視線を外した。
そうしてすれ違う瞬間、その少女が急によろけて、ジョージにぶつかった。
少女の持っていた紙コップのジュースが、もろにジョージの胸元のカメラに引っかかった。
確認してみると、やはり故障していた。
その少女は平謝りし、クリーニング代も合せて弁償させてほしいと、驚くほど流暢な英語で言ってきた。
ただ、今は持ち合わせがないので、連絡先を教えてほしい、とも。
日本がとにかく好きで、趣味となっていた。
その範囲は伝統文化から所謂オタク文化まで、幅広い。
元々、風景などの写真とCGを融合したアートの創作活動をしていたが、その趣味が高じたのもあって、去年から帝都芸術大学へ留学。
今もその元となる写真を撮り、帰ろうしたところだ。
ジョージは諦めきれず、カメラの電源を何回も入り切りしてみた。
だが、うんともすんとも言わない。
メモリ媒体までは濡れていないので、データは死んでいないかもしれないが、カメラ自体はそれなりの値が張るものだ。
こんな少女に弁償させるのは気がひけるが、自分で直すにも留学中で余裕のない身としては辛い。
ジョージは、自分はフランス人で、英語よりも日本語の方が話せるからと、日本語で会話を進めた。
そして、その少女に、スマートフォンの電話番号と、できれば親御さんから連絡をしてほしい旨を拙い日本語で伝えた。
その日のうちに、その少女の親と名乗る人物から電話があり、次の日会うことになった。
約束した場所は多摩川台公園。
調べて行くから大丈夫、と言ってしまったが、案外遠い場所だった。
多摩川駅を降りてすぐに見つかったが、あまり人気がない。
<あの少女の家の近くかな?
どうして、こんな公園に呼び出されたのだろう>
土地勘のないジョージは戸惑ったが、それでも気を取り直して、スマートフォンで写真を撮り始めた。
ありふれた公園でも、ジョージにとっては何もかもが作品の原石になるように見えた。
「クリスさん?」
後ろから、電話で聞いたのと同じしゃがれた声がした。
振り向くと、その声からの想像とかけ離れた人物が立っていた。
一通りの挨拶を済ませると、新しいカメラを買っても余るほどの現金の入った封筒を渡された。
また気がひけたが、少女の親は、自分のSNSを見て作品を気に入った、芸術に関心があるのでそれでもっといいカメラを買えばいい、などと言って譲らない。
さらに、こんな所まで呼び出してしまったので帰りは送ってくれる、とも言う。
車は黒いセダン型の高級車、レクス。
裕福な家庭なのだろう。
その車には先日の少女が乗って待っており、声を掛けてきた。
ジョージは少し躊躇ったが、この少女にもお礼がしたいと思い、送ってもらうことにした。
走り出した車の中で少女は、また会えてうれしいと、話を弾ませた。
それから、車に備え付けられたクーラーボックスを開け、飲み物を勧めてきた。
缶やペットボトルが六本ほど入るスペースに、ジュースやコーヒー、それにお酒まである。
ジョージはペットボトルのジュースを選んだ。
よく冷えた液体は、ジョージの乾いた喉を潤したのち、眠気を誘った。
やがて車は、都内とは反対方向に緩やかに進路を変え、走り去った。
それからほどなくして、一人のフランス人留学生が行方不明となったと、ちょっとしたニュースとなった。
医者が誘拐したのは、この留学生を除き、外国人実習生や不法滞在者がほとんど。
行方不明になっても、話題にならない者ばかりだったので、それらはニュースになることはなかった。
結局、医者が誘拐した人数は、先の中国人とアメリカ人、そして一志を含め、全部で十三人となった。
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