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第一部
パーフェクト・ワールド・ハルⅡ ②
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「もしかして。榛名ちゃん、あの噂、相当キてる?」
「はぁ?」
「だから、ほら、……ハルちゃんの所為と言えば、ハルちゃんの所為かな、と」
「いや、べつに」
その「噂」に思い至って、行人はきまり悪く語尾を濁らせた。高藤は何も言わないが、同じクラスで同じ寮生委員の荻原が耳にしているのなら、知っていたのかもしれない。
余計なことまで思い至って、ますます気が重くなってしまった。
「まぁ、大丈夫だって。高藤と会長を敵に回してまで榛名ちゃんに手ぇ出そうとするヤツ、いないでしょ」
「だから、誰もそんなこと、」
「それに良いのか悪いのかは分からないけど、風紀もやたら見回り強化してるみたいだし。大丈夫だって。榛名ちゃんたちの棟にも結構来てる? ウチは、……まぁ、ハルちゃんいるから特に多いのかもしれないけど、結構な頻度で来ててさぁ。この間も高藤、絡まれてたよ、気の毒に」
笑って荻原が続ける。
「本当、なんであんなに生徒会と風紀は仲悪いんだろうね。伝統的と言っても、俺らの代はそんなことなかったのにね」
「成瀬さんたちと本尾……先輩が壊滅的に仲悪いだけなんじゃねぇの」
「はは、その嫌そうな顔! まぁ、でも合わなさそうだよね。確かに成瀬会長と本尾先輩」
風紀委員長の顔を思い浮かべたらしい荻原は、また笑ったが、行人にとっては死活問題だ。精々が嫌味を言われるくらいで、なにをされると言うわけではないのだが、できることなら会いたくない人種である。
成瀬を慕っているというだけで、中等部にいたころも詮無いことで絡まれたことが幾度もあるのだ。
「まぁ、もし、あんまり続いて困るなら、高藤に相談してみるのも手だと思うよ。もちろん、俺でも良いけどね」
「相談するまでもねぇよ」
「榛名ちゃんならそう言うと思ったけど。やっぱり、そのあたり、ハルちゃんとは違うよなぁ。ハルちゃんは、なんというか、守ってあげないとって気に勝手になるんだよな。それがオメガなのかな」
アルファに守られ、愛されることでしか生きていけない劣等種。だから、可愛らしい見た目で、フェロモンで、出来得る限り強大なアルファを誘う。自身を守るために。オメガが生き抜くための最善だ。
「……知らね」
「だよね。俺もオメガって初めて見たし。だから、余計、ドキドキしたもん、正直。ほら、向原先輩とかさ。あそこくらい家が良いと、つがいの契約とかも早々にしてたりするのかもしれないけど。普通、ないじゃん? 俺、実はちょっと憧れある。運命のつがいってヤツ」
つがい。強張りかけた表情を誤魔化すように、行人はノズルを捻った。冷水でそのまま顔を洗う。頬を伝うそれが、思い浮かんでしまった浅ましさも押し流してくれれば良いと思いながら。
アルファがオメガの頸を噛むことで成立するとされる関係。それがつがいだ。そしてアルファとオメガの間に存在するという、おとぎ話のような関係がある。運命のつがい。一目会えば、アルファもオメガも、それが自分の運命だと気づくのだという。そんなもの、信じてなどいないつもりなのに。
その言葉を聞くたびに、行人の脳裏にはある人の顔が浮かぶ。
成瀬祥平。この学園のトップに君臨するアルファ。自分があの人のつがいになれるとは、思っていない。ただ羨ましいなとは思う。
あの人に選ばれたオメガは、オメガとしてではなく、一人の個人として大切にしてもらえるのだろう。俺をオメガだと知っても、三年間ずっと態度を変えなかったあの人なら。
「はぁ?」
「だから、ほら、……ハルちゃんの所為と言えば、ハルちゃんの所為かな、と」
「いや、べつに」
その「噂」に思い至って、行人はきまり悪く語尾を濁らせた。高藤は何も言わないが、同じクラスで同じ寮生委員の荻原が耳にしているのなら、知っていたのかもしれない。
余計なことまで思い至って、ますます気が重くなってしまった。
「まぁ、大丈夫だって。高藤と会長を敵に回してまで榛名ちゃんに手ぇ出そうとするヤツ、いないでしょ」
「だから、誰もそんなこと、」
「それに良いのか悪いのかは分からないけど、風紀もやたら見回り強化してるみたいだし。大丈夫だって。榛名ちゃんたちの棟にも結構来てる? ウチは、……まぁ、ハルちゃんいるから特に多いのかもしれないけど、結構な頻度で来ててさぁ。この間も高藤、絡まれてたよ、気の毒に」
笑って荻原が続ける。
「本当、なんであんなに生徒会と風紀は仲悪いんだろうね。伝統的と言っても、俺らの代はそんなことなかったのにね」
「成瀬さんたちと本尾……先輩が壊滅的に仲悪いだけなんじゃねぇの」
「はは、その嫌そうな顔! まぁ、でも合わなさそうだよね。確かに成瀬会長と本尾先輩」
風紀委員長の顔を思い浮かべたらしい荻原は、また笑ったが、行人にとっては死活問題だ。精々が嫌味を言われるくらいで、なにをされると言うわけではないのだが、できることなら会いたくない人種である。
成瀬を慕っているというだけで、中等部にいたころも詮無いことで絡まれたことが幾度もあるのだ。
「まぁ、もし、あんまり続いて困るなら、高藤に相談してみるのも手だと思うよ。もちろん、俺でも良いけどね」
「相談するまでもねぇよ」
「榛名ちゃんならそう言うと思ったけど。やっぱり、そのあたり、ハルちゃんとは違うよなぁ。ハルちゃんは、なんというか、守ってあげないとって気に勝手になるんだよな。それがオメガなのかな」
アルファに守られ、愛されることでしか生きていけない劣等種。だから、可愛らしい見た目で、フェロモンで、出来得る限り強大なアルファを誘う。自身を守るために。オメガが生き抜くための最善だ。
「……知らね」
「だよね。俺もオメガって初めて見たし。だから、余計、ドキドキしたもん、正直。ほら、向原先輩とかさ。あそこくらい家が良いと、つがいの契約とかも早々にしてたりするのかもしれないけど。普通、ないじゃん? 俺、実はちょっと憧れある。運命のつがいってヤツ」
つがい。強張りかけた表情を誤魔化すように、行人はノズルを捻った。冷水でそのまま顔を洗う。頬を伝うそれが、思い浮かんでしまった浅ましさも押し流してくれれば良いと思いながら。
アルファがオメガの頸を噛むことで成立するとされる関係。それがつがいだ。そしてアルファとオメガの間に存在するという、おとぎ話のような関係がある。運命のつがい。一目会えば、アルファもオメガも、それが自分の運命だと気づくのだという。そんなもの、信じてなどいないつもりなのに。
その言葉を聞くたびに、行人の脳裏にはある人の顔が浮かぶ。
成瀬祥平。この学園のトップに君臨するアルファ。自分があの人のつがいになれるとは、思っていない。ただ羨ましいなとは思う。
あの人に選ばれたオメガは、オメガとしてではなく、一人の個人として大切にしてもらえるのだろう。俺をオメガだと知っても、三年間ずっと態度を変えなかったあの人なら。
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