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第一部
パーフェクト・ワールド・ハルⅣ ⑤
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「高藤くんの同室って」
「なに?」
明らかに自分にかけられた声を無視できるほど、人間が出来ていなくはない。立ち止まった皓太に、水城がゆっくりと微笑んだ。どこか寂しそうに。
「榛名くんだよね。残念だったな。本当は僕、榛名くんと一緒に出てみたかったんだ。一人だと心細かったから、櫻寮と一緒にやれるっていう話を聞いた時はすごく嬉しかったんだけど、流れちゃったみたいで。僕と一緒は嫌だったのかな」
「え? ハルちゃん、榛名と出る予定だったの?」
「うん。実は、……あ、でも、これ言っちゃ駄目だったのかな。ウチの寮長さんが、初めの時にね、僕恥ずかしいし、自信もないから不安なんですって正直に話したら、櫻寮の子と二人で組んで出れるから大丈夫だよって教えてくれて」
即座に反応した取り巻きに向かって、水城が目を伏せる。
「それで、僕、人前に出るのも恥ずかしかったんだけど、折角だし楓寮のために頑張りたいと思ってオッケーしたんだ。でも、その話が流れちゃったみたいで、だから」
「そうだったんだ。でも、ハルちゃん一人のほうが良かったかもしれないよ? 榛名って見た目はともかく、愛想の欠片もないヤツだし」
「そうそう、あいつ、いつも苛々してるし。一緒にやっても、ハルちゃんが気ぃ使って大変だったんじゃないかな」
「でも、折角だし。仲良く出来たらなとは思ってたんだけど」
取り成すように水城が微笑んだ。「もちろん、榛名くんが僕と仲良くしたいって思ってくれたら、の話だけど」
「あいつ捻くれてるから。今回もどうせ、榛名がわがまま言ったんだろ。そういや櫻のヤツも言ってたな。榛名がかなり出るの嫌がってったって」
「あのな」
不穏なほうへほうへと流れていきそうなそれに、思わず口を挟んでしまった。そんなに大きな声を出したつもりもなかったのに視線が集まって、険のあるものになっていたのだろうかと省みる。
だから、次の発声は努めて穏やかと評されるふうに取り繕ったつもりだ。
「会長のほうがインパクトあるって話になっただけ。榛名がどうのこうの言ったわけじゃないよ。というか、一年の一存で寮の決定が変わるわけないだろ」
苦笑して見せると、それもそうかとの声がぽつりと上がる。
「いくらあいつでも、わがままの引き所くらい分かってるって」
あわよくば、他の一年に標的が移らないだろうか、とは願っていただろうけれど。どうにもならないとなれば、引き受ける心づもりだっただろうはずだ。成瀬に相談する選択を取らなかった時点で、そう決めていたのだと皓太は理解している。
「良いじゃん。実際、おかげで、会長の女装っていうある意味、貴重なものを拝ませてもらったんだし。なぁ、俺にも見せて、それ」
わざとらしいくらいの明るい声で、普段は入らない取り巻きの輪に二階が飛び込んでいく。気を使わせてしまったと思ったが甘えることにして、皓太は自席に戻った。こんなことで苛々するつもりもなかったのに。
誰に投票するかで新たな盛り上がりを見せ始めた一団を視認して、溜息を一つ。
「まぁ、榛名の所為っちゃ、所為かもだけど」
それよりも強く誰の所為かと問われれば、間違いなく成瀬だろう。何もあんな斜め上な方向に転がさなくとも良かったはずだ。
他にも絶対に手はあっただろうと皓太は思うのだが、榛名は相変わらず「成瀬は優しい」と妄信している。
――あいつ、思い込み激しいからなぁ。
べつに、だからどうと言うつもりもないのだが。最後に溜息を吐き出して、視線を上げた瞬間。見てしまったそれに、皓太はまた溜息を吐きたくなってしまった。
アルファたちに囲まれた中心で、水城春弥は微笑んでいる。いつも通りの「天使」と呼び称されている笑顔。そこに一瞬見えた陰りを皓太は気が付いてしまった。気に喰わないと全身で訴えるような、負のそれ。
これは、榛名が出場しなくて本当に良かったかもしれない。ひとまず、その一点に置いては、成瀬に感謝することにした。あの入学式の式辞の時点で分かっていたことではあるが、陵学園に現れたニューヒロインは、なかなかの食わせ者のようだった。
「なに?」
明らかに自分にかけられた声を無視できるほど、人間が出来ていなくはない。立ち止まった皓太に、水城がゆっくりと微笑んだ。どこか寂しそうに。
「榛名くんだよね。残念だったな。本当は僕、榛名くんと一緒に出てみたかったんだ。一人だと心細かったから、櫻寮と一緒にやれるっていう話を聞いた時はすごく嬉しかったんだけど、流れちゃったみたいで。僕と一緒は嫌だったのかな」
「え? ハルちゃん、榛名と出る予定だったの?」
「うん。実は、……あ、でも、これ言っちゃ駄目だったのかな。ウチの寮長さんが、初めの時にね、僕恥ずかしいし、自信もないから不安なんですって正直に話したら、櫻寮の子と二人で組んで出れるから大丈夫だよって教えてくれて」
即座に反応した取り巻きに向かって、水城が目を伏せる。
「それで、僕、人前に出るのも恥ずかしかったんだけど、折角だし楓寮のために頑張りたいと思ってオッケーしたんだ。でも、その話が流れちゃったみたいで、だから」
「そうだったんだ。でも、ハルちゃん一人のほうが良かったかもしれないよ? 榛名って見た目はともかく、愛想の欠片もないヤツだし」
「そうそう、あいつ、いつも苛々してるし。一緒にやっても、ハルちゃんが気ぃ使って大変だったんじゃないかな」
「でも、折角だし。仲良く出来たらなとは思ってたんだけど」
取り成すように水城が微笑んだ。「もちろん、榛名くんが僕と仲良くしたいって思ってくれたら、の話だけど」
「あいつ捻くれてるから。今回もどうせ、榛名がわがまま言ったんだろ。そういや櫻のヤツも言ってたな。榛名がかなり出るの嫌がってったって」
「あのな」
不穏なほうへほうへと流れていきそうなそれに、思わず口を挟んでしまった。そんなに大きな声を出したつもりもなかったのに視線が集まって、険のあるものになっていたのだろうかと省みる。
だから、次の発声は努めて穏やかと評されるふうに取り繕ったつもりだ。
「会長のほうがインパクトあるって話になっただけ。榛名がどうのこうの言ったわけじゃないよ。というか、一年の一存で寮の決定が変わるわけないだろ」
苦笑して見せると、それもそうかとの声がぽつりと上がる。
「いくらあいつでも、わがままの引き所くらい分かってるって」
あわよくば、他の一年に標的が移らないだろうか、とは願っていただろうけれど。どうにもならないとなれば、引き受ける心づもりだっただろうはずだ。成瀬に相談する選択を取らなかった時点で、そう決めていたのだと皓太は理解している。
「良いじゃん。実際、おかげで、会長の女装っていうある意味、貴重なものを拝ませてもらったんだし。なぁ、俺にも見せて、それ」
わざとらしいくらいの明るい声で、普段は入らない取り巻きの輪に二階が飛び込んでいく。気を使わせてしまったと思ったが甘えることにして、皓太は自席に戻った。こんなことで苛々するつもりもなかったのに。
誰に投票するかで新たな盛り上がりを見せ始めた一団を視認して、溜息を一つ。
「まぁ、榛名の所為っちゃ、所為かもだけど」
それよりも強く誰の所為かと問われれば、間違いなく成瀬だろう。何もあんな斜め上な方向に転がさなくとも良かったはずだ。
他にも絶対に手はあっただろうと皓太は思うのだが、榛名は相変わらず「成瀬は優しい」と妄信している。
――あいつ、思い込み激しいからなぁ。
べつに、だからどうと言うつもりもないのだが。最後に溜息を吐き出して、視線を上げた瞬間。見てしまったそれに、皓太はまた溜息を吐きたくなってしまった。
アルファたちに囲まれた中心で、水城春弥は微笑んでいる。いつも通りの「天使」と呼び称されている笑顔。そこに一瞬見えた陰りを皓太は気が付いてしまった。気に喰わないと全身で訴えるような、負のそれ。
これは、榛名が出場しなくて本当に良かったかもしれない。ひとまず、その一点に置いては、成瀬に感謝することにした。あの入学式の式辞の時点で分かっていたことではあるが、陵学園に現れたニューヒロインは、なかなかの食わせ者のようだった。
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