23 / 484
第一部
パーフェクト・ワールド・ハルⅤ ①
しおりを挟む
[5]
「失礼します。……あれ、篠原さんだけですか」
本館五階の最奥に位置する生徒会室の重厚なドアを開けて、皓太は首を傾げた。いつもならもう少し人がいるはずなのに、あるのは派手な頭一つだけだ。広い室内の中心に位置する長机から、篠原が顔を上げる。
「久しぶりだな、皓太。何だ? みささぎ祭の書類か?」
「はい。成瀬さんにサイン貰いたかったんですけど」
「あー、あいつ。しばらく帰ってこねぇかも。風紀に殴り込み中」
「風紀に殴り込み? 一人で?」
訝しげに繰り返した皓太をよそに、鬱陶しかったのか、篠原がオレンジ色に近い茶髪を無理やり襟足で一つに束ねている。器用だなと思う半分、相変わらずチャラいなと呆れ半分だ。最高学年になろうが、昔と全く変わってない。
風紀がすべきは見回りの強化ではなく服装や髪型違反者への指導ではないかと思うのだけれど。
「まさか。向原とだけど。ほら、最近、あいつらがやたら見回りしてるだろ? それが怖いって苦情……というか、相談というかが、何件かウチに来ててな」
「それで殴り込みですか。生徒会のほうから」
「いや? 少し前に、成瀬が苦情の件についてはしれっと書面で風紀に通告したんだけど、当然、回答が無くて」
「はぁ」
「そしたら、あいつ、風紀から上がってくる決裁、全部止めやがってな」
「はぁ?」
「ずっと保留にして渡さなかったら、風紀の副委員長が取り巻き連れて乗り込んできて、ここで揉めて、えーと、それが一昨日か」
もはや、「はぁ」しか言葉が出てこない。少なくとも、皓太は去年、中等部で生徒会会長を務めていたが、そんな意味の分からない揉め事を起こしたことも、起こされたこともない。
「で、とうとう本日、話合いのステージに進んだってわけ。どうやって今の学校の風紀を守るか討論会」
「なんでまた、そんな面倒な」
聞いているだけで疲れそうだ。そんな皓太の心境などお構いなしに、篠原はどこか楽しそうだ。
この人、お祭り騒ぎ好きだからなぁ。悪い人じゃないけど。皓太は思い返す。
恥ずかしながら、陵の中等部に入学するより前から、成瀬が長期休暇で戻ってくるたびに付きまとっていたので、彼の友人の何人かもそのころより知っている。
学内で人に囲まれていることは多いが、休み期間にまで一緒にいるような、ある意味で対等な友人はそう多くないのだろうが、向原と篠原はその最たるメンツだった。
「風紀のトップが本尾な時点でご察しだろ。あいつらの仲の悪さは折り紙付きだから。それよか、おまえ、風紀に絡まれたんだって?」
その長身と愛嬌から大型犬と称されている先輩の眼が、にんまりと細くなる。
なんで知られているのかとくらりと来たが、よくよく考えれば、この人たちが学内のことを知らないわけもなかった。
「たいしたことじゃないですよ」
「だろうな。おまえにとったらそうだろうってのは、俺も向原も分かるけど。肝心の兄貴分が理解してない内は意味がねぇな。残念ながら」
「……まさか、原因の一端とか言わないですよね?」
肯定されたらたまらないが、聞かずにもいれない。そんな皓太を慮ったわけではないだろうが、篠原は応とも否とも言わず、
「こっちから仕掛けたと思わせるようなヘマはしてないから、安心しろ」
と来た。
一切、そんな心配はしていないし、こんな公私混同甚だしい人のどこが優しいのか榛名に昏々と問い詰めてやりたい気分だ。返ってくるだろう反応は分かっているので実行しないが。
一つ息を吐くことで気を静めて、皓太はそのまま回れ右をした。
「失礼します。……あれ、篠原さんだけですか」
本館五階の最奥に位置する生徒会室の重厚なドアを開けて、皓太は首を傾げた。いつもならもう少し人がいるはずなのに、あるのは派手な頭一つだけだ。広い室内の中心に位置する長机から、篠原が顔を上げる。
「久しぶりだな、皓太。何だ? みささぎ祭の書類か?」
「はい。成瀬さんにサイン貰いたかったんですけど」
「あー、あいつ。しばらく帰ってこねぇかも。風紀に殴り込み中」
「風紀に殴り込み? 一人で?」
訝しげに繰り返した皓太をよそに、鬱陶しかったのか、篠原がオレンジ色に近い茶髪を無理やり襟足で一つに束ねている。器用だなと思う半分、相変わらずチャラいなと呆れ半分だ。最高学年になろうが、昔と全く変わってない。
風紀がすべきは見回りの強化ではなく服装や髪型違反者への指導ではないかと思うのだけれど。
「まさか。向原とだけど。ほら、最近、あいつらがやたら見回りしてるだろ? それが怖いって苦情……というか、相談というかが、何件かウチに来ててな」
「それで殴り込みですか。生徒会のほうから」
「いや? 少し前に、成瀬が苦情の件についてはしれっと書面で風紀に通告したんだけど、当然、回答が無くて」
「はぁ」
「そしたら、あいつ、風紀から上がってくる決裁、全部止めやがってな」
「はぁ?」
「ずっと保留にして渡さなかったら、風紀の副委員長が取り巻き連れて乗り込んできて、ここで揉めて、えーと、それが一昨日か」
もはや、「はぁ」しか言葉が出てこない。少なくとも、皓太は去年、中等部で生徒会会長を務めていたが、そんな意味の分からない揉め事を起こしたことも、起こされたこともない。
「で、とうとう本日、話合いのステージに進んだってわけ。どうやって今の学校の風紀を守るか討論会」
「なんでまた、そんな面倒な」
聞いているだけで疲れそうだ。そんな皓太の心境などお構いなしに、篠原はどこか楽しそうだ。
この人、お祭り騒ぎ好きだからなぁ。悪い人じゃないけど。皓太は思い返す。
恥ずかしながら、陵の中等部に入学するより前から、成瀬が長期休暇で戻ってくるたびに付きまとっていたので、彼の友人の何人かもそのころより知っている。
学内で人に囲まれていることは多いが、休み期間にまで一緒にいるような、ある意味で対等な友人はそう多くないのだろうが、向原と篠原はその最たるメンツだった。
「風紀のトップが本尾な時点でご察しだろ。あいつらの仲の悪さは折り紙付きだから。それよか、おまえ、風紀に絡まれたんだって?」
その長身と愛嬌から大型犬と称されている先輩の眼が、にんまりと細くなる。
なんで知られているのかとくらりと来たが、よくよく考えれば、この人たちが学内のことを知らないわけもなかった。
「たいしたことじゃないですよ」
「だろうな。おまえにとったらそうだろうってのは、俺も向原も分かるけど。肝心の兄貴分が理解してない内は意味がねぇな。残念ながら」
「……まさか、原因の一端とか言わないですよね?」
肯定されたらたまらないが、聞かずにもいれない。そんな皓太を慮ったわけではないだろうが、篠原は応とも否とも言わず、
「こっちから仕掛けたと思わせるようなヘマはしてないから、安心しろ」
と来た。
一切、そんな心配はしていないし、こんな公私混同甚だしい人のどこが優しいのか榛名に昏々と問い詰めてやりたい気分だ。返ってくるだろう反応は分かっているので実行しないが。
一つ息を吐くことで気を静めて、皓太はそのまま回れ右をした。
22
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
普通のβだった俺は
りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話
凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。
書き殴り状態なので少しずつ修正するつもりですです…。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる