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第一部
パーフェクト・ワールド・ハルⅥ ②
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「俺は夏まで帰らない予定。成瀬さんたちも残るって言ってたし」
「榛名ちゃんは本当に会長が好きなんだねぇ」
馬鹿にするでもなくしげしげと見つめられてしまって、行人は慌てて継ぎ足した。「高藤も残るって言ってたけど」
「はは、照れなくて良いのに。今、すごい可愛い顏してたよ。会長が羨ましいな。といっても、会長は、榛名ちゃんのそれが貴重だってことも知らないんだろうけど」
「だったら、会長だけ追いかけてたら良いのに」
ぼそりと発せられた声は、けれど、人の少ない食堂ではっきりと行人の耳にも届いた。四谷だ。小動物のような黒目がちな瞳が、敵意をもって行人たちを見ている。
「まぁ、でも仕方ないか。今までは榛名の一人勝ちだったかもしれないけど、これからはそうも行かないもんね」
「なにがだよ」
「あれ? なんだ。知らないの、榛名。会長と水城くんの噂」
さも意外そうに肩を竦める動作に、行人はまた苛立ちが膨れ上がっていくのを自覚した。
なんでこの学園のベータは、嫌味なヤツが多いんだ。ある意味で、アルファのほうが嫌味じゃない。無論、例外もあるが。
「ちょっと、よっちゃん。そんな顔を見るなり喧嘩吹っ掛けなくても。仲良くしなって。あと三年間一緒なんだから」
どこかで聞いたような台詞で荻原が笑いながら仲裁に入る。媚びた声で「だって」と四谷が愚図っているのに、また苛立ってしまった。
何歳のつもりだ。そして可愛いつもりか。指に力が入って、紙コップがへこむ。まだ中身は残っている。気を静める効果も狙って、まだ熱いそれを行人は一気に飲み干した。
輪に残っていた同級生と四谷が話し出したのを見て取って、荻原がこそりと声を落とす。
「ただの噂なんだけどね。聞きたい?」
「べつに」
「まぁ、いずれかは榛名ちゃんの耳に入るだろうから、慌てて今ここで聞かなくても良いかもね」
「悪い噂なのか?」
懸念が強くなった声に、荻原の目じりが下がる。「優しいね、榛名ちゃんは」
「だから、高藤も一緒にいて楽なだけだと思うんだけど。よっちゃんたちは、まぁ……だから、妬いちゃってるんだね。榛名ちゃんには不本意かもしれないけど」
優しいのは、そんなふうに解釈して見せる荻原だろう、と。嫌味ではなく思った。口にはしなかったけれど。
「ついでに言うと、噂もべつに悪い噂ではないとは思うよ。榛名ちゃんにとっては、分からないけど」
「俺にとって?」
「うん。まぁ、俺も直接その現場を見たわけじゃない又聞きの噂だけど。入学式の日さ、ハルちゃんは新入生代表だったでしょ?」
「そうだったな」
「そう。それで、会場の準備中に、ハルちゃん、一人でやってきたんだって。生徒会の人たちにも挨拶を、って」
真面目だからだろうね、と荻原が続けた。当然、誰だあの可愛い子って準備に駆り出されてた生徒は大騒ぎだったみたいだけど、そこで。
「会長と話してた時にさ、ハルちゃんが言ったらしいんだよね。僕と同じ匂いがするって」
「それ、って」
心臓が誇張ではなく跳ねたような気がした。口からは堅い声が零れ落ちる。
「うん。たぶん、榛名ちゃんの想像通り。運命のつがいってやつなんじゃないかって噂があるはある、かな」
逢えば一目で分かるとされる、アルファとオメガの間に存在する絆。行人は今まで一度も関知したことはない。無論、成瀬に対しても。
「榛名ちゃんは本当に会長が好きなんだねぇ」
馬鹿にするでもなくしげしげと見つめられてしまって、行人は慌てて継ぎ足した。「高藤も残るって言ってたけど」
「はは、照れなくて良いのに。今、すごい可愛い顏してたよ。会長が羨ましいな。といっても、会長は、榛名ちゃんのそれが貴重だってことも知らないんだろうけど」
「だったら、会長だけ追いかけてたら良いのに」
ぼそりと発せられた声は、けれど、人の少ない食堂ではっきりと行人の耳にも届いた。四谷だ。小動物のような黒目がちな瞳が、敵意をもって行人たちを見ている。
「まぁ、でも仕方ないか。今までは榛名の一人勝ちだったかもしれないけど、これからはそうも行かないもんね」
「なにがだよ」
「あれ? なんだ。知らないの、榛名。会長と水城くんの噂」
さも意外そうに肩を竦める動作に、行人はまた苛立ちが膨れ上がっていくのを自覚した。
なんでこの学園のベータは、嫌味なヤツが多いんだ。ある意味で、アルファのほうが嫌味じゃない。無論、例外もあるが。
「ちょっと、よっちゃん。そんな顔を見るなり喧嘩吹っ掛けなくても。仲良くしなって。あと三年間一緒なんだから」
どこかで聞いたような台詞で荻原が笑いながら仲裁に入る。媚びた声で「だって」と四谷が愚図っているのに、また苛立ってしまった。
何歳のつもりだ。そして可愛いつもりか。指に力が入って、紙コップがへこむ。まだ中身は残っている。気を静める効果も狙って、まだ熱いそれを行人は一気に飲み干した。
輪に残っていた同級生と四谷が話し出したのを見て取って、荻原がこそりと声を落とす。
「ただの噂なんだけどね。聞きたい?」
「べつに」
「まぁ、いずれかは榛名ちゃんの耳に入るだろうから、慌てて今ここで聞かなくても良いかもね」
「悪い噂なのか?」
懸念が強くなった声に、荻原の目じりが下がる。「優しいね、榛名ちゃんは」
「だから、高藤も一緒にいて楽なだけだと思うんだけど。よっちゃんたちは、まぁ……だから、妬いちゃってるんだね。榛名ちゃんには不本意かもしれないけど」
優しいのは、そんなふうに解釈して見せる荻原だろう、と。嫌味ではなく思った。口にはしなかったけれど。
「ついでに言うと、噂もべつに悪い噂ではないとは思うよ。榛名ちゃんにとっては、分からないけど」
「俺にとって?」
「うん。まぁ、俺も直接その現場を見たわけじゃない又聞きの噂だけど。入学式の日さ、ハルちゃんは新入生代表だったでしょ?」
「そうだったな」
「そう。それで、会場の準備中に、ハルちゃん、一人でやってきたんだって。生徒会の人たちにも挨拶を、って」
真面目だからだろうね、と荻原が続けた。当然、誰だあの可愛い子って準備に駆り出されてた生徒は大騒ぎだったみたいだけど、そこで。
「会長と話してた時にさ、ハルちゃんが言ったらしいんだよね。僕と同じ匂いがするって」
「それ、って」
心臓が誇張ではなく跳ねたような気がした。口からは堅い声が零れ落ちる。
「うん。たぶん、榛名ちゃんの想像通り。運命のつがいってやつなんじゃないかって噂があるはある、かな」
逢えば一目で分かるとされる、アルファとオメガの間に存在する絆。行人は今まで一度も関知したことはない。無論、成瀬に対しても。
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