パーフェクトワールド

木原あざみ

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第二部

パーフェクト・ワールド・レインⅠ ④

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「おまえなぁ、成瀬。そうやって笑っているが、うちの寮の問題児はおまえと向原だからな」
「問題児って、最近はなにもしてないだろ」
「直近ではそうかもな、と言ってやりたいが、もうひとりが継続中だろうが」
「向原が?」
「あいつが夜な夜な寮を抜け出していることを知らんとは言わせんぞ。朝には戻ってきているから目を瞑っているだけで、気づいてるからな、俺は」

 おまえからも言っておけ、と苦言を呈されて、成瀬は眉を下げた。言って聞くのなら、口を出すのもやぶさかではないのだが。

 ――そもそもとして、最近ふたりで話してないしなぁ。

 寮室に向原が最後に顔を出したのは、母親から着信があった夜だ。頻繁だった往来は、そこでぴたりと止んでいる。

「俺が言っても聞かないと思うけど」
「おまえが言って聞かなかったら、誰の言うことを聞くんだ」

 苦々しく言い切ってから、はたと茅野が前言を撤回した。

「いや、やっぱりいい。忘れろ。俺が言って聞かせる」
「なんだよ、急に」
「寮は俺の管轄だと思い直しただけだ。寮にいるあいだくらい、おまえはなにも考えず気楽にしていればいい」

 気遣われたらしい事実に、苦笑いになる。水城になにか言われたところで気落ちはしないが、そう見えているのなら寮に入る前に正したほうがよさそうだ。
 気を取り直して寮に目を向けたところで、成瀬は首を傾げた。正面玄関へと続く石段に、年下の幼馴染みが座っていたからである。

「皓太?」

 陰って見えた表情に足を速めて近寄ると、ぱっとその顔が上がった。

「成瀬さん。茅野さんも。ちょうどよかった」

 おかえりなさいと立ち上がった幼馴染みは、一見いつもと変わらないふうではあったのだが、覚えた違和感に声をひそめて問いかける。

「どうかしたのか?」
「どうかしたってほどのことじゃないんだけど。やだな、成瀬さん目ざといから」
「その呼び方するなって言わないから」

 いつもめげずに主張してくることをされなければ、違和感と取るだろう。にこりとほほえみかけると、皓太があからさまに嫌そうな顔をする。

「……言われたいの?」
「そういうわけではないけど。それどころじゃないことがあったのかなって」
「なんだ。なにか相談ごとか?」

 追いついてきた茅野が、「俺か、それとも、こいつか?」と交互に顔を指差してみせる。

「なんでも聞くが、どうした? 寮の中ではしにくい話だったのか」
「そういうわけではないんですけど。ただ、ちょっと、榛名に聞かれたくなかったので」
「行人に?」
「あいつ、絶対に余計なこと言いやがってって怒るから」

 いないことを確認するように背後の扉を振り返ってから、まじめな表情で切り出した。

「ふたりに聞いてもらえるとありがたいんですけど、いいですか」
「もちろん。どうしたんだ」
「あの、ちょっと前の話なんですけど、榛名が部屋の鍵なくしたこと覚えてます?」
「そういえばあったな、そんなことも」
「鍵なんてなくしてたんだ、行人」
「なんだ、知らなかったのか。ほら、あの日だ、あの日。おまえが俺の説得の邪魔をして、ミスコンを買って出た。あのときに食堂でなくしたらしいぞ。次の日に決まり悪そうな顔で届け出ていたからな、まちがいない」
「正確には、鍵をなくしたことに気づいて取りに戻ったときに茅野さんにつかまって、それで鍵を探すのが遅くなって、結果、見つからなかったっていうオチなんですけど」

 幼馴染みの補足に、成瀬は小さく笑った。それはまた、とんだ災難だったわけだ。
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