66 / 484
第二部
パーフェクト・ワールド・レインⅠ ④
しおりを挟む
「おまえなぁ、成瀬。そうやって笑っているが、うちの寮の問題児はおまえと向原だからな」
「問題児って、最近はなにもしてないだろ」
「直近ではそうかもな、と言ってやりたいが、もうひとりが継続中だろうが」
「向原が?」
「あいつが夜な夜な寮を抜け出していることを知らんとは言わせんぞ。朝には戻ってきているから目を瞑っているだけで、気づいてるからな、俺は」
おまえからも言っておけ、と苦言を呈されて、成瀬は眉を下げた。言って聞くのなら、口を出すのもやぶさかではないのだが。
――そもそもとして、最近ふたりで話してないしなぁ。
寮室に向原が最後に顔を出したのは、母親から着信があった夜だ。頻繁だった往来は、そこでぴたりと止んでいる。
「俺が言っても聞かないと思うけど」
「おまえが言って聞かなかったら、誰の言うことを聞くんだ」
苦々しく言い切ってから、はたと茅野が前言を撤回した。
「いや、やっぱりいい。忘れろ。俺が言って聞かせる」
「なんだよ、急に」
「寮は俺の管轄だと思い直しただけだ。寮にいるあいだくらい、おまえはなにも考えず気楽にしていればいい」
気遣われたらしい事実に、苦笑いになる。水城になにか言われたところで気落ちはしないが、そう見えているのなら寮に入る前に正したほうがよさそうだ。
気を取り直して寮に目を向けたところで、成瀬は首を傾げた。正面玄関へと続く石段に、年下の幼馴染みが座っていたからである。
「皓太?」
陰って見えた表情に足を速めて近寄ると、ぱっとその顔が上がった。
「成瀬さん。茅野さんも。ちょうどよかった」
おかえりなさいと立ち上がった幼馴染みは、一見いつもと変わらないふうではあったのだが、覚えた違和感に声をひそめて問いかける。
「どうかしたのか?」
「どうかしたってほどのことじゃないんだけど。やだな、成瀬さん目ざといから」
「その呼び方するなって言わないから」
いつもめげずに主張してくることをされなければ、違和感と取るだろう。にこりとほほえみかけると、皓太があからさまに嫌そうな顔をする。
「……言われたいの?」
「そういうわけではないけど。それどころじゃないことがあったのかなって」
「なんだ。なにか相談ごとか?」
追いついてきた茅野が、「俺か、それとも、こいつか?」と交互に顔を指差してみせる。
「なんでも聞くが、どうした? 寮の中ではしにくい話だったのか」
「そういうわけではないんですけど。ただ、ちょっと、榛名に聞かれたくなかったので」
「行人に?」
「あいつ、絶対に余計なこと言いやがってって怒るから」
いないことを確認するように背後の扉を振り返ってから、まじめな表情で切り出した。
「ふたりに聞いてもらえるとありがたいんですけど、いいですか」
「もちろん。どうしたんだ」
「あの、ちょっと前の話なんですけど、榛名が部屋の鍵なくしたこと覚えてます?」
「そういえばあったな、そんなことも」
「鍵なんてなくしてたんだ、行人」
「なんだ、知らなかったのか。ほら、あの日だ、あの日。おまえが俺の説得の邪魔をして、ミスコンを買って出た。あのときに食堂でなくしたらしいぞ。次の日に決まり悪そうな顔で届け出ていたからな、まちがいない」
「正確には、鍵をなくしたことに気づいて取りに戻ったときに茅野さんにつかまって、それで鍵を探すのが遅くなって、結果、見つからなかったっていうオチなんですけど」
幼馴染みの補足に、成瀬は小さく笑った。それはまた、とんだ災難だったわけだ。
「問題児って、最近はなにもしてないだろ」
「直近ではそうかもな、と言ってやりたいが、もうひとりが継続中だろうが」
「向原が?」
「あいつが夜な夜な寮を抜け出していることを知らんとは言わせんぞ。朝には戻ってきているから目を瞑っているだけで、気づいてるからな、俺は」
おまえからも言っておけ、と苦言を呈されて、成瀬は眉を下げた。言って聞くのなら、口を出すのもやぶさかではないのだが。
――そもそもとして、最近ふたりで話してないしなぁ。
寮室に向原が最後に顔を出したのは、母親から着信があった夜だ。頻繁だった往来は、そこでぴたりと止んでいる。
「俺が言っても聞かないと思うけど」
「おまえが言って聞かなかったら、誰の言うことを聞くんだ」
苦々しく言い切ってから、はたと茅野が前言を撤回した。
「いや、やっぱりいい。忘れろ。俺が言って聞かせる」
「なんだよ、急に」
「寮は俺の管轄だと思い直しただけだ。寮にいるあいだくらい、おまえはなにも考えず気楽にしていればいい」
気遣われたらしい事実に、苦笑いになる。水城になにか言われたところで気落ちはしないが、そう見えているのなら寮に入る前に正したほうがよさそうだ。
気を取り直して寮に目を向けたところで、成瀬は首を傾げた。正面玄関へと続く石段に、年下の幼馴染みが座っていたからである。
「皓太?」
陰って見えた表情に足を速めて近寄ると、ぱっとその顔が上がった。
「成瀬さん。茅野さんも。ちょうどよかった」
おかえりなさいと立ち上がった幼馴染みは、一見いつもと変わらないふうではあったのだが、覚えた違和感に声をひそめて問いかける。
「どうかしたのか?」
「どうかしたってほどのことじゃないんだけど。やだな、成瀬さん目ざといから」
「その呼び方するなって言わないから」
いつもめげずに主張してくることをされなければ、違和感と取るだろう。にこりとほほえみかけると、皓太があからさまに嫌そうな顔をする。
「……言われたいの?」
「そういうわけではないけど。それどころじゃないことがあったのかなって」
「なんだ。なにか相談ごとか?」
追いついてきた茅野が、「俺か、それとも、こいつか?」と交互に顔を指差してみせる。
「なんでも聞くが、どうした? 寮の中ではしにくい話だったのか」
「そういうわけではないんですけど。ただ、ちょっと、榛名に聞かれたくなかったので」
「行人に?」
「あいつ、絶対に余計なこと言いやがってって怒るから」
いないことを確認するように背後の扉を振り返ってから、まじめな表情で切り出した。
「ふたりに聞いてもらえるとありがたいんですけど、いいですか」
「もちろん。どうしたんだ」
「あの、ちょっと前の話なんですけど、榛名が部屋の鍵なくしたこと覚えてます?」
「そういえばあったな、そんなことも」
「鍵なんてなくしてたんだ、行人」
「なんだ、知らなかったのか。ほら、あの日だ、あの日。おまえが俺の説得の邪魔をして、ミスコンを買って出た。あのときに食堂でなくしたらしいぞ。次の日に決まり悪そうな顔で届け出ていたからな、まちがいない」
「正確には、鍵をなくしたことに気づいて取りに戻ったときに茅野さんにつかまって、それで鍵を探すのが遅くなって、結果、見つからなかったっていうオチなんですけど」
幼馴染みの補足に、成瀬は小さく笑った。それはまた、とんだ災難だったわけだ。
12
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—
水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。
幼い日、高校、そして大学。
高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。
運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
時間を戻した後に~妹に全てを奪われたので諦めて無表情伯爵に嫁ぎました~
なりた
BL
悪女リリア・エルレルトには秘密がある。
一つは男であること。
そして、ある一定の未来を知っていること。
エルレルト家の人形として生きてきたアルバートは義妹リリアの策略によって火炙りの刑に処された。
意識を失い目を開けると自称魔女(男)に膝枕されていて…?
魔女はアルバートに『時間を戻す』提案をし、彼はそれを受け入れるが…。
なんと目覚めたのは断罪される2か月前!?
引くに引けない時期に戻されたことを嘆くも、あの忌まわしきイベントを回避するために奔走する。
でも回避した先は変態おじ伯爵と婚姻⁉
まぁどうせ出ていくからいっか!
北方の堅物伯爵×行動力の塊系主人公(途中まで女性)
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる