パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅥ ②

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「あの、成瀬さん……、祥くん」
「ん? どうした」
「仲直りしたら? 俺が言うようなことじゃないとは思うけど」

 この人が、年下の幼馴染みに甘いなんて、誰に言われなくても自分が一番知っている。
 だから皓太は、幼さを前面に押し出した口調のまま続けた。

「それが一番手っ取り早いよ。補選の準備もしなくてよくなるし。この時期にそんなことするの大変でしょ?」

 ――あの向原さんが、こう出るってことはよっぽどだったんだとは思うけど。でも。

 それでも、この人が歩み寄りさえすれば、あの人は折れる。そう言い切れるだけの確信が皓太にはあった。だって、もう何年も見てきているのだ。

「んー、まぁ、そうだな」

 困ったような笑みに、自分の目論見が外れたことを知る。これもまた、何度も見たことのある顔だったからだ。
 無理なわがままを言うと、彼はよくこういった顔をした。そうして根気よくできない理由を言い聞かせてくれたものだった。 
 年下の自分に甘くて優しい人だけれど、同時に、だからといって自分の意志を曲げてくれる人ではない。

「ごめんな。気にさせて」
「いや、……うん」
「でも、喧嘩してるわけじゃないから」

 だから大丈夫、と続いた言葉に、もやもやとしたものを呑み込んでもう一度頷く。そう言われてしまえば、それ以上はなにも言えなかった。
 変わらない表情をじっと見つめたまま、もしかしたら、と皓太は思った。
 もしかしたら、喧嘩をしていない、というのは、本当なのかもしれない。幼馴染みの勘としか言いようがないもので、根拠もなにもないのだが。
 
 ――でも、だとすると余計に面倒なことになりそうな気もするんだけど。

 喧嘩じゃないならなんなのだ、という話になってしまいかねない。

「それで、どうする? さっき言ったとおりで、無理にとは言わないけど」

 自分の話はもう終わりだとする笑顔を前に、こぼれそうになったのは溜息だ。なにもかも、変わらなさすぎて嫌になる。
 それも、あの人の前だったら違うのかなって思ってたんだけどな。これにも根拠なんてなにもないけれど、それでも、見ていたからわかるつもりだ。
 昔から、お互いのことが一番だと思っていた、ということくらい。
 溜息を苦笑に変えて、皓太は頷いた。榛名のことがあるから引き受けると思われているらしいのは、少しばかり癪ではあったのだが。

「わかった。いいよ」
「よかった。そう言ってもらえると、すごく助かる。しばらくは忙しくなるから、大変になると思うけど」
「それはぜんぜん。あ、……でも、そうなったら、寮生委員会辞めないと駄目だよね。フロア長は荻原に代わってもらうとしても、副フロア長は茅野さんに選定してもらわないと」

 このあとにでも茅野さんに言いに行かないとな、と考えていると、さらりと請け負われてしまった。

「いいよ。茅野には俺から言っておくから」
「いや、それはさすがに俺が言うよ」
「なんで? 無理に頼んだのは俺なんだし」

 わかっていない顔に、わずかに皓太は言い淀んだ。
 自分の小さいプライドが成せるものなのか。それともこの人が自分の面倒を見ることをもはや意識もしていないからなのか。
 だから保護者だって言われるんだよ、とはあまり言葉にしたくなかったのだけれど。
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