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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅥ ④
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「わかった。寮生委員の補充についてはこっちで調整する。ただし、これは貸しだからな。いいな?」
「なんか、最近、俺、借りてばっかりだな」
しかたなくといった調子に、成瀬が苦笑する。本人はさして意識していなかったのだろうが、なんだか引っかかってしまった。
逡巡の末に、皓太は呼びかけることを選んだ。
「ねぇ、成瀬さん」
「あ、また、その呼び方に戻った。茅野のせいだぞ」
「なんでもかんでも俺のせいにするな。そもそもとして、年下を甘やかしすぎるのはおまえの悪い癖だと、俺に限らず言われてるだろう」
「だって、かわいいから、つい。――ごめん、皓太。なんだった?」
「いや、あの。借りてばっかりって、本尾先輩だよね」
「本尾?」
その名前に、茅野の語尾が跳ね上がる。
「おまえ、またなにかしたのか」
「してねぇよ、なにも」
「嘘を吐くな、嘘を。べつにおまえに聞かなくても、高藤に聞けばすむ話なんだからな?」
あれ、もしかして余計なこと言ったかな、俺。成瀬の嫌そうな顔と、茅野の剣幕とを見比べていると、茅野がぐるりとこちらに向き直った。
「なぁ、高藤。おまえもまさかそんな中途半端に口にして、いまさらだんまりを決め込むつもりはないよな」
「え……、と」
「おい、ちょっと、茅野。皓太に絡むなよ」
だから保護者と評したくなるんだという素早さで、成瀬が言い返したが、茅野も負けてはいない。
「あのな。何度も口を酸っぱくして言っていると思うんだが」
「……なんだよ」
「そうやって、おまえがなんでもかんでもひとりで処理できると溜め込んだことで、揉めかけたことが何度あった?」
「かけた、だろ。揉めてねぇよ、一度も」
「誰が火消しをしたからだと思ってるんだ、おまえは!」
いっそ清々しいほど成瀬はしれっとしていたが、相反して茅野の声はやりとりを増すごとに苦々しくなっている。
巻き込まれないように気配を消しながら、皓太は春先のできごとに思いを馳せていた。
同室者がミスコンの件で揉めに揉めた挙句、よくわからない着地点に巻き込まれたらしいと知ったときは、もうちょっとどうにかできなかったのかよ、と半ば呆れていたのだが。
――しかたなかったんだな、あれ。
こんな人目のある場所で櫻寮のトップふたりに挟まれ、揉められ、どうにかなんてできるわけがない。
いまさらながら同情していると、ふいに茅野と目が合った。
「なぁ、おい。高藤」
いつもより低い威圧感のある声に、思わず背筋が伸びる。そうだ、この人もアルファなんだよな。おそらくは、普段は感じさせないようにしている、というだけで。
「おまえも、おまえの兄貴分が窮地に追い込まれるところなんて見たくないだろう?」
どんな脅し方だよ、と思ったものの、このまま黙っていても、説明しても、面倒ごとは避けられない。どちらがマシだろうかと自問する。まぁ、するまでもなく答えは出ていたのだけれど。
自分を責めないだろう幼馴染みに心の中で謝って、皓太は口を開いた。
「なんか、最近、俺、借りてばっかりだな」
しかたなくといった調子に、成瀬が苦笑する。本人はさして意識していなかったのだろうが、なんだか引っかかってしまった。
逡巡の末に、皓太は呼びかけることを選んだ。
「ねぇ、成瀬さん」
「あ、また、その呼び方に戻った。茅野のせいだぞ」
「なんでもかんでも俺のせいにするな。そもそもとして、年下を甘やかしすぎるのはおまえの悪い癖だと、俺に限らず言われてるだろう」
「だって、かわいいから、つい。――ごめん、皓太。なんだった?」
「いや、あの。借りてばっかりって、本尾先輩だよね」
「本尾?」
その名前に、茅野の語尾が跳ね上がる。
「おまえ、またなにかしたのか」
「してねぇよ、なにも」
「嘘を吐くな、嘘を。べつにおまえに聞かなくても、高藤に聞けばすむ話なんだからな?」
あれ、もしかして余計なこと言ったかな、俺。成瀬の嫌そうな顔と、茅野の剣幕とを見比べていると、茅野がぐるりとこちらに向き直った。
「なぁ、高藤。おまえもまさかそんな中途半端に口にして、いまさらだんまりを決め込むつもりはないよな」
「え……、と」
「おい、ちょっと、茅野。皓太に絡むなよ」
だから保護者と評したくなるんだという素早さで、成瀬が言い返したが、茅野も負けてはいない。
「あのな。何度も口を酸っぱくして言っていると思うんだが」
「……なんだよ」
「そうやって、おまえがなんでもかんでもひとりで処理できると溜め込んだことで、揉めかけたことが何度あった?」
「かけた、だろ。揉めてねぇよ、一度も」
「誰が火消しをしたからだと思ってるんだ、おまえは!」
いっそ清々しいほど成瀬はしれっとしていたが、相反して茅野の声はやりとりを増すごとに苦々しくなっている。
巻き込まれないように気配を消しながら、皓太は春先のできごとに思いを馳せていた。
同室者がミスコンの件で揉めに揉めた挙句、よくわからない着地点に巻き込まれたらしいと知ったときは、もうちょっとどうにかできなかったのかよ、と半ば呆れていたのだが。
――しかたなかったんだな、あれ。
こんな人目のある場所で櫻寮のトップふたりに挟まれ、揉められ、どうにかなんてできるわけがない。
いまさらながら同情していると、ふいに茅野と目が合った。
「なぁ、おい。高藤」
いつもより低い威圧感のある声に、思わず背筋が伸びる。そうだ、この人もアルファなんだよな。おそらくは、普段は感じさせないようにしている、というだけで。
「おまえも、おまえの兄貴分が窮地に追い込まれるところなんて見たくないだろう?」
どんな脅し方だよ、と思ったものの、このまま黙っていても、説明しても、面倒ごとは避けられない。どちらがマシだろうかと自問する。まぁ、するまでもなく答えは出ていたのだけれど。
自分を責めないだろう幼馴染みに心の中で謝って、皓太は口を開いた。
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