パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅥ ⑤

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「あの、……なんと言いますか、その、あまり大きな声で言いたくはない一件のときの話なんですか」
「なんだ、それのことか」

 思い当たったらしく、茅野が頷いた。なかなかに嫌そうだったが。

「このあいだも必要以上に風紀のところで挑発していたからな。てっきり新たにやらしかたのかと思ったぞ」
「だからやってないって言ったのに」
「それだけおまえの信用がないということだろう」

 あっさりと切り返されて、成瀬が黙り込む。この学園に入ってくるまでは見たことのなかった類の表情。
 はじめて目にしたとき、驚いたことを皓太は覚えている。幼馴染みに苦言を呈せるような同年代の人間は、ひとりとしていなかったからだ。
 同時に、そういう人たちがいてよかったと安心もしていたのだけれど。

「俺が言わなくても理解していると思いたいんだが。おまえが言っていたような『ふたりきり』とやらはやめておけよ。ろくなことになる気がしない」
「だから、しないって」

 うんざりといった態度を隠すこともなく、あのな、と成瀬が続ける。

「俺もべつにそんな面倒なことしたくないんだって。そもそも、あいつが本当に構ってほしいのは――いや、なんでもない」

 そこまで言ったところで、自分の存在を思い出したらしい。成瀬が中途半端に言葉を濁した。
 その様子に、皓太は中座することに決めた。
 これ以上聞かないほうがいいのだろう。たぶん、俺のためにも。ふたりで話したいこともあるかもしれないし。

「すみません。それじゃ、そろそろ失礼します」
「高藤」

 予想外に呼び止められて、皓太は足を止めて振り返った。

「どうかしましたか?」
「あぁ、いや。寮生委員会のことだ。フロア長は繰り上がりで荻原に頼むとして、副フロア長は榛名でもいいかと思ってるんだが、どう思う?」
「榛名、ですか」

 続いた予想外に、困惑したような反応になってしまった。寮生委員会のことに口を挟む気はないのか、成瀬はなにも言わない。

「そうだ。みささぎ祭のときも、よく働いてくれていたしな」
「本人がやると言うなら、問題はないと思いますけど」

 茅野の言うとおりで、榛名は根が真面目だから、役割を与えられたらしっかりとこなすだろう。寮内での対人関係も以前のことを思えばずっとよくなっている。そういう意味では、寮生委員をやってもいいのかもしれない。本人にとっても、まちがいなくプラスになる。

 ――でも、それだけじゃないよな、これ。

 どう使うかは榛名次第だろうが、つがいのいるオメガ、というほかに、もうひとつ権力を与えようとしているのだ。
 なんとなくはっきりと言葉にはしたくなくて、皓太は荻原の名前を出した。

「荻原も、ちゃんと面倒見てくれると思いますし、いいと思います」

 けれど、これも事実だ。荻原は昔から榛名のことを気に入っているし、みささぎ祭の実行委員を一緒にやったことで、榛名も荻原に心を許した態度を取っている。問題なくうまくやれるはずだ。
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