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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅥ ⑥
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荻原はいいやつだ。建前ではなく本心でそう思っているはずなのに、なぜか胸が嫌なふうにちくりと痛んだ。
その痛みを無視して、皓太は繰り返した。
べつにあたりまえのことだ。同室だったから、あるいは、榛名が、同学年の生徒に対して一律に壁をつくっていたから、自分が率先して面倒を見ていただけで、自分じゃなくても榛名の面倒を見たいと思っていた人間はいくらでもいたのだろうと思う。
それをあいつが受け入れなかったというだけで。
「榛名も荻原にはそれなりに懐いてますから。うまくいくんじゃないですか」
成瀬と茅野が顔を見合わせていたような気もしたのだが、その場を離れる。質問には答えたのだから、まぁいいだろう。
それに、なにを苛々しているのか、だなんて聞かれたくない。
「あれ、どうしたの。高藤、怖い顔して」
階段の踊り場で鉢合わせた荻原に指摘されて、ぎこちなくほほえむ。噂って怖いな、とどうでもいいことを考えながら。
「そんな顔してた、俺」
「してた、してた。高藤、やっぱり美形だから、怒ってる顔してると、迫力あるよ。このあいだも、ほら、榛名ちゃんのクラスで威嚇したんだって?」
「威嚇って」
苦笑した皓太の肩を、荻原が叩く。
「まぁ、でも、高藤がそうやって怖い顔してるあいだは、榛名ちゃんに手ぇ出そうとする馬鹿もいないでしょ。少なくとも、俺らの学年には」
だからいいのだというようなあっさりとした態度。じゃあね、と笑って、荻原は階段を下りていく。
その後姿に張り付いていた視線を引き剥がして、皓太も階段に足をかけた。荻原はこういったときの距離感の取り方がうまい。必要以上に踏み込んでこないし、そうかといって気を使いすぎて場の空気を重くすることもない。
だから、榛名も一緒に仕事をする中で楽だと感じたのだろう。
――「つがいごっこ」の相手も、俺じゃなくて荻原だったら、あそこまで嫌な顔しなかったかもな、あいつ。
あのときは、榛名自身も自分のことでいっぱいいっぱいだっただろうと思うことで、気にしないように努めた。
けれど、だからと言って、気にならなかったはずがない。溜息を押し込んで、自室に鍵を差し込む。もともと榛名は、自分ひとりしか部屋にいないときはしっかりと内鍵をかけていた。最初のうちは神経質だなと思っていたけれど、今はそれでいいと思っている。
なにもなければいいが、あってからでは遅いからだ。
「おかえり」
机に向ったまま、ぽつりと榛名が呟く。視線はずっと参考書に落ちていたから、ドアの開く音に反応しただけにちがいない。
「うん。ただいま」
眉間に皺の寄った難しい横顔を見つめたまま、そう応える。このやりとりも、三年という時間の中で育ってきたものだ。昔は、挨拶も一方通行だった。
それが無意識で行われるくらいになったのだ。愛着くらい湧く。そう言い聞かせる。
たとえ「ごっこ」だとしても相手を譲りたくないと思ってしまったのは、そのせいだ。恋なんてものじゃない。
友人として、できる手助けがあるのなら、してやりたいとは思っているけれど。そこにそれ以上の深い意味はない。そう思っていたかった。
その痛みを無視して、皓太は繰り返した。
べつにあたりまえのことだ。同室だったから、あるいは、榛名が、同学年の生徒に対して一律に壁をつくっていたから、自分が率先して面倒を見ていただけで、自分じゃなくても榛名の面倒を見たいと思っていた人間はいくらでもいたのだろうと思う。
それをあいつが受け入れなかったというだけで。
「榛名も荻原にはそれなりに懐いてますから。うまくいくんじゃないですか」
成瀬と茅野が顔を見合わせていたような気もしたのだが、その場を離れる。質問には答えたのだから、まぁいいだろう。
それに、なにを苛々しているのか、だなんて聞かれたくない。
「あれ、どうしたの。高藤、怖い顔して」
階段の踊り場で鉢合わせた荻原に指摘されて、ぎこちなくほほえむ。噂って怖いな、とどうでもいいことを考えながら。
「そんな顔してた、俺」
「してた、してた。高藤、やっぱり美形だから、怒ってる顔してると、迫力あるよ。このあいだも、ほら、榛名ちゃんのクラスで威嚇したんだって?」
「威嚇って」
苦笑した皓太の肩を、荻原が叩く。
「まぁ、でも、高藤がそうやって怖い顔してるあいだは、榛名ちゃんに手ぇ出そうとする馬鹿もいないでしょ。少なくとも、俺らの学年には」
だからいいのだというようなあっさりとした態度。じゃあね、と笑って、荻原は階段を下りていく。
その後姿に張り付いていた視線を引き剥がして、皓太も階段に足をかけた。荻原はこういったときの距離感の取り方がうまい。必要以上に踏み込んでこないし、そうかといって気を使いすぎて場の空気を重くすることもない。
だから、榛名も一緒に仕事をする中で楽だと感じたのだろう。
――「つがいごっこ」の相手も、俺じゃなくて荻原だったら、あそこまで嫌な顔しなかったかもな、あいつ。
あのときは、榛名自身も自分のことでいっぱいいっぱいだっただろうと思うことで、気にしないように努めた。
けれど、だからと言って、気にならなかったはずがない。溜息を押し込んで、自室に鍵を差し込む。もともと榛名は、自分ひとりしか部屋にいないときはしっかりと内鍵をかけていた。最初のうちは神経質だなと思っていたけれど、今はそれでいいと思っている。
なにもなければいいが、あってからでは遅いからだ。
「おかえり」
机に向ったまま、ぽつりと榛名が呟く。視線はずっと参考書に落ちていたから、ドアの開く音に反応しただけにちがいない。
「うん。ただいま」
眉間に皺の寄った難しい横顔を見つめたまま、そう応える。このやりとりも、三年という時間の中で育ってきたものだ。昔は、挨拶も一方通行だった。
それが無意識で行われるくらいになったのだ。愛着くらい湧く。そう言い聞かせる。
たとえ「ごっこ」だとしても相手を譲りたくないと思ってしまったのは、そのせいだ。恋なんてものじゃない。
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