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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅧ ④
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「どうしたの? 高藤とうまくいってないの?」
「いや、……そういうわけじゃないけど。その、あいつ忙しそうだし」
「それは、まぁ、そうかもね」
うーんと苦笑してから、あのね、と荻原が口火を切った。
「あの高藤は、なかなか怖かった」
「怖い?」
「うん。榛名ちゃんと付き合ってるんですって、宣言した日。榛名ちゃんの教室でもやったと思うけど、うちのクラスでもやったんだよ」
「え……」
「あれ、知らなかった? まぁ、榛名ちゃんのクラスだけでもよかったのかもしれないけど。ハルちゃんとかの周囲にもはっきり言っておいたほうがいいだろうってことで、言う予定は予定だったんだよ」
ただ、と荻原は少しだけ言いにくそうに笑った。
「正直、あそこまでやるとは思わなかった、というか」
「あそこまで?」
あの、基本的に穏やかで、冷静で、余計な争いを好まないタイプの男のした「あそこまで」というのが想像できなくて、行人は首を傾げた。
そもそもとして、高藤からなにも聞いていなかったのだ。
「なんかね、こういう言い方はあんまりよくないかもしれないけど、すごくアルファって感じだった。なんか、……会長っていうよりは、向原先輩みたいな」
言いながら、自分の言葉に納得したように、うん、と荻原が頷く。
「高藤は会長に似てるって思ってたけど、違ってたのかもって思っちゃったくらい」
どうとも反応しづらくて、行人は目を伏せた。そう感じていたのは、自分も同じだったけれど。何度も思った。似ていると。
姿かたちというよりは――いや、姿かたちもどちらに似ているかと問われたら、まちがいなく成瀬だとは思うけれど――、物事の考え方の話だ。
何事にも公平で、冷静。優しいけれど、周囲に流されることを良しとはしなくて、いつも自分の意志で進んでいる。
そういう人だと、思っていた。
「あ、高藤って、こんなふうにもできたんだなって。でも、今までしてこなかったんだなって。すげぇいいやつだよね、やっぱり。それで、すごいやつ」
「……うん」
「あと、やっぱりすごく榛名ちゃんのこと大事にしてるんだね」
思わず顔を上げた行人をまっすぐに見つめたまま、荻原がにことほほえむ。
「だって、あれは、榛名ちゃんのためだったんだよ」
そんなことはない、とも言えなかった。自分たちの関係はまやかしのものだ。そのことを知らないから、荻原はそう言っているだけ。わかっているから、だから、言えなかった。
その行人の沈黙をどうとったのか、慰めるように荻原がさらに声音を優しいものにする。
「俺はふたりじゃないから、榛名ちゃんと高藤のことはわからないけどさ、でも、間違いないってわかることもあるよ。高藤はちゃんと榛名ちゃんのことが好きだよ」
「……でも、」
「だから、安心して」
こちらの言葉を遮って、にこりとほほえむ。その笑顔も言葉も、すべて行人を気遣ってくれているものだとわかっていたから、跳ねのけられなかった。
そう思うくらいには、行人は荻原という同級生が好きだった。一年前の自分だったら、きっとこんなふうには思えなかった。そう思いながら、ぽつりとこぼす。
「荻原って、アルファっぽくないよな」
「はは、なんか榛名ちゃんに言われると、誉め言葉に聞こえちゃうな」
「え?」
「だって、榛名ちゃん、アルファ嫌いでしょ」
その言葉に、行人は息を呑んだ。図星だったからだ。
「いや、……そういうわけじゃないけど。その、あいつ忙しそうだし」
「それは、まぁ、そうかもね」
うーんと苦笑してから、あのね、と荻原が口火を切った。
「あの高藤は、なかなか怖かった」
「怖い?」
「うん。榛名ちゃんと付き合ってるんですって、宣言した日。榛名ちゃんの教室でもやったと思うけど、うちのクラスでもやったんだよ」
「え……」
「あれ、知らなかった? まぁ、榛名ちゃんのクラスだけでもよかったのかもしれないけど。ハルちゃんとかの周囲にもはっきり言っておいたほうがいいだろうってことで、言う予定は予定だったんだよ」
ただ、と荻原は少しだけ言いにくそうに笑った。
「正直、あそこまでやるとは思わなかった、というか」
「あそこまで?」
あの、基本的に穏やかで、冷静で、余計な争いを好まないタイプの男のした「あそこまで」というのが想像できなくて、行人は首を傾げた。
そもそもとして、高藤からなにも聞いていなかったのだ。
「なんかね、こういう言い方はあんまりよくないかもしれないけど、すごくアルファって感じだった。なんか、……会長っていうよりは、向原先輩みたいな」
言いながら、自分の言葉に納得したように、うん、と荻原が頷く。
「高藤は会長に似てるって思ってたけど、違ってたのかもって思っちゃったくらい」
どうとも反応しづらくて、行人は目を伏せた。そう感じていたのは、自分も同じだったけれど。何度も思った。似ていると。
姿かたちというよりは――いや、姿かたちもどちらに似ているかと問われたら、まちがいなく成瀬だとは思うけれど――、物事の考え方の話だ。
何事にも公平で、冷静。優しいけれど、周囲に流されることを良しとはしなくて、いつも自分の意志で進んでいる。
そういう人だと、思っていた。
「あ、高藤って、こんなふうにもできたんだなって。でも、今までしてこなかったんだなって。すげぇいいやつだよね、やっぱり。それで、すごいやつ」
「……うん」
「あと、やっぱりすごく榛名ちゃんのこと大事にしてるんだね」
思わず顔を上げた行人をまっすぐに見つめたまま、荻原がにことほほえむ。
「だって、あれは、榛名ちゃんのためだったんだよ」
そんなことはない、とも言えなかった。自分たちの関係はまやかしのものだ。そのことを知らないから、荻原はそう言っているだけ。わかっているから、だから、言えなかった。
その行人の沈黙をどうとったのか、慰めるように荻原がさらに声音を優しいものにする。
「俺はふたりじゃないから、榛名ちゃんと高藤のことはわからないけどさ、でも、間違いないってわかることもあるよ。高藤はちゃんと榛名ちゃんのことが好きだよ」
「……でも、」
「だから、安心して」
こちらの言葉を遮って、にこりとほほえむ。その笑顔も言葉も、すべて行人を気遣ってくれているものだとわかっていたから、跳ねのけられなかった。
そう思うくらいには、行人は荻原という同級生が好きだった。一年前の自分だったら、きっとこんなふうには思えなかった。そう思いながら、ぽつりとこぼす。
「荻原って、アルファっぽくないよな」
「はは、なんか榛名ちゃんに言われると、誉め言葉に聞こえちゃうな」
「え?」
「だって、榛名ちゃん、アルファ嫌いでしょ」
その言葉に、行人は息を呑んだ。図星だったからだ。
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