パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドⅧ ⑤

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「ごめんね。そんな申し訳なさそうな顔してなくていいんだよ。俺には、……その、ごめん。榛名ちゃんの、オメガの子の気持ちはわからないけど、でも、俺たちアルファを警戒したり嫌いだって思ってもしょうがないとは思うよ」

 変わらない穏やかな調子に恥ずかしくなって、小さく頷く。自分の視野が狭いことも、アルファが軒並み嫌な人間ではないことも頭ではわかっているのだ。

「それで、これはたぶん俺の勝手でわがままだけど、アルファだから、じゃなくて、いつか俺っていう個人を見てくれたらうれしいなとは思うけど」
「……うん」
「でも、たぶんこれも俺がアルファだから言えることなんだよね」

 そんなことはないと否定するよりも先に、荻原がにこりと笑った。

「そういうこともぜんぶ榛名ちゃんが気づかせてくれた」

 ありがとうね、と続いた言葉に、返すべきものがなになのかわからなくて、頷くことしかできなかった。
 嘘だと思ったわけでも、偽善だと腹立たしく思ったわけでもない。ただわからなかったのだ。自分と高藤の、今のこの関係は、荻原や、四谷や、いろんな人を騙している。それなのに、こんなふうに優しくしてもらったら、なにも言えない。
 苦しいと思うことは、それこそ自分の勝手だとわかっていたけれど。

 けれど、それだけじゃなかったのだと、今になって、やっとわかった。騙しているだとか、自分が苦しいだとか、それだけじゃなくて。
 俺は、高藤にあんなことを言わせなかったわけじゃなかった。背負わせたかったわけでも、なかった。
 高藤は真面目な、いいやつだから。だから、きっと、自分とつがいであるということにする、という話を引き受けたときに、ここまでのことを考えていてくれていたのだ。
 俺は、自分と、あの人のことしか考えてなかったのに。

 いつもならそんなことは思わないのに、部屋が息苦しくて、沈黙が気になってしかたがなくて、消灯時間は過ぎていたのに抜け出した。こんなことをするのも、随分とひさしぶりのことだった。
 中等部に入学してすぐのころは、他人と、アルファとふたりきりというのに慣れなくて、――それだけではなかったのだけれど、よく抜け出していたから。
 勝手に足が向いてしまった部屋の前で、行人は手を握りしめた。簡単にノックできるはずの扉が、今夜に限って重たく見える。
 いや、今夜に限ってではないのかもしれない。扉を見つめたまま、そう思い直す。もともと、そうであるべき場所だったのだ。最上級生の、それも、トップクラスの有名人の部屋。
 それなのに、ほんの半月ほど前までの自分にとっては、気軽に立ち入れる場所だった。
 気軽と言ってしまうと、それもまた語弊があるかもしれない。けれど、緊張しながらドアを叩くのが好きで、優しい笑顔で受け入れてもらえることが幸せだった。それだけで満たされると思うくらいに。

 そのドアが、ゆっくりと内側から開いた。
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