パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンドΦ ③

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 *

 目の前の男に言いたいことは山ほどあるのに、総括すると「なんだかな」という一言に尽きてしまう。
 それはそれで諦めの境地みたいでいやだなと思いながら、反省のかけらもない顔に茅野は呼びかけた。

「向原、おまえなぁ」

 寮の相談室という名の、指導室である。当然、呼び出した名目は、生活指導。同じ指導でも、後輩が相手ならここまで威圧するような声は出さないが、相手が相手だ。
 うんざりとした感情を隠しもしないまま、茅野は言い募った。

「なんで自分がここに呼ばれたかくらいは、わかってるよなぁ」
「さぁ、なんだったかな」
「おまえが! クソ目立つところで! 本尾と派手にやりあったからだろうが!」

 新年度開始早々になにを面倒ごとを増やしてくれているのか、との不満が指先からあふれ出す。爪先で机を叩けば、うるさいとばかりの溜息が返ってきた。溜息なんて、俺が吐きたい。
 茅野はこれみよがしに溜息を吐き返した。

「おまえなぁ、一年生も入ってきたばっかりなんだぞ。それなのに。なんでよりにもよって、生徒会と風紀という、この学園を抑えるべき側の人間がやり合うような事態になるんだ」
「運が悪かったな。もはや、寮生委員会しか残らなかったわけだ」
「説教する人間がな!」

 こちらだって、新入生が入ってきたばかりでいろいろと大変なのだ。そうでなくとも、一年の中で一番を争う忙しい時期なのに、今年は面倒な新入りが混じっている。

 ――いや、まぁ、本人が悪いわけではないんだが。

 そう。悪いのは、かわいい容姿に簡単に惑わされる馬鹿のほうだ。

「災難だったな」
「だから、誰のせいだと。……いや、まぁ、いい。まぁ、いいが」

 完全に他人ごとの態度にイラっときたものの、どうにか茅野は切り替えた。ここで感情的に詰ったところで、事態が進展することはない。

「聞きたくはないが、このあいだの件が絡んでるのか」
「このあいだ?」
「とぼけるな。あいつらを追い出しただろう」

 少し前のことだ。寮内で新入生が三年生に襲われる事案があった。かわいい容姿の一年生に、簡単に惑わされた馬鹿が起こしたことだ。
 幸いなことに未遂だったが、加害側の生徒には退学処分が下った。
 もともと素行のいい連中ではなかった。それは事実だ。けれど、重すぎる。
誰かが根回しをしなければ、あんな処分にはならなかったはずだ。そして、そう踏んでいるのは、自分だけではない。

「あいつらは、風紀の所属だったからな」

 本尾に付け入る隙を与えたわけだ。そう言うと、向原が小さく笑った。

「人聞きの悪い。学園側が決めた正当な処分だろ? それに、おまえも問題児がいないほうが楽なんじゃないのか」
「……ある意味で、うちの寮の一番の問題児はおまえと成瀬なんだがな」

 自覚がないとは言わないでもらいたい。おのずと視線が恨みがましくなる。好き勝手ばかりしていると糾弾までするつもりはないが、いかんせん影響力が強すぎるのだ。
 その強い影響力のおかげで減った問題ごともあるにはあるが、増えていることもあるわけで。
 今回の件に関して言えば、その好き勝手で榛名は救われたわけだが、結果オーライとは言い難い。
 溜息まじりに、茅野は口火を切った。
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