パーフェクトワールド

木原あざみ

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第三部

パーフェクト・ワールド・エンド18 ③

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 ――あんな向原さん見たの、はじめてだったからな。

 感情の軸がぶれなくていつも冷静な、頭のいい人。それが皓太から見た向原の印象のすべてだった。中等部に入学する前から見知っているが、感情的な態度を取ったところを見た記憶はない。
 だから、あの夜、本当に驚いたのだ。向原と成瀬の諍いを目の前で見せられて。

 ――いや、まぁ、俺に見せなかっただけで、珍しいことじゃなかったのかもしれないけど。

 自分は年下だから。だから見せなかったというだけで、成瀬や篠原たちに対しては違ったのかもしれない。珍しいことでもなかったのかもしれない。
 どうにか、そう思おうとしてきたけれど。
 でも、と皓太は溜息まじりにペン先でノートを叩いた。どう考えても、あの夜からずっと喧嘩してるよな、あのふたり。
 あからさまな喧嘩をしているわけではない。親しい人間しか気づかないだろうレベルの変化だ。傍目にはなんの問題もない状態に見えているにちがいない。
 けれど、わかる人間にはわかる程度にはおかしいのだ。また溜息がこぼれそうになって、慌てて呑み込む。ふたり部屋というのは、こういうときに不便だと感じる。そう思うと、あのふたり、気まずくはないのだろうか。現在進行形で同じ部屋なのに。

 ――茅野さんは気にするなって言ってたけど。

 それができたら、最初からこんな苦労はしていない。だから、昨日の夜、点呼の報告がてら、ちらりと聞いてみたのだ。
 どうにかしてくれ、という懇願も込めたのだが、「ほうっておけ」の一言であしらわれてしまった。
 だから、それができたら困ってないし、聞きもしないんだって。という無言の圧を送り続けた結果、さすがに憐れになったらしい。
 まぁ、なんだ、と茅野は宥めるように言い足した。

 ――もう少ししたら、成瀬が生徒会の業務で学校を空ける日があるから、ちょうどいい冷却期間になるんじゃないか。

 なんでも、姉妹校交流の一環で、提携校の女学院に一日顔を出すことになっているらしい。物理的に距離を置けば、お互い冷静になるのではないか、ということらしかった。
 茅野のほうでなにかしてくれる気はない、ということでもあるらしかったが、あのふたりのことに口を出すほうが野暮だとまで言われてしまえば、それ以上の泣きつきはできなかった。
 その一日空けると言っていた日程が、明日である。こうなれば、戻ってくるころには、案外となにもなかった態度になっていると期待するしかない。
 皓太はどうにかそう思い切ることにした。
 翌日、その期待は予想外のかたちで裏切られることになるのだけれど。
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