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第三部
パーフェクト・ワールド・エンドⅡ 1 ⑤
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「俺を、落としたいんだろ」
水城に向かって、彼は言い放った。アルファの顔で。
「その気があるなら、こんな姑息なことばかりしてないで、リコールでもなんでもすればいい」
群衆の中で息を呑む音が妙に大きく響いた。リコール。
――リコールって……。
「俺に勝ったら、おまえの好きにしたらいい。でもな、それまでは、ここは俺の学園だ」
「それまでは、ですか」
もう水城は、弱った顔を見せなかった。先ほどのように、あるいは、もっと前。廊下で自分と揉めたとき、仲裁に入った成瀬を前にしたときのように被害者ぶってアルファに守らせるのだろうと思っていたのに。
花が咲いたような笑顔とはまったく違う不敵な笑みが、天使と評される顔に浮かぶ。
「いいですよ。受けて立ちましょうか。あなたが終焉を望むなら」
ハルちゃんという慌てた声にも、取り巻きたちの動揺した雰囲気にも、水城はいっさい動じなかった。
「あなたが僕を嫌いなように、僕もあなたが嫌いです」
いっそ潔いほどに、そう、はっきりと宣言する。
「それが、僕があなたを潰したい理由のすべてです。本当に心の底から大嫌いだ」
「そこまで思ってもらえるなんて、光栄だな」
むき出しの敵意に対して、成瀬はにこりとほほえんで応じた。
「きみが正当な手続きさえ踏むのなら、俺はなにも文句はないよ。好きにしたらいい」
「よくわかりました」
そう言って、水城もまたほほえんでみせた。
「そうですね。あなたがそう言うのなら、ぜひそうさせていただきます」
それが最後だった。まっすぐに前を向いたまま、悠々と行人たちの横を通り過ぎていく。これから授業が始まるというのに、その足は寮に向かっているようだった。
一拍遅れて、「ハルちゃん」と戸惑った声を上げながら、取り巻きたちが追いかけていく。水城の攻撃的な一面を見たのが、はじめてだったのかもしれない。
行人はかつて見たことがあった。けれど、それは、うまく当事者である自分以外には隠されていたものだった。そうやって被害者然とした態度を取ることが、水城の常だった。それなのに、今日はいったいどうしたというのだろう。
成瀬の非難が、水城の感情に火をつけたのだろうか。そう思うこともできたけれど、違うような気もした。
人の目のある場所で、ああいった言動を選んだのは、自分の野心を隠すつもりがなくなったからではないだろうか。
宣戦布告のようなものだったのではないかと思えてしまって、行人は、黙って水城を見送った成瀬に視線を向けた。言葉にならない不安が募ったのだ。声をかけようとして、けれどできなかった。
「あ……」
呼び止めようとした指先が宙に浮く。突き刺さる視線も、ざわめきも、なにもかも気にせず、成瀬もまた校舎へと向かっていった。
――そうか。
そうだよな。安堵なのかなんなのか、よくわからないまま行人は内心でそう繰り返していた。あの人が自分と同じだなんて、あるわけがなかった。高藤の言うとおりで、自分が心配する必要もなにもなかったのかもしれない。
あの人は、間違いなくここの「王」だったのだ、と。
大丈夫、という問いかけに、行人ははっと我に返った。最中ずっときれいに気配を消していた男が、さも気遣うようにこちらを見下ろしている。
今あったばかりのことに対する驚きも、過分な心配もなにもない落ち着ききった態度。
――もしかして、こいつ昨日の段階で知ってたんじゃ?
覚えた疑惑に、ふつふつと苛立ちが湧き上がってくる。八つ当たりに近いことは重々承知しているが、だからなんだという気分でもあった。
「おまえ、知ってたんだろ」
「知ってたって、……、いや、昨日は本当に話してないよ、成瀬さんとは。話してない」
感情そのままの棘々しい調子に、高藤が慌てて首を横に振る。
「ただ、まぁ、その、なんというか。昨日言ったとおりで、転んでもただでは起きない人だから」
その、まぁ、なにか派手なことやるんじゃないかなぁ、とは思ってたけど、と、続いたそれに思わずジト目になる。
「だから、黙って、ずっと見てたって?」
「いや、だから、それこそ昨日言ったとおりで、俺が口出すとあの人絶対……」
と言ったところで高藤の弁解が止まった。その視線は行人を通り越して、崩れないままの人垣の奥に向いている。その行方を追って、「あ」と行人は小さく叫んだ。
「茅野さん!」
水城に向かって、彼は言い放った。アルファの顔で。
「その気があるなら、こんな姑息なことばかりしてないで、リコールでもなんでもすればいい」
群衆の中で息を呑む音が妙に大きく響いた。リコール。
――リコールって……。
「俺に勝ったら、おまえの好きにしたらいい。でもな、それまでは、ここは俺の学園だ」
「それまでは、ですか」
もう水城は、弱った顔を見せなかった。先ほどのように、あるいは、もっと前。廊下で自分と揉めたとき、仲裁に入った成瀬を前にしたときのように被害者ぶってアルファに守らせるのだろうと思っていたのに。
花が咲いたような笑顔とはまったく違う不敵な笑みが、天使と評される顔に浮かぶ。
「いいですよ。受けて立ちましょうか。あなたが終焉を望むなら」
ハルちゃんという慌てた声にも、取り巻きたちの動揺した雰囲気にも、水城はいっさい動じなかった。
「あなたが僕を嫌いなように、僕もあなたが嫌いです」
いっそ潔いほどに、そう、はっきりと宣言する。
「それが、僕があなたを潰したい理由のすべてです。本当に心の底から大嫌いだ」
「そこまで思ってもらえるなんて、光栄だな」
むき出しの敵意に対して、成瀬はにこりとほほえんで応じた。
「きみが正当な手続きさえ踏むのなら、俺はなにも文句はないよ。好きにしたらいい」
「よくわかりました」
そう言って、水城もまたほほえんでみせた。
「そうですね。あなたがそう言うのなら、ぜひそうさせていただきます」
それが最後だった。まっすぐに前を向いたまま、悠々と行人たちの横を通り過ぎていく。これから授業が始まるというのに、その足は寮に向かっているようだった。
一拍遅れて、「ハルちゃん」と戸惑った声を上げながら、取り巻きたちが追いかけていく。水城の攻撃的な一面を見たのが、はじめてだったのかもしれない。
行人はかつて見たことがあった。けれど、それは、うまく当事者である自分以外には隠されていたものだった。そうやって被害者然とした態度を取ることが、水城の常だった。それなのに、今日はいったいどうしたというのだろう。
成瀬の非難が、水城の感情に火をつけたのだろうか。そう思うこともできたけれど、違うような気もした。
人の目のある場所で、ああいった言動を選んだのは、自分の野心を隠すつもりがなくなったからではないだろうか。
宣戦布告のようなものだったのではないかと思えてしまって、行人は、黙って水城を見送った成瀬に視線を向けた。言葉にならない不安が募ったのだ。声をかけようとして、けれどできなかった。
「あ……」
呼び止めようとした指先が宙に浮く。突き刺さる視線も、ざわめきも、なにもかも気にせず、成瀬もまた校舎へと向かっていった。
――そうか。
そうだよな。安堵なのかなんなのか、よくわからないまま行人は内心でそう繰り返していた。あの人が自分と同じだなんて、あるわけがなかった。高藤の言うとおりで、自分が心配する必要もなにもなかったのかもしれない。
あの人は、間違いなくここの「王」だったのだ、と。
大丈夫、という問いかけに、行人ははっと我に返った。最中ずっときれいに気配を消していた男が、さも気遣うようにこちらを見下ろしている。
今あったばかりのことに対する驚きも、過分な心配もなにもない落ち着ききった態度。
――もしかして、こいつ昨日の段階で知ってたんじゃ?
覚えた疑惑に、ふつふつと苛立ちが湧き上がってくる。八つ当たりに近いことは重々承知しているが、だからなんだという気分でもあった。
「おまえ、知ってたんだろ」
「知ってたって、……、いや、昨日は本当に話してないよ、成瀬さんとは。話してない」
感情そのままの棘々しい調子に、高藤が慌てて首を横に振る。
「ただ、まぁ、その、なんというか。昨日言ったとおりで、転んでもただでは起きない人だから」
その、まぁ、なにか派手なことやるんじゃないかなぁ、とは思ってたけど、と、続いたそれに思わずジト目になる。
「だから、黙って、ずっと見てたって?」
「いや、だから、それこそ昨日言ったとおりで、俺が口出すとあの人絶対……」
と言ったところで高藤の弁解が止まった。その視線は行人を通り越して、崩れないままの人垣の奥に向いている。その行方を追って、「あ」と行人は小さく叫んだ。
「茅野さん!」
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